先日、ワシントンDCにあるシンクタンクCSISで、ヘンリー・キッシンジャー博士が講演を行った。新著「ワールド・オーダー」についての内容である。

VIP席には、中国大使やスコウクロフト元国務長官らの顔が見える。

シリアとイラクに広がるイスラム国家が問題になり、ウクライナとロシアとの問題も収束せず、イスラエルとパレスチナも大きく衝突していたときだけに、講演は中東・ヨーロッパについてが中心だった。

最初の会場からの質問は、インドとパキスタンの関係についてだった。リアリストのキッシンジャーらしく、基本的には両国の関係と話した。

日本だけではなくアジアについて、いまだ、キッシンジャーは触れていなかった。そこで、覚悟を決めて、私は手を上げた。一番前に座っていたので、司会のCSISのハムレ所長としっかりと目が合った。次はあてるよ、というサインがあり、緊張は高まる。キッシンジャーに質問するとなると、いつもより緊張する。

「日中関係は緊張していますが、日中のリーダーに言いたいことはありますか?」と質問した。

キッシンジャーは、「東北アジアはお互いに歴史を共有してきたが、第二次世界大戦でその関係は大きく変化した。」と語り始め、この地域における緊張の度合いは、それぞれの国がどのような関係を構築するかにかかわっているとし、北朝鮮問題を例に挙げた。キッシンジャーは、北朝鮮問題は東北アジアの国の関係の帰結として存在していると語る。「この地域においてアメリカの果たす役割はある」と語るが、「東北アジアの国々は、目先の利益にとらわれることなく、長期的展望を持ちさらに関係改善に向けて努力すべきである」と釘を刺すことも忘れなかった。

続いて、北朝鮮と中国の関係についての質問があがった。キッシンジャーは、 「中国は、中国の論理で世界の均衡を目指している」としたうえで、「このことは中国がアメリカの国益を害することではない」と中国の動きに理解を示した。さらに、「私は、中国は北朝鮮が核を持たないほうが良いと思っている」とした。また、キッシンジャーは、「米中間にはグローバルな視点での衝突はない」としたうえで「万が一、ぶつかれば、悲惨なことになる」と釘を刺した。

キッシンジャーは、ニクソン政権下での中国との国交回復の立役者であり、親中派として知られている。このフォーラムでも、真ん中の一番前の席に駐ワシントン中国大使は座っていた。キッシンジャーが入場した際、舞台に上がる前、数人の顔なじみの人と挨拶を交わしていたが、中国大使はそのインナーサイクルに入っていた。さらに、中国についての質問が最初に上がった際には「私が答えるよりも、ここにいる中国大使が答えたほうが良いだろうが、」と中国大使の存在を紹介した。キッシンジャーが中国よりと言われることは、今回のフォーラムの議論でも如実に現れていた。

日中については「歴史」と言う言葉をつかったうえに、「その地域の関係にかかっている」の表現から推測すると、それぞれの国、つまり日本と中国でぶつからない努力をすべき、という立場である。さらに、そこには日米同盟なる言葉は登場しなかった。

アメリカでは、中国とは決して軍事的にぶつからない、ということが党派を超えた共通認識になりつつあるようだ。

話はそれるが、キッシンジャーは御年92歳。執筆したこともさることながら、フォーラムで話し、かつ会場からの質問に答え、本を持った長蛇の列にサインも長時間応じていた。多少、耳は遠いところを除けば、全くの元気だ。

私が、一番したかった質問は、実は、「お元気の秘訣を教えてください」だったが、それを聞く勇気は残念ながら持ち合わせていなかった。