飲食店を全面禁煙にすると店の売上げは下がるのか

吸う権利だけではなく吸わない自由も守られるべきだ(ペイレスイメージズ/アフロ)

昨年の厚労省案からの大幅な後退

 厚生労働省が受動喫煙防止策として、店舗面積150平方メートル以下の飲食店での喫煙を認める新たな案を自民党と調整していることが16日分かった(参考記事:東京新聞 11月16日)。

 今回検討されているとされる新たな案は、飲食店内は原則禁煙だが、店舗面積150平方メートル(客席100平方メートル、厨房50平方メートル)以下であれば、飲食店側の判断で喫煙を認めることが出来るという注釈が付く。ただし、喫煙を認める店では客も従業員も20歳未満の立ち入りを禁止する。これは既存店舗のみの臨時措置で、新規開業や大手チェーンの店舗では全面禁煙となる。また、150平方メートル以上の店舗の場合は、喫煙専用室を設置すれば喫煙を認める。

 10月24日、政府は今後6年間の国のがん対策の指針となる「第3期がん対策推進基本計画」を閣議決定した。受動喫煙対策に関し「受動喫煙ゼロ」も検討されたが、数値目標の記載が見送られて実質的に断念した。今回新たに変更となった「150平方メートル以下」という基準は、これまで厚労省が示していた当初案の「30平方メートル以下」から大幅に後退する内容で、これに反発して対案として出された自民党案と合致する。厚労省が自民党に押し切られた形だ。

世界から大きく遅れをとっている日本の受動喫煙対策

 2003年に世界保健機関(WHO)にて全会一致で採択された「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」では、締約国数が条約の発効要件である40ヶ国を遥かに超える168ヶ国に達した。日本も参加しており、たばこのパッケージに警告文を大きく表記したり、成人認証のICシステム「taspo」も導入している。

 この条約の中に「たばこの煙に晒されること(受動喫煙)からの保護に関するガイドライン」があり、批准国はそのガイドラインに沿って国内法を整備して環境を整えなければならない。国外に目をむけると、2004年にアイルランドが公共機関の屋内全面禁煙を決定以来、2015年までのあいだに49ヶ国が屋内完全禁煙法を定めている。

 しかしながら、日本はまったくと言っていいほどその対応が遅れている。2010年に神奈川県、2012年に兵庫県で全国に先駆けて条例による受動喫煙防止の取り組みが実施され一定の効果が上がったことは事実だが、分煙も認めていたり小規模施設では努力義務であることから、完全な防止策にはなり得ていない。分煙では健康被害防止の効果が期待出来ないということから、「屋内では完全禁煙」が世界の常識になっているのだ。

飲食店を完全禁煙にすると売上げは下がるのか

 今回、とくに対応が遅れていると指摘されているのが飲食店における受動喫煙防止対策である。飲食店の中でも居酒屋やバーなどの喫煙率は7割に達するとも言われており、喫煙客離れが懸念されていることが対応の遅れを生んでいる。民間調査機関が飲食店にとったアンケートからは、「外食産業で8,401億円の売上減、55.9%の客数減」が予想されている(参考資料:株式会社富士経済 2017年3月7日)。しかしながらこれらの数値は飲食店側だけにアンケートした結果に基づく予測でしかなく、消費者側の意見は反映されていない。

 飲食店を完全禁煙にすると売上げは下がるのか。JTの調査によると、2017年5月現在の全国の喫煙者率は18.2%(男性28.2%、女性9.0%)である(参考資料:JT 2017年「全国たばこ喫煙者率調査」2017年7月27日)。つまり8割以上の客は非喫煙者ということになる。店を完全禁煙にした場合、2割の喫煙客を失うかもしれないが、8割の非喫煙客にリーチする可能性が高まるのだ。また、喫煙者の中でも食事の時には喫煙をしないという人も増えているので、実際に失う喫煙客はそれよりも低いだろう。

 当然のことながら既存客を考えた場合、上記の比率はそのまま適用されない。例えばこれまで5割の喫煙客がいた店の場合は5割の喫煙客を失うリスクがある。前述したアンケートの結果もその懸念から導き出されたものだ。その場合、一時は売上げが下がるかもしれないがそれを埋めるか上回る非喫煙客の来店が期待出来る。さらに完全屋内禁煙化した飲食店の場合は、従業員確保も容易になることが予想できる。受動喫煙を嫌うのは客だけではなく従業員も同じだ。

 国や地方自治体がどのような策を打つのかを見守っている飲食店も多いと思うが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、受動喫煙防止の流れは確実に高まっていく。屋内完全禁煙が一般的になっている諸外国から来る観光客などが選ぶのはどういう店なのか。諸外国に遅れをとっている行政に付き合うことなく、いち早く諸外国なみの基準を取り入れた飲食店が選ばれるのは明確だ。多くの非喫煙客の来店が見込まれ、外国人観光客にも選ばれ、従業員確保もできる。飲食店が取るべき答えはひとつしかないと思うのだ。