オバマ大統領がTPPに拘る理由

今回の、安倍首相の訪米で、安全保障というのは今のアメリカにとって軍事力だけではなく、広い意味であること、を日本はっきりと認識することになるだろう。

2013年2月安倍首相が初めて訪米したし際のバマ大統領との共同宣言は、「TPP」についてだけであった。しかも、2014年4月オバマ大統領が訪日した際、オバマ大統領の安倍首相との会談のポイントは「TPP」であった。銀座の有名寿司店、すきやばし次郎での夕食においても、オバマ大統領は「TPP」に関するファイルを開けて議論を続けようとしたことはすでに広く知られている。

しかも日米首脳会談に先駆けて、USTRのフロマン代表が訪日し甘利大臣とTPP協議を行い、その前後には、日米の役人による実務レベルの会議も行われている。

さらに、アメリカ議会もここにきてTPPについて理解を示している。議会は大統領に交渉を一任する権利を付託するTPAをオバマ大統領に認めることに二の足を踏んできた。しかし、ここにきて、TPAを認める動きが加速している。

なぜ、そこまでアメリカはTPPに拘るのか?

アメリカ政治の奥ノ院にアメリカ研究者と同待遇で昨年まで3年間過ごした私にとっては、ある意味至極当然である。その理由を3つに大別して紹介しよう。

1つは、冷戦が終了し、アメリカは軍拡は時代の流れではないとしている。その代りに、経済制裁を多様化しようとしている。冷戦時代と異なり、ロシアとも中国との経済活動も増加している。中国に関しては、最大の貿易国になりつつある相手である。そこで、時代に合わせた、新たな経済制裁の基盤を作ろうとしている。

2つ目は、中国が国際的な経済ルールを作ろうとすることには歯止めをかけたいと思っていることだ。アメリカ議会が最近、オバマ大統領にTPAを認める方向にギアをかけたのは、明らかに中国のAIIB創設の影響である。資本主義のリーダーであるアメリカは、共産党率いる不透明な中国がその地位を狙うことは認められないと感じている。

3つ目は、アメリカは旧共産圏との貿易が増える中で、それらの国々と軍事的安全保障と経済の枠組み作りで対応しようとしていることである。貿易量が増えれば増えるほど、経済と軍事の2つの安全保障というセキュリティ・ネットが必要であると考えている。

冷戦が終わった世界秩序のなかでは、アメリカにとって日本が加入するTPPは経済面の安全保障なのである。

とりわけ中国はアメリカに次ぐ第二位の経済圏であるが、共産党独裁の不透明な経済を持っている。しかも、南シナ海と東シナ海で領海拡大政策をとっている。アメリカは経済関係が深いからと言って、中国の軍事的な動きを無視することは出来ない。その一方で、中国と言う市場は大事にしたい。

ここで登場するのが、TPPということになる。

安全保障の概念はアメリカでは拡大している。技術が進み、基地、ミサイルといったリアルな軍事力だけが抑止力にならない時代になっている。そこで、日米同盟の枠組みにおける宇宙とサイバー・セキュリティの協力関係づくりにも、アメリカは非常に力を入れている。

「未来志向」という言葉には、従来の日米同盟に経済を使った安全保障と技術革新にともなった新しい安全保障の概念が加わっている。TPPの交渉は各国の産業事情と大きく絡むので経済のための手段かと思われがちであるが、アメリカは新しい安全保障の中核として位置づけている。

そのため、最大のパートナーとなり得る日本の首相との首脳会談となると、オバマ大統領はTPPの議論に終始してしまうのである。