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福岡で話題の豚骨ラーメン店が「鉄の羽釜」を使う想定外の理由とは?

山路力也フードジャーナリスト
『二代目けんのすけ 本店』(福岡市)の「ラーメン」は、超濃厚なのにしつこくない。

再開発進む福岡天神に「正統派豚骨」の新店

再開発の進む天神エリアに、2020年12月オープンした『二代目けんのすけ 本店』。
再開発の進む天神エリアに、2020年12月オープンした『二代目けんのすけ 本店』。

 九州屈指の大繁華街「福岡天神」エリアは、100年に一度と言われる街の大変革の渦中にある。2024年の完成を目指して、街の再開発プロジェクト『天神ビッグバン』が進行している天神で、2020年12月に一軒のラーメン店がオープンして注目を集めている。

 店の名前は『二代目けんのすけ 本店』(福岡県福岡市中央区天神1-13-13)。2008年に創業した『ラーメンけんのすけ』の流れを汲む店で、現在福岡市内に複数の店舗と業態を構えている人気店だ。創業の地である東区若宮にあった本店を、今回天神に移転して再オープンさせた。

 店主の北村和也さんは、前身である『ラーメンけんのすけ』の立ち上げに参画。人気ラーメン店『博多新風』で更なる経験を積んで店長まで務めた。そして『けんのすけ』の後を継ぐ形で、2013年に『二代目けんのすけ』として独立を果たした。

鉄の羽釜で炊き上げる濃厚豚骨スープ

厨房に置かれた大きな鉄製の羽釜で自慢のスープを炊き続けている。
厨房に置かれた大きな鉄製の羽釜で自慢のスープを炊き続けている。

 看板メニューの「ラーメン」は、豚骨と水だけを使い、濃厚ながらも臭みのないまろやかな味わいを併せ持つ新感覚の博多ラーメン。真新しい厨房に置かれた二台の大きな鉄の羽釜で豚の大腿骨と背骨のみを炊き上げたスープは、日々継ぎ足していくことで旨味がどんどん深くなっていく。低加水の自家製ストレート麺との絡みも抜群だ。

 北村さんが目指した味はこってりし過ぎず、物足りなさもなく、しっかりと乳化して豚骨の旨味を搾り取ったような味。羽釜に入るのは豚の大腿骨と背骨と水だけで、前日のスープをベースに骨を足していく「呼び戻し」の製法で、毎日旨味を重ね続けていくスタイル。2台の羽釜は片方にフレッシュな骨、もう片方に古い骨が入っており、濃度を調整しながら合わせて一杯のラーメンに仕上げていく。

 スープを取るのに「寸胴」を使うのか「羽釜」を使うのかは、その店によって異なる。一般的に寸胴の方が扱いやすく、羽釜の方が難しいとも言われるが、豚骨ラーメン店では羽釜を選んで使っている店も少なくない。

 一般的に羽釜を使っているラーメン店は老舗が多く、創業時から羽釜を使い続けているというケースがある。また、かまどをしっかりと組んでそこに羽釜をはめ込むため、熱効率が良くエネルギーロスが少ないのも利点だ。さらに底部が平たい寸胴と異なり、羽釜の場合は底部が半球状になっているため、釜の中での対流が起こりやすい構造上の利点もある。

「鉄の羽釜」にこだわる理由とは

毎日大きな鉄の羽釜と格闘している『二代目けんのすけ』店主の北村和也さん。
毎日大きな鉄の羽釜と格闘している『二代目けんのすけ』店主の北村和也さん。

 「僕も最初は寸胴でラーメン作りを覚えましたが、羽釜に魅力を感じて変えました。羽釜を使う理由は、対流が起こりやすいというのは当然ありますが、僕が感じているのは圧倒的な火力なんです。寸胴などよりも熱効率が良く、強火でガンガン炊ける。それによって灰汁(あく)を取らなくても臭みが飛ぶんです」(二代目けんのすけ 店主 北村和也さん)

 ちなみに、羽釜の素材は主に「鉄製」と「アルミニウム製」がある。言うまでもなく、軽量で扱いやすいのはアルミ製だが『二代目けんのすけ』の羽釜は、重くて扱いづらい鉄製のものだ。なぜ『けんのすけ』ではアルミ製ではなく鉄製の羽釜を使っているのだろうか。

 「まったく根拠はないのですが、鉄の方が旨いスープが取れる気がするんですよ。羽釜を使われている先輩方も皆さん鉄製の羽釜を使っていらっしゃいますし、何よりスープに気合いというか、作り手の思いが入る気がして。なので僕はこれからも鉄製の羽釜を使い続けていきたいと思っています」(北村さん)

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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