生牡蠣よりも美味しく牡蠣を食べる方法

冬の味覚「牡蠣」は生牡蠣ばかりじゃない

縄文時代から愛されてきた「牡蠣」

生牡蠣が日本で食べられるようになったのは、意外にも明治時代のことだ
生牡蠣が日本で食べられるようになったのは、意外にも明治時代のことだ

 冬の味覚として人気の「牡蠣」。別名「海のミルク」と呼ばれるほどその栄養価は高く、日本では古く縄文時代から食されてきた食材のひとつだ。栄養の面ではビタミン各種はもちろんのこと、タンパク質、カルシウム、リン、ヨード、鉄分などの栄養分が豊富に含まれている。しかしながら、人は栄養面などから好んで食べているわけではない。何よりも牡蠣が人々を惹きつける理由は牡蠣が持つ「旨味」。豊富に含まれるグリコーゲンに、コハク酸やグリシンなどの旨味成分が重なることで、牡蠣ならではの力強く奥深い旨味を楽しむことが出来るのだ。

 古くから日本人に親しまれてきた牡蠣だけに、その調理法も多岐にわたる。そのまま食べる生牡蠣はもちろん、蒸し牡蠣や焼き牡蠣、さらには天ぷら、フライの揚げ物など、様々な表現方法があるのも牡蠣の魅力だろう。そんな中、昨今ではオイスターバーや牡蠣小屋など、牡蠣料理を提供する店が人気を集めているが、どこも生牡蠣を看板メニューに据えている。さらに、牡蠣好きという人の多くは生牡蠣を好んで食べていると感じるのは偏見だろうか。

生牡蠣は明治以降の食文化

牡蠣料理の究極「牡蠣フライ」は、牡蠣の旨味をすべて閉じ込めている
牡蠣料理の究極「牡蠣フライ」は、牡蠣の旨味をすべて閉じ込めている

 私も牡蠣が好きだが、生牡蠣を好んで食べることはない。良く行くお店から薦められたり、珍しい産地の牡蠣などがあれば生で食べることもあるが、基本的には手を出さない。そもそも古くから牡蠣を好んできた日本人だが、生食するようになったのは欧米の食文化が流入してきた明治時代のこと。それまで日本人は牡蠣を生で食べることはまずなかった。

 私が生牡蠣を好まない理由は主に二つ。一つは牡蠣をはじめとする二枚貝が持つノロウイルスを避けるため。もう一つは、そもそも生牡蠣をそれほど美味しいとは思わないからだ。幸いにもこれまでに牡蠣を食べて「当たった」ことはないのだが、食中毒のリスクを冒してまで食べる価値があるとは思わない。もちろん生牡蠣を美味しいという人のことを否定するつもりはないが、生で食べるよりも加熱した方が牡蠣の旨味は凝縮されて美味しさが増す。シンプルに生牡蠣よりも蒸したり焼いたりした方が間違いなく美味い。

 ではどのような食べ方が美味しいのか。私が牡蠣料理の中で究極だと思っているのは牡蠣フライだ。牡蠣の旨味を余すところなく存分に衣の中に閉じ込めた牡蠣フライの美味しさたるや、生牡蠣の美味しさとは比べ物にならないだろう。しかし、牡蠣フライは誰でも知っている料理であり、ここで牡蠣フライについて語ってもつまらない。牡蠣は加熱することで安全になるばかりか美味しくなる。せっかく牡蠣を食べるのであれば、生牡蠣だけではなく違った牡蠣の魅力も感じて欲しい。そんな魅力にあふれた牡蠣料理が世の中にはまだまだあるのだ。

見た目も味も豪快な「牡蠣フライサンド」

『DESERT』(六本木)の「豪快牡蠣フライサンド」
『DESERT』(六本木)の「豪快牡蠣フライサンド」

 六本木の『DESERT』(東京都港区六本木7-15-25 ROPPONGI7thビル2F)は、新鮮な産地直送の素材をふんだんに用いた豪快な料理で人気のイタリアン。野菜は露地野菜を中心に新鮮な野菜のルートを確保。肉や魚類も実際に生産者の下に足を運んでシェフ自ら見極めて来たものを直接取引で仕入れるなど、食材には人一倍のこだわりを持っている店だ。中でもこの店の名物である牡蠣は、シーズンごとに産地を変えることで、年間通して新鮮な牡蠣を味わうことが出来る。生牡蠣はもちろん、焼き牡蠣に蒸し牡蠣も食べ放題出来るとあって、常に店内は牡蠣好きの客で満席だ。

 そんな牡蠣のエキスパートがこの冬新たに投入した新メニューが「豪快牡蠣フライサンド」。その名の通り大ぶりの牡蠣フライをどっさりと極厚のトーストで挟んだサンドイッチ。オリジナルのソースと野菜、そしてジューシーな牡蠣フライが見事なまでに調和する。これは牡蠣フライを単体で食べるよりも遥かに美味しい。アメリカ南部にもケイジャンスパイスを効かせた海老や牡蠣のフライをサンドする「ポーボーイサンド」という料理があるが、それよりもシンプルに牡蠣の美味しさを堪能することが出来るだろう。

戦後から愛され続ける「牡蠣のピラフ」

『レバンテ』(有楽町)の「かきのピラフ(シャトーソース添え)」
『レバンテ』(有楽町)の「かきのピラフ(シャトーソース添え)」

 有楽町の『レバンテ』(東京都千代田区丸の内3-5-1 東京国際フォーラムB1)は、1947(昭和22)年に創業した日本のビアレストランの草分け的存在。鮮度にこだわった生ビールと共に名物なのが「牡蠣」。創業間もない昭和20年代から、牡蠣料理専用のメニューを別に用意していたほど、いち早く東京で新鮮な牡蠣を提供してきた歴史を持っている。旬の時期の一番人気はもちろん牡蠣フライ。三重県浦村産の新鮮な牡蠣を2個入れて一緒に揚げることで、中には牡蠣の旨味がギュッと詰まっている、牡蠣フライ好きには欠かせない逸品だ。

 しかし、この店で牡蠣好きが食べるべき逸品は他にもある。それが「かきのピラフ」だ。元々はトルコ発祥の米料理であるピラフだが、日本では古くから洋食店や喫茶店のメニューとして親しまれてきた。どこか懐かしさも覚えるピラフの上にはプリプリの火入れした牡蠣がたっぷり。最初は牡蠣とピラフをそのまま味わい、途中からオリジナルのシャトーソースをかけながら食べれば、さらに味わいが深くなっていく。

創作意欲あふれる「牡蠣のパテ・ド・カンパーニュ」

『貝殻荘』(神楽坂)の「牡蠣のパテ・ド・カンパーニュ」
『貝殻荘』(神楽坂)の「牡蠣のパテ・ド・カンパーニュ」

 神楽坂にある『貝殻荘』(東京都新宿区神楽坂3-2 2F)は、貝好きの人たちが夜な夜な集う隠れ家ビストロ。店名の通り、貝を中心に新鮮な魚介を使ったメニューが自慢のこの店では、牡蠣をはじめとする旬の貝を数多く取り揃え、オープンキッチンの鉄板を使って目の前で豪快に調理する。

 数あるメニューの中で、ぜひ味わって欲しいオリジナルの一品が「牡蠣を詰めたパテ・ド・カンパーニュ」。フランスの田舎料理が発祥とされるパテ・ド・カンパーニュは、豚肉のミンチとレバーを混ぜて焼き上げるクラシカルなフランス料理だが、そのレバーの代わりにこの店では牡蠣を使用した。美味しいワインと共に味わえば、今までにない牡蠣の魅力を感じることが出来るだろう。

 牡蠣は様々な表情を持った魅力ある食材だ。それを生牡蠣だけで食べてしまうのはもったいない。多くの料理人は腕によりをかけて牡蠣の魅力を引き出した料理を作っている。そんな美味しい牡蠣料理を通じて、牡蠣の美味しさや奥深さをもっと感じて欲しいと願っている。

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※写真は筆者の撮影によるものです。