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日本の餃子がGYOZAに進化している理由とは?

山路力也フードジャーナリスト
中国で生まれた餃子は日本で独自の進化をし続けている。

日本で独自の進化を遂げた餃子の文化

中国では蒸し餃子や水餃子が基本だが、日本はやっぱり焼餃子とビールが定番
中国では蒸し餃子や水餃子が基本だが、日本はやっぱり焼餃子とビールが定番

 町の中華料理店やラーメン店などに必ずと言っていいほど置かれている「餃子」。ご存知のように餃子が生まれたのは中国。その歴史を辿ると紀元前200年頃、漢の時代まで遡る。中国北部では小麦粉を使った皮などに肉や魚、野菜などを生地に包んで茹でたり煮たりしたものを食しており、それが現在の餃子のルーツとされているのだ。そんな餃子が日本に伝わったのは江戸時代のことだが、庶民に広まったのは戦後の昭和20年代になってからのこと。終戦後に大陸(旧満州など)からの引き揚げによって戻ってきた日本人が広めたことにより、多くの人に食べられるようになったという説が有力だ。

 本場の中国では蒸し餃子や水餃子(茹で餃子)が主流だが、日本では焼餃子が一般的。饅頭などの派生として存在する中国の餃子はあくまでも主食なのに対し、日本の餃子はご飯のおかずなどの副食としての位置づけになっている。その結果、皮の薄さや中の具材なども中国と日本では異なり、焼くことに特化していった日本の餃子文化は独自の進化を遂げていく。餃子の皮が市販されるようになると餃子は家庭料理の定番となり、さらに冷凍餃子の開発によって餃子は日本人にとってますます身近なものへとなっていったのだ(参考資料:グリコ栄養食品ホームページJB PRESS)。

「餃子の王将」が「GYOZA OHSHO」に

「餃子の王将」が2016年に立ち上げた新業態「GYOZA OHSHO」は、スタイリッシュな店舗と栄養バランスを考えたメニューで勝負する。
「餃子の王将」が2016年に立ち上げた新業態「GYOZA OHSHO」は、スタイリッシュな店舗と栄養バランスを考えたメニューで勝負する。

 日本の餃子はラーメンと同じく、中国で生まれ日本で独自の進化をしていった日本料理。現在、中国では日本の餃子は「日式餃子」という名前で主に日本料理店などで提供されている。そんな中、この日本オリジナルの焼餃子を新たな形で提案する店が増えつつあるのをご存知だろうか。

 人気餃子チェーンである「餃子の王将」が2016年から手掛けている新業態「GYOZA OHSHO」は、女性が店舗デザインやメニュー開発に参画した新コンセプトショップ。カフェやバルを思わせる雰囲気の店内に、栄養バランスにもこだわった一品料理やデザートなどの限定メニューを展開。さらにワイン、カクテル、サワーなどのドリンクメニューも豊富に取り揃えた、新しいスタイルの餃子レストランをスタートさせている。

「GYOZA OHSHO 烏丸御池店」の「京風和風餃子」は白味噌チーズだれがポイント
「GYOZA OHSHO 烏丸御池店」の「京風和風餃子」は白味噌チーズだれがポイント

 2016年3月にオープンした京都の烏丸御池店では、通常の餃子の他にオリジナル餃子もメニューに並ぶ。白味噌チーズだれが添えられた「京風和風餃子」をはじめ、「餃子のとろ〜りチリチーズソース」「サワークリームと溶かしバターで食べるスープ餃子」などの創作系餃子で、新しい餃子の楽しみ方を提案している。また、一部メニューに小ポーションの「Just Size Menu(JSM)」が用意されているのは、少しずつ色々食べたい女性客や、食事用途ではなくワインなどを飲む客を意識してのことだろう。これまで男性客やファミリー層がメインターゲットであった餃子の王将だが、このコンセプトショップで女性客や外国人客なども取り込むことに成功。「GYOZA OHSHO」は現在関西を中心に5店舗展開している。

「日本式餃子」を世界に提案する「GYOZA IT.」

2017年、赤坂にオープンした「GYOZA IT.」は、スタイリッシュな空間に外国人スタッフを配し、インバウンドを意識したコンセプト。
2017年、赤坂にオープンした「GYOZA IT.」は、スタイリッシュな空間に外国人スタッフを配し、インバウンドを意識したコンセプト。

 2017年、赤坂にオープンした「GYOZA IT.」は、冷凍餃子で圧倒的なシェアを誇る「味の素冷凍食品」が手掛ける餃子専門店。一見、餃子店とは思えないスタイリッシュな雰囲気の店舗は、天井が高く開放的な空間になっていて、オープンキッチンに横たわる長さ約5メートルの巨大鉄板で餃子を焼く光景はライブ感満載。働くスタッフはヨーロッパやアジアなど15ヶ国以上の国から集結するなど、インバウンドを意識した作りになっている。赤坂という場所柄、観光客はもちろんのこと日本在住の外国人のリピーターも少なくないという。

 「日本式餃子」をパーティーフードの主役に、というコンセプトに貫かれたメニュー構成。餃子にビールというイメージが強い中で、敢えて餃子にワインやシャンパン、日本酒などとのマリアージュを提案し、餃子を軸に据えたコース料理も用意されている。餃子自体もオリジナルテイストのタレや薬味を何種類も同時に出して、一つの餃子で色々な味を楽しめるように工夫しているほか、香味野菜を乗せたり葉野菜で巻いたりする新しい食べ方も発信している。中でも茄子の薄切りで餃子の餡を包んで焼き上げる「茄子GYOZA」は、従来の餃子の概念を覆す意欲作だ。

「GYOZA IT.」の「茄子GYOZA」は、茄子の薄切りを餃子の皮に見立てた斬新な焼餃子。
「GYOZA IT.」の「茄子GYOZA」は、茄子の薄切りを餃子の皮に見立てた斬新な焼餃子。

 味の素がインバウンドを意識した背景には、まだまだ焼餃子の文化が海外に浸透していないことがある。日本では餃子は飲食店で食べるものであると同時に、家庭で食べるものでもある。「GYOZA IT.」はそんな日本の餃子文化を世界各国に広めたいという思いがある。現在、味の素冷凍食品ではアメリカ、ポーランド、タイ、香港の4ヶ国に製造拠点を持ち、冷凍餃子を世界で販売している(参考資料:LIVE JAPAN TOKYO)。鉄板やホットプレートなどで餃子を目の前で焼き上げる「日本式餃子」の楽しさや美味しさ、そしてレストランならではの「新たなGYOZA体験」を日本に来た海外の人たちに感じてもらうことで、自国に戻って家庭などでも餃子を楽しんで欲しいという狙いがあるのだ。

 中国で生まれた麺料理が日本に来て独自のラーメンという麺料理になり、今や世界で愛されるようになっている。同じく中国で生まれた餃子が日本に来て焼餃子の文化が錬成され、パリやロンドンなど世界各国に「GYOZA BAR」と呼ばれる日本の焼餃子を提供する専門店も登場し行列を生んでいる。GYOZAが第2のRAMENになり世界を席巻していくのか、今後も注目していきたい。

※写真は筆者の撮影によるものです。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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