2020年10月、田町駅前にオープンした「えっちゃんラーメン。」は、昔ながらのラーメン店をイメージ。
2020年10月、田町駅前にオープンした「えっちゃんラーメン。」は、昔ながらのラーメン店をイメージ。

新店なのに老舗感?ノスタルジックなラーメン店が続々登場

 師走も押し迫った年末の田町駅前、一軒のラーメン店の前には行列が出来ていた。真っ赤な看板には「中華そば」「もり中華」の文字と、◯の中に「エ」と書かれたマーク。さらにその周りにはラーメンの丼模様でお馴染みの「雷文(らいもん)」が描かれている。長年愛されている老舗かと思いきや、こちらは2020年10月に出来たばかりの新店なのだ。

 店の名前は『えっちゃんラーメン。』(東京都港区芝浦3-1-30 なぎさテラス1F)。同じく神田には『ちえちゃんラーメン』、新宿には『ひろちゃんラーメン!』と、ここ数ヶ月で都内には次々と同系統のラーメン店が登場して話題を集めている。その店名から「ちゃん系ラーメン」とも呼ばれているラーメンは、あっさりとした昔ながらの醤油ラーメンを今風に再現したもの。実はここ数年「ネオノスタルジック」「ネオクラシカル」と呼ばれるラーメンがじわじわと都内に増えているのだ。

 海外にも店舗を構える人気店『MENSHO』グループが、2019年渋谷にオープンさせた最新店『Jikasei MENSHO』(東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコPART1)では、これまで和牛を使った醤油ラーメンをオリジナルの縦型カップに入れて提供する斬新なラーメンを提供していたが、この冬グランドメニューを一新。昔ながらの東京醤油ラーメンをイメージした「ネオノスタルジック」なラーメンに切り替えた。これまでの路線とは真逆のラーメンに舵を切った形だ。

2020年10月『新横浜ラーメン博物館』に伝説的名店『淺草 來々軒』が復活を果たした。
2020年10月『新横浜ラーメン博物館』に伝説的名店『淺草 來々軒』が復活を果たした。

昔ながらの「東京ラーメン」に再び脚光が

 2020年10月、日本初のラーメン集合施設『新横浜ラーメン博物館』にオープンした『淺草 來々軒』は、明治43(1910)年浅草に創業した日本のラーメンの草分け的存在の名店を復活させたもの。あっさりとした醤油味の透明なスープに縮れ麺という、いわゆる「東京ラーメン」の原点の味が1世紀もの時代を経て奇跡の復活。ラーメンファンをはじめ多くの人が詰め掛け、連日盛況になっている。「東京ラーメン」が再び注目を集めるようになったのだ。

 東京は日本はもちろん世界で最も最先端のラーメンが集まる街だ。同時に「つけ麺」「鶏白湯」「ベジポタ」「水鳥系」など、毎年のように新たなトレンドを生み出し続けている情報発信地でもある。クラシカルな老舗のラーメンから最先端のラーメンまで、あらゆるラーメンが揃っている東京だが、古くから愛され続けている煮干しが香る醤油スープに縮れ麺といった「東京ラーメン」の存在感は薄かった。バラエティ豊かな数多くのラーメンが集まるがゆえに、ご当地ラーメンとも言うべき「東京ラーメン」が埋もれてしまっていた。

 私は世界一のラーメンの街である東京で、古くから愛されている「東京ラーメン」を再評価すべきであるという思いから、2008年に『トーキョーノスタルジックラーメン』(幹書房)という本を上梓した。手前味噌になるが、拙書をきっかけに「ノスタルジックラーメン」という概念が広まり、年輩の人は懐かしさを覚えつつ、若い世代には新しいラーメンとして捉えられ、「ノスラー」や「ノス活」という文化も生まれた。札幌では味噌ラーメンが、博多では豚骨ラーメンが人気を博しているように、東京では東京ラーメンがもっと脚光を浴びるべきなのだ。

ネオノスタルジックラーメンブームを牽引する『ラーメン大至』(御茶ノ水)と『中華そば勝本』(水道橋)。
ネオノスタルジックラーメンブームを牽引する『ラーメン大至』(御茶ノ水)と『中華そば勝本』(水道橋)。

2021年は懐かしいのに新しい「ネオノスタルジックラーメン」の時代へ

 90年代後半からラーメンは劇的に進化し続けてきた。厳選された材料が使われるようになりスープのクオリティが格段に上がり、スープの進化に合わせるかのように麺も進化した。今までラーメンには使われなかったような素材に挑戦したり、異なるジャンルの技法なども取り入れられて来た。東京ラーメンはその進化に取り残されて、日の目を見ることはなかなかなかった。

 しかしながら、東京ラーメンの代表格である『中華そば春木屋』(東京都杉並区上荻1-4-6)は、戦後間もない1949(昭和24)年に創業して以来、今もなお行列を作り続ける都内屈指の人気店だ。時代の嗜好に合わせて、材料や製法などを常にブラッシュアップし続けているからこそ、最先端のラーメンと比較しても全く古さを感じさせることがない。都内には春木屋と同じように今も現役バリバリの老舗が点在している。そして新たに「東京ラーメン」を作る店も増えて来た。東京ラーメンの灯は消えていなかったのだ。

 空前のラーメンブームと言われて四半世紀が経とうとしている。時代は常に動き続け、歴史は繰り返す。今、ラーメン店を営む多くの店主たちが幼い頃に食べたラーメンは、ラーメンブームより前のラーメンだ。現在進行形の現代ラーメンと比べれば、当時のラーメンは味も弱く製法も簡易である。自分たちが慣れ親しんでいた味を、現代のラーメンの技法やアプローチで再構築したいと考えるのは至極当然なことであり、それが「ネオノスタルジックラーメン」を産んだのではないか。

 東京ラーメン再興の準備は整った。2021年、東京のラーメンシーンを席巻するのはネオノスタルジックな新しい解釈の東京ラーメンだと断言してしまおう。

※写真は全て筆者によるものです。