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『大つけ麺博』はなぜ100店舗のラーメン店を集結させたのか?

山路力也フードジャーナリスト
今年の『大つけ麺博』は1ヵ月で100店舗が出店する。

今年で11年目を迎える二大ラーメンイベント

今年で11回目を迎える『東京ラーメンショー』は11月4日まで駒沢オリンピック公園で開催中
今年で11回目を迎える『東京ラーメンショー』は11月4日まで駒沢オリンピック公園で開催中

 全国の人気ラーメン店が一同に会する、いわゆる「ラーメンイベント」が開催されるようになって久しい。地方都市では十年以上前から単発的に行われており、東京などで人気の味が地方でも楽しめるという企画の面白さと、一方で町興し的な地域活性化の役割も担っていたラーメンイベントだが、それが東京に逆輸入される形で行われるようになったのは2009年のこと。『東京ラーメンショー』と『大つけ麺博』という二つの都市型ラーメンイベントが相次いで初開催された2009年は、東京のラーメンイベント元年と言っても良い。

『大つけ麺博 美味しいラーメン集まりすぎ祭』も11月4日まで新宿大久保公園で開催中
『大つけ麺博 美味しいラーメン集まりすぎ祭』も11月4日まで新宿大久保公園で開催中

 今年も『大つけ麺博 美味しいラーメン集まりすぎ祭』(10月3日〜11月4日:新宿大久保公園)と、『東京ラーメンショー2019』(10月24日〜11月4日:駒沢オリンピック公園)の二大ラーメンイベントが開催されている。東京のラーメンイベントもまる10年が経ち、今年は11年目を数えることとなった。10年前と今では時代が違うため、ラーメンイベントに限らず何事においても、同じスタイルのままでは時代にマッチしない。特にこの10年はスマートフォンの急速な普及と進化によって、人々のライフスタイルが一変した。いかに時代のニーズをキャッチしていくかが問われている。

進化し続ける『東京ラーメンショー』と『大つけ麺博』

 『東京ラーメンショー』は常に正統進化を続けている、ある意味でラーメンイベントのお手本のようなイベントだ。外国人観光客の増加に伴い英語によるガイドマップを配布したり、キャッシュレスに対応してクレジットカードの利用も出来るようになった。さらに初出店の県や店舗の掘り起こしを進め、さらに出店が難しい店舗や、出店のないご当地ラーメンを食べて欲しいという思いから、日本ラーメン協会員が中心となったコラボレーションラーメンという形で、全国のご当地ラーメンを再現するブースを出店するなど、今までに出店していない店や味を提供して好評を得ている。

『大つけ麺博』で生まれた「SNS映えする写真が撮れるブース」
『大つけ麺博』で生まれた「SNS映えする写真が撮れるブース」

 一方の『大つけ麺博』は毎年革新的な挑戦を重ね続けているラーメンイベントだ。そもそも『大つけ麺博』の企画が「ラーメンばかりのラーメンイベントの中で、つけ麺だけのイベントをやったらどうなのか」という疑問から生まれたものだった。食べた人に好きな店を投票して貰い優勝を決める仕掛けや、携帯撮影用の専用ブースの設置、つけ麺とラーメンを対決させる企画、定額による食べ放題の施策、さらには提供するラーメンやつけ麺のサイズを小振りにして、販売価格も500円にするという企画など、これまでも『大つけ麺博』は既存のラーメンイベントとは異なるアプローチをいくつも仕掛けてきた。

「世界最大」全国100店舗を集結させた理由とは

今年の『大つけ麺博』は一ヵ月間で合計100店舗が入れ替わり出店する
今年の『大つけ麺博』は一ヵ月間で合計100店舗が入れ替わり出店する

 そして今年の『大つけ麺博』は「美味しいラーメン集まりすぎ祭」というタイトルで、一ヵ月間の開催期間で出店店舗数がラーメンイベント史上最大の100店舗となる。今年はなぜこのような企画になったのか、大つけ麺博のプロデューサーでもあり、イベントの運営を担当する株式会社ブルースモービル代表取締役社長の井上淳矢さんにお話を伺った。

ー毎年新しいアイディアでイベントを開催されていますが、今年は特に大きく変えたなと感じています。

『大つけ麺博』プロデューサー井上淳矢さん「2009年に始めた第○陣というお店が週替わりで入れ替わっている方式は、私たち『大つけ麺博』が初めて取り組んだスタイルでした。その後、各地で雨後の筍の様に発生したラーメンイベントに模倣されましたが、そのスタイルを変えることは出来ないかなと思いながら10年やって来まして、11年目になる今年はそのスタイルを変えるにはちょうど良いかなと思い、全く新しいスタイルにしました」

スタッフTシャツには出店する100店舗のロゴがずらりと並ぶ
スタッフTシャツには出店する100店舗のロゴがずらりと並ぶ

ー1ヵ月間で100店舗というアイディアはどこから生まれたのでしょうか。

井上さん「今回のイベントでは、最短1日〜最長5日という枠で次々に店舗が入れ替わっていく形となりますが、最大の狙いは『出店するお店側に負担が少ない』という事です。これまでのスタイルだと、お店によっては一週間ものあいだ店舗を閉めないとならない事もありました。それでも出店したいと言う店主のお店は良いのですが、大多数の店主は経営者として不安になります。出店したいという思いがあっても、常連さんが離れるのではないか?イベントで大赤字をだしたら?などなど。しかし、2〜3日の枠を多くすることで多少はその思いが緩和されて、お店側も出店しやすくなったのではないかと思っています」

ー今回は初出店のお店が多くなったと思うのですが。

井上さん「10年前に始めた頃は、出店して下さった店主さんたちは皆20代後半から30代前半でした。それが、10年も経つとみんな40歳を越えて大社長になり、ラーメン界も芸能界と同じように上が詰まってしまっている状態になっています。その空気感を打破し、若い店主達に数多く出店してもらい、向こう10年のスターを発掘したいという想いも強くあります。イベントを踏み台にして大きく羽ばたいてもらう事によってその前の世代も押し上げますし、業界全体の活性と繁栄もあるのではないかと思っています。それが、東京のド真ん中でラーメンイベントをやる意義かなとも思っています」

大つけ麺博プロデューサーの井上淳矢さん。本業はテレビ制作会社の社長だ
大つけ麺博プロデューサーの井上淳矢さん。本業はテレビ制作会社の社長だ

ーしかし、100店舗というのは思い切った数字だと改めて思います。

井上さん「今回は良い意味で…ようやく『大』つけ麺『博』になったと思っています。今までは『大』と付けていながら、30数店舗でしたし、『博』と付けるほどでも無かったんです。今年の出店店舗数は100店舗ですので、ようやく博覧会、つまりは見本市になれました。ぜひ、会場で知らないお店を味見して、実際の店舗に足を運んでいただきたいです。スタンプラリー企画もありますので、死ぬ気でコンプして欲しいです」

 常に進化し続けるラーメンイベント『大つけ麺博』。プロデューサーの井上さんのアイディアの源は「現状打破」に他ならない。同じことをやり続けているとマンネリ化して、客側はもちろん出店側も運営側も予定調和の中で馴れ合いが起こり、面白いものは生まれないと考えているのだ。「どうしたら面白くなるか」「どうしたら楽しいイベントになるか」ということだけを突き詰めた『大つけ麺博』。今年も連日連夜盛況が続いている。

※写真はすべて筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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