なぜ人は豚骨ラーメンを欲してしまうのか?

やっぱり、豚骨が食べたい。

衰えを知らない豚骨ラーメン人気

『博多一風堂』は国内と海外の店舗数がほぼ同数となっている
『博多一風堂』は国内と海外の店舗数がほぼ同数となっている

 豚骨ラーメンの人気が止まらない。そう書くとラーメン好きの方たちからは、近年のトレンドは「清湯醤油」である、などと異論が上がることだろう。もちろんここ数年のトレンドやブームを振り返ってみても、「つけ麺」「辛麺」「まぜそば」などが新潮流としてもてはやされ、豚骨ラーメンが話題に上ることは少ない。

 しかしながら、豚骨ラーメンは間違いなく人気を集めている。『一蘭』『博多一風堂』『博多一幸舎』『ラーメン凪』など、日本から海外に出店を続けているラーメン店の多くが豚骨ラーメンを主力商品に据えており、海外では「RAMEN=豚骨ラーメン」と言っても良いほどだ。

 また全国の人気ラーメン店が集結する『新横浜ラーメン博物館』で、開業以来唯一営業を続けている『こむらさき』は熊本の豚骨ラーメン店であるし、ラーメン博物館が「平成最後の新店」と銘打ち、25年にわたり口説き続けてきたという『八ちゃんラーメン』は福岡の豚骨ラーメン店である。

『博多一幸舎』は東南アジアを中心に世界各地へ出店を続けている
『博多一幸舎』は東南アジアを中心に世界各地へ出店を続けている

 近年加速度的に店舗数が増えているラーメンのジャンル「横浜家系ラーメン」は豚骨醤油ラーメンであり、ブームが落ち着きながらも着実に店舗数が増えている「つけ麺」も、そのベースの大半は濃厚豚骨魚介である。また濃厚な味わいの「札幌味噌ラーメン」もベースになっているのは豚骨白濁スープであることが多い。

 確かに昨今話題に上がるラーメン店は豚骨ラーメン以外の店が多いが、あくまでもそれは個店レベルでの話であり、ラーメン界全体を俯瞰した時に絶対数として多く支持を集めている(売れている)のは、紛れもなく豚骨ラーメンである。その前提に立った上で、なぜ豚骨ラーメンが人気なのかを考察すると共に、豚骨ラーメンに関する誤解なども解いていきたい。

ラーメンにしかない「豚骨白濁スープ」

アジアにも麺料理は多数あるが、豚骨ラーメンのようなスープは稀有だ
アジアにも麺料理は多数あるが、豚骨ラーメンのようなスープは稀有だ

 ラーメンのスープを素材別に見ると、豚骨の他に鶏ガラや丸鶏、牛骨などの動物系素材や、煮干しや鰹節、鮮魚、貝類などの魚介系素材があり、これらを単体もしくはブレンドしてスープにするところが多い。前述した「横浜家系ラーメン」や「つけ麺」なども、ベースとなっているのは豚骨白濁スープだが、そこに鶏ガラや魚介系素材が加えられている。

 動物系素材を主とするスープで二大勢力と言えば「豚骨スープ」「鶏ガラスープ」だが、豚骨を強火で炊いた濃厚な白湯スープをダイレクトに飲む麺料理はラーメン以外にほとんど見られないのに対して、鶏ガラで取った透明なスープを使った麺料理は中国料理やアジア料理の多くで見られるものである。もちろん日本のラーメンの鶏清湯スープとアジアのそれとは、抽出法や旨味の濃度の違いがあるが、概ね方向性は同じである。逆に中国料理でも豚骨や豚足を白濁させた白湯があるが、基本的には毛湯とブレンドしたり料理の調理過程で使われるものだ。

 端的に言うならば、透明なスープを飲むことは他の料理でも経験出来るが、真っ白く濁った豚骨スープを飲むという行為はラーメンでしか味わえないものなのだ。この白濁した豚骨スープが、海外を含めた多くの人たちにインパクトを与えたのは間違いないだろう。白濁して油分を蓄え旨味が濃厚なスープ、これこそ豚骨ラーメンが人気を集めている最大の理由と言えるだろう。

夜中でも食べることが出来る豚骨ラーメン

福岡県糸島市にある『一蘭の森』はスープ工場を見学して、ラーメンも食べることが出来る
福岡県糸島市にある『一蘭の森』はスープ工場を見学して、ラーメンも食べることが出来る

 博多などの屋台ラーメンを例に取るまでもなく、豚骨ラーメンは夜に食べるイメージがある。前述した豚骨ラーメン店『一蘭』の多くの店舗は24時間営業であるし、チェーン展開している「横浜家系ラーメン」なども多くは明け方まで営業している。都内でも深夜に食べられるラーメン店の多くは「豚骨」「白濁」系である。逆に清湯醤油など透明なラーメンを深夜や明け方まで出している店は、『幸楽苑』などのチェーン店を除くと数少ない。

 この店舗数の差が消費者ニーズから来るものなのかどうかは精査が必要となるが、一般論として夜中に食べるラーメンは飲んだ後の締めに食べたり、遅くまで仕事をしていた人の夜食として利用されることがほとんどだろう。その時にあっさりとした清湯醤油ラーメンと、油分の多いパンチのある豚骨ラーメンとどちらを欲するか、という点も大きいのではないかと邪推する。

 強火で長時間豚骨を炊かねばならず、スープが出来るまでに時間と手間を要する豚骨ラーメンが、なぜ深夜まで営業が出来るのか。チェーンの豚骨ラーメン店の場合、ほぼ100%スープはスープ工場で炊かれたものが店舗に運ばれてくるため、スープを仕込むという作業が軽減されて24時間営業など深夜営業も容易になっているのだ。

豚骨を炊くから白濁しているわけではない

骨を強火で長時間炊けば、豚骨でも鶏ガラでも白濁する
骨を強火で長時間炊けば、豚骨でも鶏ガラでも白濁する

 一般的に博多ラーメンなどの白濁したスープは豚骨で、昔ながらの中華そばのような透明なスープは鶏ガラと思われているが、これは厳密に言えば間違いである。スープが白濁する理由は簡単に言えば強火で炊くことにより、スープ内の水と油分が「乳化(エマルジョン)」することによる。

 逆にスープが透明になる理由は、中国料理の清湯の場合は鶏ガラや廃鶏などを弱火で炊き(毛湯)、そこに豚肉や鶏肉のミンチを加えて炊くことで、肉のタンパク質の凝固作用により不純物を吸着させることによる(清湯)。この手法はフレンチにおけるブイヨンとコンソメの関係とほぼ同じだ。なおラーメンでは毛湯(ブイヨン)の状態のものも清湯(コンソメ)と呼ぶことがほとんどだ。

最近福岡などで増えつつある「豚骨清湯」は、豚骨を白濁させずにスープにしたもの
最近福岡などで増えつつある「豚骨清湯」は、豚骨を白濁させずにスープにしたもの

 つまり、素材が豚骨であっても弱火で濁らせないように炊けば透明(半透明)なスープになるし、鶏ガラでも強火で乳化させれば白濁したスープになる。ここ最近福岡などで増えているのが「豚骨清湯」というジャンルで、豚骨を使っているのに透明なスープが人気を集めている。また、昔ながらの醤油ラーメンの草分けとも言われる浅草の『來々軒』(閉店)のスープは豚骨が主体だったと聞く。

 その一方で、鶏ガラなどを白濁させたスープを使った「鶏白湯ラーメン」は、食べたり聞いたことがある人も多いだろう。真っ白なスープだが、使用しているのは鶏だ。熊本ラーメンなど豚骨ベースのラーメンに鶏ガラを入れているものもある。要するに、スープが白濁か透明なのかは、素材の炊き方によって変わるのだ。

 前述したように、今ラーメンの世界で注目を集めているのは圧倒的に非豚骨ラーメンであることは否定しない。豚骨ラーメンの本場である福岡博多ですら「脱豚骨ブーム」が到来しているほどだ。しかし、現段階において国内国外いずれも最も支持を受けているカテゴリは、豚骨ラーメンもしくは豚骨白濁スープのラーメンたちである。この勢力図が果たして変わるのかどうか、今後も注視していきたい。

※写真はすべて筆者によるものです。