緊急事態宣言ようやく解除 飲食店経営者のリアルな叫び

銀座で百年近く続く老舗も新しい時代への対応を迫られている

二度の延長を経てようやく解除から1週間

 新型コロナウイルス感染症拡大防止のために、1月から発出されていた緊急事態宣言が2ヶ月以上もの期間を経てようやく解除となった。当初は1ヶ月間の予定だったが、東京や大阪など10都府県に関して解除が見送られて3月まで延長。その延長期限も2週間再延長となって、3月21日にようやく解除となった。

 長引くコロナ禍によって、飲食業界では閉店や廃業が相次ぎ、雇用も守れなくなっている。さらに食材の生産者をはじめとする取引業者や流通業者にもダメージを与えており、その経済的損失は膨大だ。この状況下において、飲食店経営者はどういう思いで日々の営業を行っているのか、これまでも飲食店経営者からリアルな声を聞いてこの場で公開してきたが、今回は緊急事態宣言がようやく解除となった東京で飲食店を営む経営者に率直な意見を聞いてみた。緊急事態宣言が解除されて1週間経った今、飲食店を営む人たちは何を思い、何を考えて日々の営業をしているのだろうか。

『スパイス&スマイル』:来てくださいと言えない状況がとても辛い

スープカレーの人気店『スパイス&スマイル』(曙橋)は2019年に移転したばかり
スープカレーの人気店『スパイス&スマイル』(曙橋)は2019年に移転したばかり

 新宿区四谷荒木町で人気を集めるスープカレーとスパイス料理の店『スパイス&スマイル』(東京都新宿区荒木町20-17)は、2019年の年末に文京区から移転したばかりのタイミングでコロナ禍に突入。オーナーシェフの黒川真緒さんは戸惑いを口にする。

「移転して直後のタイミングでコロナが発生しましたが、荒木町の人たちにお店のことを知って貰わなければいけない状態でしたので、営業を休むことは考えていませんでしたが、大々的に来てくださいと言えない状況がとても辛いですね」

 昨年の緊急事態宣言と今回の緊急事態宣言とでは意識の違いを感じたという。

「緊急事態宣言とは言え、昨年よりも緩い規制だったこともあり、宣言中であるという認識が正直薄れていたと思います。二度の延長はダラダラと延期した印象が否めず、効果が十分にあったとは言えないと思います」

 飲食店への時短要請については理解はしながらも、納得がいかない部分もある。

「食事の席での感染リスクが高いと言われている中での時短要請で、私のような素人は感染拡大防止に対して何が正解か分からないので、専門家や国の言うことを聞かなければ、従わなければという思いもあって時短をしています。ただ、昼間のカラオケでクラスターが発生したりしている現状もあるので、夜の営業だけ時短するのはどうかなとは思います」

 店として出来る限りの対策はしつつ、客にも協力して欲しいと黒川さんは呼びかける。

「密にならない席数や客数と飲食時間、アクリル板の設置や消毒換気など、店として出来得る対策はこれからも徹底していきます。マスクなしで長時間の宴会や大人数での食事など、感染拡大の危険性はあるので、やはり飲食店側の十分な対策や対応は必要だと思います。そしてお客様にも体調が優れなければ入店を控えてもらうとか、入店時にアルコール消毒をする、マスクをテーブルに置かない、マスクなしで長時間おしゃべりしないなど、最低限のことをお願い出来たらと思っています」

 まだまだ飲食には厳しい状況が続くが、黒川さんは前向きだ。

「現在はランチタイムのお客様が増えつつあり、ディナーも少し増えている気配です。テイクアウトやデリバリーのメニューも充実させて、デリバリーの契約企業も増やしました。私自身、営業が終わってから食事をしたり一杯飲んで帰ることがほぼなくなり、単純に面白くない世界になってしまったなと思っています。しかし、お店でやっていることや商品についてなど、SNSなどで発信し続けて営業を続けていくしかありません。そのためにも今まで以上に魅力的なお店づくりやメニュー作りをしていきたいと思っています」

『Noodle Stand TOKYO』:何のための緊急事態宣言解除なのか

人気ラーメン店『Noodle Stand TOKYO』(原宿)は新メニューの開発に着手した
人気ラーメン店『Noodle Stand TOKYO』(原宿)は新メニューの開発に着手した

 2017年原宿駅前に創業以来、ラーメンマニアのみならずインバウンド客からも圧倒的な支持を受けている人気ラーメン店『Noodle Stand TOKYO』(東京都渋谷区神宮前1-23-26 JINGUMAE COMICHI 2F)も、コロナ禍真っ只中の2020年9月に移転したばかりだった。女将の西巻実穂さんは、原宿という街の特異性をこう語る。

「原宿は家賃も高い上に、海外からの観光客が皆無に。その上、若い人の外出を特に強く自粛要請があったこともあり人出がまばらです。原宿の商業施設内は全日休業の店があったりと、町全体が月を追うごとに閑散としていきました。売り上げは緊急事態宣言中50%以上減です。地元の常連のお客様になんとか支えて頂いておりありがたい限りですが、観光地のデメリットのみが目立つ結果になっております」

 今回の緊急事態宣言に関しては、必要性を感じながら疑問も感じている。

「原宿では3月に入ったあたりから自粛疲れの様子もあり、人出がかなりある日もあって、なんのための緊急事態宣言なのかわからない状態になっていました。最後の2週間は根拠のないあやふやな理由での期間延長を強いられ、無意味だと感じながらも、夜は人出が少なく開店休業状態になるため、泣く泣く時短営業を続けました。緊急事態宣言は解除されても、時短要請が解かれない限りお店を開いても人出がないので営業するだけ損が出てしまいます。なので今は仕方なく時短に従うしかない状況です」

 西巻さんもやはり店だけではなく客側の意識向上が鍵だと考えている。

「そもそも時短要請が続くなら、なんのための緊急事態宣言解除なのでしょうか?時間制限による感染防止の根拠に乏しく、営業時間の短縮が感染防止になるとは思えません。そもそもラーメン店はお一人のお客様も多く、無言でお食事を済まされる方も多数いらっしゃいます。店側の感染防止対策はもちろん、お客様の日頃からの手洗いやうがいなど、一人一人が『かからない』意識を高めることが『うつさない』に繋がるのではないかなと思います」

 しかしながら西巻さんは前向きに日々の営業に取り組んでいる。

「感染症は歴史を見ても必ず収束する日が来ます。体力があるところは今こそ未来を見据えて投資する良い機会だとも思いますし、等身大が見えるところは思い切って事業縮小するのも良い機会だと思います。当店ではデリバリーやテイクアウトに向いた商品として『疫病退散!スタミナ餃子』を開発した結果、店内飲食以外の商品が売り上げの15%ほどになっており、少しずつですが回復してきているように感じます。辛い一面だけを見てしまうと救いがないですが、『いつか終わる』その時に自分が何をしていたいか、もう一度真っ白なキャンバスに描いてみたいと思っております。大変ですがやっぱり飲食業ってどんなときでもワクワクします。一度消えたように感じる人の温もりも、新たな形で触れ合える飲食の形を模索しながら、サバイブしていきたいと思います」

『萬福』:店だけではなく客側にも一定のモラルが必要なのでは

大正時代から続く老舗『萬福』(東銀座)は今回のコロナ禍をどう捉えているのか
大正時代から続く老舗『萬福』(東銀座)は今回のコロナ禍をどう捉えているのか

 大正末期に屋台として創業した銀座の老舗『萬福』(東京都中央区銀座2-13-13)。三代目店主の久保英恭さんは今回の緊急事態宣言や時短要請を冷静に見つめている。

「今回の緊急事態宣言に関しては、そもそも感染者数の数字を下げることが目的なので、おおよその期間を区切ってはいるものの、2回3回と延長されるものと見込んでいました。しかも飲食業が元凶ともとれる発表があり、人々の警戒感は高まっている中、要請に従ってどれほどの数字が下がるものか見守っていました。緊急事態宣言が解除になり営業時間が1時間延びますが、営業時間はやはり多い方が良いでしょう。特に夜の営業が20時終了では、まるで追い出すように閉店していました。しかし傾向として、銀座では夜は早く帰途に就く人が増え、どれだけの集客が増えるものかは不明です」

 多くの常連客がいる老舗であっても、コロナ禍における売上確保には苦慮している。

「売上は通常の5割以上減、徐々に回復といったところでしたが、3月に入りまたかなり減り始めるという現状です。初回の宣言時、かなり持ち帰り注文が増え、慌てて小舟町の折箱屋へ仕入に走るという事が多々ありました。今回は前回に比べ、持ち帰り自体もかなり減っています。弁当は衛生管理や表示など、新たな設備投資が必要であり、個人店では難しい面があります。現在コロナ騒動後、従業員が二人田舎に帰り、この事態下最少人数で店を回しており、大きく舵を切ることは急速には難しいですが、今後の状態を鑑み集客の低迷が続けば、デリバリー方面を拡充することになるでしょう」

 感染拡大防止に努めた営業を続けてはいるが、客の在り方についても感じている部分がある。

「この事態下、カウンター各席のつい立はもとより、電解次亜塩素水供給装置を購入し、手洗いや食卓を拭く布巾などに使い、消毒面ではかなり改善しました。当店では少ないのですが、居酒屋などで見ていてやはり気になるのは、酒を飲んで大声で喋り散らし、他の人へ無頓着な、いわゆる酔っ払いですが、これは店側としてはどんなに対策をしても、客が唾をまき散らしてる以上、何の感染予防効果もないでしょう。酒を飲んで騒がしく喋るなということではなく、やはり一定のモラルが客側としても必要ではないでしょうか。時短要請もこの酔客を飲んでいられぬよう減らすのが目的とも思いました」

 これから先の飲食業はどうなっていくのかも尋ねてみた。

「家庭で食べる食事と違い、外食はやはり店でのふれあいや、知人との交流、雰囲気、様々な料理を選べるなど、楽しいという面があります。よって外食が無くなるという事はないでしょう。しかし、今後事態終息後もコロナウイルスが常在ウイルスとして存在していく中、今まで通りの営業形態も変わっていくものと思われます。器用な日本人は自宅待機中、様々な料理をプロ並みにまで作る事が出来る人などが現れています。安易な料理を提供していた店などは、これにより選択肢から除外されるでしょう」

 百年の老舗はコロナとどう向き合っていくのか、久保さんはこう語る。

「以前、日本は社会主義的資本主義社会と言われて来ましたが、それは過去のこと。戦時の命令が身について守っていた感が否めませんが、やはり日本的モラルがかかっていたかと思います。『グローバルダイニング』の様な大手は会社の存続に関わる事。自由主義国ですから一律な法的措置に対し一石を投じて、各界の議論を活発にして頂きたいものです。当店について言えば、関東大震災後に屋台で創業し、昭和4年に現在地に店舗を構えてすぐ世界金融恐慌、その後大東亜戦争により休業。終戦後、食料統制が続く中、その折その折にある食材を使い営業再開するなど、今回の事態もそうした苦難を乗り越えてきた歴史の一つと思われます。これは当店という括りではなく、日本人全てが乗り越えてきたことなので、それを想い、今回もその折々の現状に最善、できなければ次善と思われる姿勢で対処して、代々続いた店を守り、またお客様に料理を提供し続けたいと思います」

 今回お話を伺った三軒とも、感染拡大を防ぐためには飲食店の対策だけではなく、私たち客側の意識も重要だと訴えた。いくら飲食店が対策をしても客の振る舞い一つで感染は拡大していく。店と客が協力して感染拡大防止に努める必要があるだろう。

 緊急事態宣言が解除されても営業時間短縮の要請は継続されており、飲食店にとってしばらくの間は厳しい状況が続いていくだろう。一日も早く新型コロナウイルスの感染が収まることを祈りつつ、今後も飲食店の取り組みを見守りながらこの場でも引き続き伝えていきたい。

※写真はすべて筆者によるものです。

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