「大つけ麺博」が挑むラーメンイベント「原点」への回帰

9年目を迎えた「大つけ麺博」が原点に立ち戻って画期的なイベントを仕掛けてきた。

二大イベントが牽引したラーメンイベントブーム

 全国の人気ラーメン店が一同に会する、いわゆる「ラーメンイベント」が開催されるようになって久しい。地方都市では十年以上前から単発的に行われており、東京などで人気の味が地方でも楽しめるという企画の面白さと、一方で町興し的な地域活性化の役割も担っていたラーメンイベントだが、それが東京に逆輸入される形で行われるようになったのは2009年のこと。春に「東京ラーメンショー」秋に「大つけ麺博」という二つの都市型ラーメンイベントが相次いで開催された2009年は、東京のラーメンイベント元年と言っても良い。

毎年秋に駒沢オリンピック公園で開催され人気を博している「東京ラーメンショー」。
毎年秋に駒沢オリンピック公園で開催され人気を博している「東京ラーメンショー」。

 その後、東京ラーメンショーは札幌ラーメンショーや福岡ラーメンショーという形で、地方都市でも定期的に開催されるようになり、大つけ麺博も過去に札幌で開催された。そしてこの二大ラーメンイベントの成功によって、日本全国に「ラーメンイベントブーム」が巻き起こる。全国の政令指定都市はもちろんのこと、地方都市や町村レベルにいたるまで、自治体の協力も得ながら町興し的な形でラーメンイベントが開催されるようになり、さらには大型ショッピングセンターの集客イベントやテレビ局主催のイベントの目玉としても、ラーメンイベントのフォーマットが活用されるようになっていった。現在ではほぼ毎週末にはどこかの場所でラーメンイベントが開催されている状況で、秋から冬にかけては各地で同時開催されているほどだ。

 このようにラーメンイベントが短期間に全国へ普及した背景には、ラーメン業界特有の構造が少なからず影響している。東京ラーメンショーを実行委員会と共に主催する「日本ラーメン協会」は、全国のラーメン店が中心となって組織された業界団体であり、地方の有力ラーメン店も多く参加していることから、地方への出店招致や会場誘致などの障壁が比較的低い。現在全国各地で開催されているラーメンイベントの多くは日本ラーメン協会とは直接関係のないものがほとんどだが、他の飲食業界よりも深くて広い協会を中心にしたラーメン店主たちのネットワークが、その開催や運営に大きく寄与しているのは客観的事実であろう。

 さらに東京ラーメンショーの事務局として、イベントの企画運営を担当している「ラーメンデータバンク」は、ラーメン店の販促支援や求人支援などを主業務としている会社で、日頃からラーメン店との繋がりが深い。東京ラーメンショーでの運営ノウハウを生かして、全国のラーメンイベントの企画運営や技術供与をしていることも多く、地方でのラーメンイベントにおける出店招致や運営において同社が果たしている役割は非常に大きい。

イベント慣れしたラーメン店による「巡業化」

 このように各地で盛況となっているラーメンイベントだが、その内容はこの十年で少しずつ変化している。全国各地の人気ラーメン店が集まるというコンセプトは変わらないが、各地で行われているラーメンイベントの出店リストを眺めてみると、「常連店」のような店が少なからず存在する。それらの店の多くは全国でも名を知られるような有名ラーメン店や支店を多く持つ店などであり、個人店はほとんどない。

 その理由はラーメンイベントをはじめとするフードイベントの仕組みにある。フードイベントの中でもラーメンイベントは高い集客力を持っており、場合によっては大型ショッピングセンターのフードコート以上の生産性が求められる。屋外という通常の店舗とは違った環境で、高品質なラーメンを短時間で大量に提供するには多くのスタッフとノウハウや慣れが必要であり、店主一人や家族でやっているような個人店が出店するにはいくつも障害がある。そうなると、毎回イベントに出店している「イベント慣れ」している店の方が出店しやすく、運営側的にも都合が良いという背景がある。その結果、どこのイベントでも似たような出店になってしまうのだ。

実店舗よりも高い売価とイベント用ラーメンの濫立

 また、現在のラーメンイベントでの売価の中心は一杯850円前後と、実際の店舗よりも高い売価が設定されていることが多い。一般的なラーメンイベントの場合、基本的にはラーメンの売上げで運営経費がまかなわれる。主催者側はその売上げから会場設営や運営、広告、会場スタッフの人件費などを捻出する。ラーメン店側はあらかじめ決められた分率で入ってくる売上げを食材費や人件費に充てる。つまり、一杯850円のラーメンではあるが、ラーメン店の売上げとしてはそのうちの何割かであり、通常店舗で販売する時に得られる売上げよりもイベントで得られる売上げの方が少ないということだ。

 この理由から、出店するラーメン店としては実店舗以上の「薄利多売」が必須となってくる。さらにイベントでのラーメンの売価は出店するすべての店が同じ価格になっているため、他の店よりも具材を豪華にしてお得感を打ち出し集客を狙う。結果としてここ最近のラーメンイベントでは見た目の豪華さを競い合うような傾向が否めず、場合によっては通常の店舗ではあまり見られないようなイベント向けのラーメンが出て来るようなこともある。本来、ラーメンイベントはなかなか普段食べられない地域のラーメンを食べる機会であったはずなのが、最近はどこのラーメンイベントでも同じ顔ぶれのラーメン店が、店では出していないようなラーメンを提供する場になりつつある。

昨年の東京ラーメンショーで人気となった愛媛県松山市のラーメンが今年も登場。
昨年の東京ラーメンショーで人気となった愛媛県松山市のラーメンが今年も登場。

 そんな中、東京ラーメンショーでは数年前より出店が難しい店舗や、出店のないご当地ラーメンを食べて欲しいという思いから、日本ラーメン協会員が中心となったコラボレーションラーメンという形で、全国のご当地ラーメンを再現するブースを出店している。実際に現地まで足を運んでご当地ラーメンを忠実に再現したラーメンは、本場の味さながらという評判を得て人気となっている。今年も京都や東京の老舗の味を再現するブースが登場する予定だ。

「大つけ麺博」が問いかけるラーメンイベントの原点回帰

新宿大久保公園にて、今年は5週間で45店舗が出店する「大つけ麺博 大感謝祭」。
新宿大久保公園にて、今年は5週間で45店舗が出店する「大つけ麺博 大感謝祭」。

 ラーメンイベントが変化しつつある中で、現在開催中の「大つけ麺博 大感謝祭」は例年とは異なるスタイルで話題を集めている。今年の大つけ麺博は、提供するラーメンやつけ麺のサイズを小振りにして、販売価格も500円にするという大改革。「ラーメンばかりのラーメンイベントの中で、つけ麺だけのイベントをやったらどうなのか」というスタートから、食べた人に好きな店を投票して貰い優勝を決める仕掛けや、つけ麺とラーメンを対決させる企画、定額による食べ放題の施策など、これまでも大つけ麺博は既存のラーメンイベントとは異なるアプローチをいくつも仕掛けてきた。その仕掛人とも言えるのが、大つけ麺博のプロデューサーでもあり、イベントの運営を担当する株式会社ブルースモービル代表取締役社長の井上淳矢さんだ。

 全国のラーメンイベントはもとより、自ら手掛けてきたイベントを振り返っていても、その形が変化しつつあることに危機感を覚えていたという井上さん。ラーメンイベントの本来の意義や趣旨とは何なのかと、自問自答した中で出て来た答えが『お気に入りの一杯に出会うためのお祭り』だったという。色々なラーメンを食べ比べて自分の好きなラーメンを探せるようにという趣旨から、何杯も食べられるようにラーメン一杯の分量を減らし、その分売価も下げたのだ。

小振りとはいえ通常の量の半分以上はあり満足度は思った以上に高い。
小振りとはいえ通常の量の半分以上はあり満足度は思った以上に高い。

 一杯の量を減らしたとはいえ、平均して6割程度の分量になっており、実際に食してみると思った以上に満足度が高く、食べ比べるのにちょうどいいサイズになっていると感じる。また、一杯500円という価格も直感的で分かりやすく、気軽に色々と食べ比べたくなる絶妙な価格設定だ。さらに野外のイベントで使い捨ての容器に入れられたラーメンが、実際の店舗の商品よりも高いというネガティヴな感覚を打ち消すことにも成功している。

今回の「大つけ麺博」に隠された「本当の趣旨」とは

基本のラーメンはシンプルに提供。過度なトッピングはもちろん味玉乗せも禁止だ。
基本のラーメンはシンプルに提供。過度なトッピングはもちろん味玉乗せも禁止だ。

 今回の「大つけ麺博」は、前述した「食べ歩きサイズ」「一杯500円」が注目を集めて話題になっているが、実は表向きにはあまり伝えられていない「本当の趣旨」がある。それは販売されているラーメンやつけ麺がイベント向けメニューではなく、店舗で実際に販売されている(もしくは販売される)メニューであるということだ。さらに豪華な盛りつけ合戦に終止符を打つべく、あくまでもその店のありのままの味を出して欲しいという趣旨から、基本のラーメンにおける肉の大盛など過度なトッピングはもちろんのこと、味玉さえも原則として禁止にしている。また何杯も食べ比べて欲しいという運営上の観点から、意図的に行列を作ることも禁じており、行列を作っているブースには逐次オペレーションの改善を求めているのだという。

 これまでのラーメンイベントとはまったく異なる新たなアプローチということもあり、今回ラーメン店の出店を招致するにあたり、井上さんはじめ運営側は電話やメールなどで済ますことなく、すべての店舗に実際に出向いてその店のラーメンを食べた上で直接顔を見て出店交渉をしたという。食べ比べサイズで500円にした意味、そしてイベント用ではない店で出している基本のラーメンを出す意味をしっかりと説明して、その趣旨を理解して賛同してくれた店だけに出店をお願いしているのだそうだ。

 「このイベントで食べられるラーメンはお試しサイズ。一杯で満足は出来ませんが、そこで美味しいと思ったお店に実際に足を運んで頂きたいと考えています」と語る井上さん。ラーメンイベント本来の趣旨に立ち戻った大つけ麺博の新たな挑戦は、これから先のラーメンイベントの在り方を変える重要な転換点になるかも知れない。