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なぜ久留米の「とんこつラーメン誕生祭」は成功したのか?

山路力也フードジャーナリスト
久留米で久々に開催されたラーメンイベントは連日大盛況をきわめた。

今年は豚骨ラーメンが生まれて80年

 10月14日・15日の2日間、福岡県久留米市でラーメンイベント「とんこつラーメン誕生祭」(主催:とんこつラーメン発祥80周年記念事業プロジェクト・久留米商工会議所)が開催されて大成功を収めた。今年は久留米で豚骨ラーメンが生まれて80年という節目の年。久留米の若手ラーメン店主たちが中心となって、かつて久留米で開催されていたラーメンイベント「ラーメンフェスタ」を復活させたいという思いで始まった一大プロジェクトは、5年の準備期間を経てこの日を迎えた。

昭和12(1937)年創業の「南京千両」。豚骨ラーメンの歴史に残る重要な一軒。
昭和12(1937)年創業の「南京千両」。豚骨ラーメンの歴史に残る重要な一軒。

 昭和12(1937)年、スープに豚骨のみを使用した「豚骨ラーメン」を初めて作ったのが、西鉄久留米駅前で屋台として創業した「南京千両」である。80年経った現在も屋台営業のほか店舗も構えて営業を続けている。白濁したスープに醤油ダレ、中太で縮れのある自家製麺という豚骨ラーメンは、麺やスープにアルカリイオン水やモンゴル産の岩塩を使用するなど、時代に合わせた進化を続けながら、今も多くの人たちに愛されている。(関連記事:久留米から世界へ広がる「豚骨ラーメン」が誕生80周年

13年ぶりに伝説の「ラーメンフェスタ」が復活

 1999年から6年にわたり、毎年久留米で開催されていたラーメンイベント「ラーメンフェスタ in 久留米」は、ラーメンイベントのみならずフードイベントの嚆矢的な存在だった。昭和28(1953)年創業の「大砲ラーメン」二代目店主の香月均さんは「ラーメンで地元久留米を盛り上げたい」という思いからこのイベントを発案し、行政や商工会などへの協力も仰ぎながら運営に奔走した。そして全国のラーメン店主たちもその思いに共感し出店。久留米がラーメンの街であるということを全国に知らしめる契機となったイベントだった。

久留米ラーメンの普及に尽力している「久留米ラーメン会」のメンバー。
久留米ラーメンの普及に尽力している「久留米ラーメン会」のメンバー。

 地元久留米が湧いた一大イベントをリアルタイムで経験していたのが、現在久留米でラーメン店を営む若手店主たちによる「久留米ラーメン会」のメンバーだった。全国で開催されているラーメンイベントへ積極的に出店し、「久留米ラーメン」の名前を普及させる活動を続けている「久留米ラーメン会」の店主たちは「もう一度久留米で『ラーメンフェスタ』をやって地元を盛り上げよう」と一念発起し、「久留米ラーメン会」の相談役でもある香月さんのもとへ協力を仰ぎにいった。

 「『お前ら、自分の店がどうなってもいいのか?イベントをやるのは生半可な気持ちでは出来ないんだぞ!』と、最初は香月さんに猛反対されました」と振り返る「モヒカンラーメン」店主の於保貴久さん。「やるからには完全に裏方に徹すること。来場して下さるお客様はもちろん、参加して下さるラーメン店の方たちもすべて『ゲスト』という思いでお迎えするなら」と香月さんの全面協力も取り付けて「13年ぶりのラーメンフェスタ」は動き出した。イベント名も「とんこつラーメン誕生祭」となり、全国でも珍しい豚骨ラーメンだけが提供されるという、豚骨ラーメン発祥の地にふさわしいラーメンイベントになった。(参照記事:大砲ラーメンウェブサイト)。

既存のイベントとは一線を画した運営スタイル

開催場所となった久留米六角堂広場は、かつて「ラーメンフェスタ」も開催された場所。
開催場所となった久留米六角堂広場は、かつて「ラーメンフェスタ」も開催された場所。

 イベント当日の10月14日と15日は、どちらもあいにくの雨模様ではあったが、会場となった「久留米シティプラザ 六角堂広場」には11時のスタート前から多くの人が集まり、チケットを求める長い列が出来た。参加店舗は「一風堂」(福岡)「黒亭」(熊本)「麺屋二郎」(鹿児島)など、九州各地の人気豚骨ラーメン店が7店舗。地元久留米からは久留米豚骨ラーメン発祥の店「南京千両」だけが出店し、他の店はスタッフとして完全に裏方に徹した。運営スタッフは「久留米ラーメン会」各店の店主やスタッフが総勢60名、JCなどの地元ボランティアスタッフも合わせて200人が全員ボランティアで参加した。

各店ごとに用意されたチケットは早々に完売した。
各店ごとに用意されたチケットは早々に完売した。

 ラーメンの価格は一杯600円と、800円台が主流である他のラーメンイベントと比べても安い価格に出来た。通常のラーメンイベントとは異なりラーメン代に会場設営費や会場スタッフ人件費など、運営費がほとんど含まれていないからだ。イベントに必要な運営費は地元企業などの協賛金によって賄われているが、そこには「ラーメンフェスタ」を成功させてきた香月さんの「運営費捻出のための協賛集めは徹底的にやる。運営費不足の場合は全員で自腹を切る覚悟を持つ」という強い想いが反映されているのだ。

 また、チケットも共通チケットが主流となっている通常のラーメンイベントと異なり、参加店ごとに用意されたラーメンチケットには整理番号が振られて、番号順に列につくスタイルが取られた。狭い会場で行列を作ると危険が伴うため「安全確保」の観点から採られた施策だが、同時に何時間も行列に並んでラーメンを待つストレスも無くすことに成功した。既存のラーメンイベントとは異なる独自の運営スタイルは、全国各地のラーメンイベントに出店者として数多く参加してきた「久留米ラーメン会」の経験も大いに役立っている。

 果たして、13年ぶりの久留米でのラーメンイベントとなった「とんこつラーメン誕生祭」は、テレビなどの地元メディアも注目した結果、一日一店舗あたり500枚、合計3,500枚のチケットは早々に完売。17時までの開催にも関わらず、1日目は15時、2日目は11時30分には完売する人気の高さを示し、2日間の来場者数は合計30,000人という大成功を収めた。

すべての人に最大限のおもてなしをしたい

 今や全国各地で毎週のように開催され、飽和状態ともなりつつあるラーメンイベント。地域によっては集客に苦戦しているイベントも少なくないが、久留米のラーメンイベントが成功した理由はなぜなのか。そこには主催者側の論理ではなく出店者側や来客者側に立った姿勢が大きいのではないだろうか。

 かつての「ラーメンフェスタ」をはじめ全国各地のラーメンイベントにも参加し、今回のイベントにも出店している「一風堂」創業者の河原成美さんは「久留米の人たちのパワーや地元愛を感じた素晴らしいイベント。運営方法など他のラーメンイベントが学ぶところがたくさんある」と語る。

 「お客さんはもちろんですが、久留米まで来て下さるラーメン屋さんたちも僕らからすればゲスト。僕たち久留米のラーメン屋がホストになって、お客さんやラーメン屋さんに対して最大限のおもてなしをして喜んで帰って貰うのが、僕ら久留米のラーメンイベントなのだと思います。そしてラーメンで地元を盛り上げて、久留米に恩返しが出来たらと思っています」と、今回のイベントに対しての思いを語ってくれた於保さん。この思いにすべての答えがある気がしてならない。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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