この冬「味噌ラーメン」を強くオススメする3つの理由

「冬といえば味噌ラーメン」という固定観念を敢えて検証してみよう。(ペイレスイメージズ/アフロ)

東京では味噌よりも醤油の方が人気

全国に展開する人気チェーン「一風堂」では毎年冬に「味噌赤丸」を販売する。
全国に展開する人気チェーン「一風堂」では毎年冬に「味噌赤丸」を販売する。

 冬になると食べたくなるものの一つに必ず上がるのが「味噌ラーメン」である。醤油ラーメンや塩ラーメン、豚骨ラーメンなどラーメンには色々な味があるが、冬といえば味噌ラーメンなのである。スープが冷えた身体を温めるという意味においては、別に味噌味である必要はない。味噌ラーメンよりもよほど醤油味の鍋焼きラーメンの方が冬らしい。しかし、冬のラーメンの代表格といえばやはり味噌なのだ。

 味噌ラーメンは今や札幌のご当地ラーメンという存在から全国のほとんどのラーメン店のメニューに上がるようになったが、やはり味噌ラーメンを看板に掲げている専門店で食べたいと思うのが当然だろう。しかしながら東京都内で考えると味噌ラーメン専門店は少数派である。味噌ラーメンよりも醤油ラーメンを看板メニューにしている店の方が多いし、さらに言えば豚骨ラーメンや豚骨醤油ラーメン専門店の方が街で見かける機会がはるかに多い。先日発売になった「ミシュランガイド東京2018」においても、味噌ラーメン専門店は一店舗のみである。

 その理由として、東京のラーメンは元来醤油味であった、という歴史的な背景を考える向きもあるだろうが、ある意味で様々な食文化が集結し交錯する街東京において、なおかつ世界一色々な種類のラーメンが集まっている東京という特異な場所で、その地域性を根拠にするにはやや説得力に欠ける。

 東京はショーケースのような街だ。世の中の「トレンド」にいち早く敏感に反応する。前述したようにラーメンにおいて味噌ラーメンが通年的に取り上げられたり、持ち上げられることは稀である。それは「冬といえば味噌ラーメン」というステレオタイプな固定観念に因るところが多分にある。ビジネスとして考えた時に、通年で話題に上がりやすいラーメンを扱う店が多くなるのは当然のことだ。

ラーメン好きやラーメン職人が味噌よりも醤油を好む理由とは

 かく言う私もラーメン評論家として長年取材を続けているが、味噌ラーメンを取り上げる機会よりも醤油ラーメンや豚骨ラーメンなどを取り上げる機会の方が多い。それは絶対的な店舗数の違いという状況もあるが、それよりもやはり味噌ラーメンが持つ「冬の食べ物」というイメージに沿ってしまっていることも否定出来ない。雑誌やテレビも同じく読者や視聴者あってのものだからだ。

 また、良くも悪くも味噌という調味料はある意味で完成された調味料で、醤油や塩と較べた時にどんなスープにでも合わせやすい。これは言い換えるならば、ベースのスープが豚骨だろうが鶏だろうが、白濁だろうが透明だろうが、味噌ラーメンにしてしまうとベースの味よりも味噌という調味料の味が強く出てしまうということだ。

 そしてそれはおおよそどこの味噌ラーメンを食べても、ある一定の想像の範囲内に収まるということに繋がり、ラーメンの面白さである独自性や個性を損ねることにもなりかねない。私たちのようなラーメンを食べる側にとっても、ラーメン職人などラーメンを作る側にとっても、味噌ラーメンをあまり面白いラーメンではないと考えている人は少なくなく、それが味噌ラーメン専門店が相対的に少ないことの遠因になっているのではないかと考えている。

札幌のイメージに囚われてしまった味噌ラーメン

札幌味噌ラーメンの元祖「味の三平」の「みそラーメン」は味噌ラーメンの歴史的名作。
札幌味噌ラーメンの元祖「味の三平」の「みそラーメン」は味噌ラーメンの歴史的名作。

 味噌ラーメンの歴史を振り返る時、札幌の老舗「味の三平」の存在を抜きには語れない。1954(昭和29)年に店主の大宮守人氏が考案したとされる味噌味のラーメンは人気を呼び、その後札幌市内の別のラーメン店でも提供されることになり、いつしか札幌のご当地ラーメンに定着していった。他にも諸説はあるが、味噌ラーメンの発祥のひとつが札幌にあるというのは間違いではないだろう。

 そんな札幌の味噌ラーメンが全国に普及するようになったのは、昭和40年代と考えられている。1967(昭和42)年に味噌ラーメンのチェーン店「どさん子」が全国展開をはじめ、翌1968(昭和43)年には即席麺「サッポロ一番 みそラーメン」の販売が開始され、味噌ラーメンという食べ物が札幌と紐づいて全国へと知れ渡っていったのだ。

 味噌ラーメンが冬の食べ物であるという固定観念は、何よりもこの「味噌ラーメン=札幌=雪国」というイメージに因るところが大きいのではないかと個人的には考えている。仮にもし味噌ラーメンが沖縄のご当地ラーメンであったなら、果たしてここまで冬の食べ物としてのイメージが定着したであろうか。

味噌ラーメンが他のラーメンよりも優れている点とは

「五行」(西麻布ほか)の「焦がし味噌」は札幌味噌ラーメンの製法を進化させた一品。
「五行」(西麻布ほか)の「焦がし味噌」は札幌味噌ラーメンの製法を進化させた一品。

 このようにイメージ先行で冬の食べ物として認知されていったであろう味噌ラーメンだが、実は効能機能的な面から考えても味噌ラーメンは冬に食べるべきラーメンである。発酵調味料である味噌は代謝促進効果に優れている食材だ。血液の循環も促進するため冷えの解消も期待が出来る。大豆の持つタンパク質は大豆の状態では消化吸収しづらいが、味噌になるとタンパク質が酵素によって加水分解され、およそ60%が水分に溶け、残りがアミノ酸になる。さらに炭水化物はブドウ糖になって消化吸収されやすくなるのだ。

 身体を温める効果としては「塩分」の存在もある。塩分は新陳代謝を促して体温を上げたり、体内の有害物を解毒したりする作用がある。その効果だけでいえば、味噌に限らず醤油や塩でも同様ではあるのだが、味噌の場合は同じ塩分量の塩を摂取するよりも血圧の上昇が軽度であるという研究結果もあり、身体に負担をかけることが少なく塩分を摂取出来ると考えられている。味噌ラーメンはやはり他のラーメンよりも身体を温めやすいと言って良いだろう。

 札幌の味噌ラーメンをはじめ多くの味噌ラーメンは、スープ、具材、味噌ダレを中華鍋で一緒に調理することが多い。決められた量のスープとタレを計量して入れて混ぜるだけの醤油ラーメンよりも、遥かに高度な調理技術が必要となるばかりか、スープにしっかりと熱が入り、スープとタレと具材の旨味がしっかりと乳化して美味しさが格段に高まる。また、調理段階で野菜などを炒める音や香りが感じられ、食べる前から聴覚や嗅覚を刺激するのも味噌ラーメンならではだ。醤油ラーメンや塩ラーメンの場合は、食べてはじめてその美味しさが始まるが、食べる前から美味しさを感じられるのは味噌ラーメンのアドバンテージである。

これからの味噌ラーメンは「健康」「ご当地」がキーワード

「Noodle Stand TOKYO」(原宿)の「COCONUT味噌ラーメン」は健康を意識したコンセプト。
「Noodle Stand TOKYO」(原宿)の「COCONUT味噌ラーメン」は健康を意識したコンセプト。

 味噌ラーメンは長い間、札幌のご当地ラーメンや冬のラーメンというイメージの呪縛から逃れられずにいた。その結果、醤油ラーメンや塩ラーメンと較べて、その進化のスピードが遅かったことは否めない。しかし、少しずつではあるが意欲的な味噌ラーメンが現れるようになり、味噌ラーメンの進化や多様化の流れは確実に生まれつつある。

 その一つのキーワードは「健康」である。前述したように味噌という調味料の持つ効能を全面に出した設計のラーメンは、ここ数年のトレンドでもある「健康志向」に合致している。そしてもう一つのキーワードは「ご当地」である。味噌は他の調味料よりも遥かに様々なバリエーションが存在する。米味噌、麦味噌、豆味噌などの麹の種類の違いや、日本全国に古くから存在するご当地ならではの地域色豊かな味噌たちは、ご当地ラーメンなどの多様性を持つラーメン文化との親和性が非常に高い。今後、そこに注目してくるラーメンの作り手も増えてくるのではないだろうか。

 店の数だけ味がある。一杯の丼の中で様々な表現がされていくのがラーメンという料理の奥深さでもあり、楽しさでもある。ラーメンの歴史およそ百年の中で、味噌ラーメンは比較的新しいラーメンと位置づけることができる。これから多くのラーメン職人たちが、今までにない新しい味噌ラーメンを創り出していくことだろう。札幌のご当地ラーメンだった味噌ラーメンが全国区になったように、冬の定番メニューと言われている味噌ラーメンが、季節を問わず愛されるようになる日も近いはずだ。