築地場外市場の火災はなぜ人がいない店から出火したのか?

築地場外市場での火災は7棟を全焼し、消火までに15時間を要した。(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

築地場外市場で大規模火災

 3日(木)午後4時50分頃、東京都中央区築地の「築地場外市場」で火災が発生し、木造モルタル製の店舗など7棟計約935平方メートルが全焼した(8/3 時事通信)。

 豊洲への移転問題で注目を集めた築地市場は「場内」と呼ばれ、東京都中央卸売市場のうち最も古い歴史を持ち、水産物では世界最大の取扱い量を誇る総合市場のこと。卸売り業者が仲卸し業者に競りなどで売る、いわばプロのための市場である。

 今回火災が発生した築地場外市場とは「場外」と呼ばれ、築地市場(場内)の周辺にあるいわば「商店街」であり、プロの飲食店が仕入れに使う他、観光客や一般客も多く買い物に訪れる場所のこと。鮮魚店や飲食店など400店以上が軒を連ねている。今回の火災はこの「場外」で起こった。

なぜ人のいないラーメン店から出火したのか

 警視庁築地署は4日、今回の火災の火元はラーメン店「井上」であると断定した。創業は1966(昭和41)年と半世紀以上にわたり築地で愛されている老舗で、築地で働く人や買い物客、観光客が行列を作る人気のラーメン店だ。私もこれまで取材やプライベートなどで何度も足を運んでいる店である。客席はなく店の前で立って食べるスタイルで、店の前で多くの人が立ってラーメンを食べている光景は、いわば築地場外の名物だった。

 出火したとされる午後5時前、店には誰も人がいなかった。一般的なラーメン店であれば営業中か、夜の営業に向けて開店準備をしている時間帯であるが、この店の営業時間は早朝4時半から午後1時半までという、築地市場という特殊な立地のラーメン店ゆえの営業時間だった。従業員は火元の確認をした上で午後4時には店を出たという。火の気もなく人もいない店からなぜ出火したのだろうか。

出火原因である「低温着火」の怖さ

 今回の出火原因は、ガスコンロの「熱」が木製の壁に伝わったことによる「伝導過熱」ではないかとみられている(8/4 日本経済新聞)。通常飲食店などのコンロ周りにはステンレスで壁面が保護されているが、木造下地の場合はそのステンレス板の裏に不燃性の石膏や繊維強化セメントで作られた「耐火ボード」と呼ばれる層が挟まれる。現段階では推測の域を出ないが、半世紀以上も前に建てられたこの店の場合はその耐火ボードが無かった可能性がまず考えられる。

 耐火ボードが無くてもステンレス層で木造の壁面は保護されているため、コンロの火が直接壁に当たることはない。しかしステンレスを通して木造下地に熱は伝わる。木材に300℃前後の熱を加え続けると、水分が蒸発し乾燥状態となり加熱による熱分解が発生する。その結果、木材に含まれる酸素や水素などが無くなって、炭素だけが残る「炭化」という状態になる。通常木材の発火温度は450℃と言われているが、炭化した木材の場合は200℃程度でも発火する「低温着火」という現象が起こり得る。

 また仮に耐火ボードが挟まれていたとしても、長期使用によって熱を伝えにくくする耐熱性は低下する。不燃性なので耐火ボードそのものが燃えることはないが、ボードの耐熱性が落ちるために耐火ボードを通過してコンロの熱が木造下地に伝わって、結果としてやはり「炭化」状態を引き起こすことは十分に考えられる。

古い木造建築が要注意

 実はこのような火災は今に始まったことではなく、店舗のみならず木造家屋の台所などでも日常的に発生している。私がおつきあいのある飲食店だけでも、この十年で少なくとも5例は同様の火災で店舗を焼失してしまった例がある。どれも今回のケースと同じく古い木造の店舗で、従業員のいない中休みの時間帯や営業終了後の深夜などに発火して全焼した。従業員がいないからこそ発見が遅れ、消火の初動が遅くなってしまい一大事となるのだ。

 家庭の場合だと一日にコンロを使う時間は限られるだろうが、飲食店とくに今回のようなラーメン店の場合はほぼ一日中コンロに火がかかった状態になる。それによって「伝導過熱」が生じ、炭化した木造下地が低温着火により発火するのだ。築10年以上の古い木造店舗や住宅の場合、この低温着火が起こる可能性は極めて高い。

 古い木造店舗で飲食店を営む方や古い木造家屋に住む方は、厨房の発熱器具の周辺に断熱材が使われているかを今一度精査して頂きたい。ガスコンロを壁から離して設置するなどの対策と、火を使っていない状態でコンロ周りの壁の温度を確認し、熱がいつまでもあるようなら壁材の変更など、適切な処置をして火事を未然に防いで欲しい。