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京都のラーメン店で「韓国人ヘイト」が起こった理由とは?

山路力也フードジャーナリスト
外国人観光客も多い京都の街で今回の騒動は起こった。

京都木屋町のラーメン店で騒動は起こった

飲食店が建ち並ぶ京都木屋町通り
飲食店が建ち並ぶ京都木屋町通り

今年4月下旬、インターネットの生放送をしながら京都市内のラーメン店に入店しようとした韓国人男性が、店内にいる酔客から侮蔑的な発言をされたという騒動が話題になっている(MBS)。

場所となったのは京都の木屋町通り。江戸時代に角倉了以が開削した高瀬川沿いのこの地域は、大阪や伏見から高瀬舟によって集積され多くの材木商が軒を連ねた場所。その後、商人などを相手にした料理店や居酒屋などが営まれるようになり、現在は歓楽街として夜遅くまで賑わいをみせる場所だ。四条通りや河原町にも程近く、観光客も多く足を運ぶエリアである。

夜の木屋町を歩きながらインターネットの生放送をしていた韓国人男性が、ある一軒のラーメン店の前で立ち止まり、その店がどんな店かをレポート。店の外から店内に声を掛けたところ、店内にいた酔客から韓国人であることを差別する発言が出た、というのが今回の騒動の概要だ。

なぜ酔客は韓国人に暴言を吐いたのか

どんな理由があろうとも人種による差別発言というのは許されるものではない。また言うまでもないことだが、ある国に対して嫌悪感を持っていることを、その国の個人にぶつけることも間違いだ。さらに相手の国籍がどうであろうと、見ず知らずの人に対していきなり侮蔑的な物言いをすることも失礼な話である。

しかしながら不幸にも今回の騒動は起こってしまった。なぜこの酔客はこの韓国人男性に暴言を吐いてしまったのだろう。前段のような前提に立った上で今回の騒動を考察すれば、まずこの客が日頃から韓国もしくは韓国人に対しての何かしらかの思いを持っていたのは間違いない。無論、酒に酔った勢いで、というところが大きいのだろうが、心のどこかでそういう思いが少しもなかったらそのような発言は出なかっただろう。

そして酔って楽しんでいるところに、いきなり客ではない人間が割り込んできたという状況が引き金になったことも間違いない。ビデオを観るとこの韓国人男性は店の外から中の店員さんに対して、そこがどういう店かを聞いている。その時にこの韓国人男性はカメラもしくはスマートフォンで自分を撮影しながら会話をしている。その状況においてはそれが韓国人であろうとなかろうと、見ず知らずの人にいきなりカメラを向けられることに違和感を覚える人も少なくないだろう。客の側からすれば何事だと思ったであろうことは理解出来る。

どうすればこの問題は起きなかったのか

今回の一件はどうすれば防げたのか。まず店側は初動段階で酔客や韓国人男性に対して、何かしらのアクションがあっても良かっただろう。日頃から外国人観光客が多く訪れる京都という場所であればなおのこと。外国人に対してのある一定の配慮なり心配なりはあって然るべきで、ましてや今回のように客が外国人に対して差別的な発言を目の前でしていたのを黙認してはいけない。

またこの韓国人男性も、もし事前に店や客に対して配慮して、あらかじめ放送の趣旨を説明し許可を取った上で生放送をしていたとしたら、その対応は変わっていたのかもしれない。そういう意味においてはこの韓国人男性にまったく責任が無いとも言い切れない。だからと言って、それがこの韓国人男性に対して、差別的な言葉を吐いていいという論理は成り立たない。

この一件には多くの考えるべき問題が含有されている。訪日外国人の数はここ数年で一気に増え、今や年間で2,000万人もの外国人が来日している。さらに2020年に向けて多くの外国人が訪れる日本で、外国人と街で遭遇することはもはや当たり前の時代になっている。その中でどう外国人と接していくべきなのかは、観光地や都市部の店などだけの問題ではなく個人レベルで考える必要があるだろう。また、誰もが情報発信者となり得るSNS時代だからこそ、情報の発信の方法にも配慮が必要であることをあらためて痛感させられる。

無関係な「第三者」が情報を拡散する時代

誰もが情報発信者となるSNS時代の功罪
誰もが情報発信者となるSNS時代の功罪

今回の騒動はこの韓国人男性が一部始終を動画に収めていたことで発覚し、それがtwitterなどのSNSで拡散されていった。すぐにそのラーメン店の場所と店名は特定され、SNS上ではこの店に対しての批判や批難が相次いだ。動画というある意味「動かぬ証拠」があるために、誰もがその出来事の目撃者となった。これは今のSNS時代ならではの現象ではないかと思う。つまり、SNS時代だからこそ、この一件は表面化したのだ。

今回の一件は、京都にある一軒のラーメン店で、韓国人男性とラーメン店の客、もしくは店員のあいだで起こった言わば「揉め事」である。本来ならばそこにいた当事者間で解決がなされるべき問題であるが、その場にいない多くの人たちがこの客や店をバッシングしたり、あるいは韓国人男性を揶揄したりした。中にはこの韓国人男性がこれまでに公開してきた放送を探し出し、そのスタイルを批判する人も現れた。おそらくそのほとんどの人はこの店とも韓国人男性とも関係のない人たちだろう。もちろんこの記事を執筆している私も、である。

店側は今回の騒動に対して、反省の意を表してしばらくのあいだ営業を自粛することにしたそうだ(ゴゴ通信)。その客の行動を看過していたという点においてはある一定の責任を感じること自体は間違いではないと思うが、その責任の取り方が営業の自粛なのかどうかは疑問が残る。店側はSNSや店頭の張り紙などで謝罪の声明を出しているが、この一件とはまったく関係のない多くの人々に対して謝罪をしなければならないほどのことなのか。ちなみに、同じタイミングで韓国人男性も今回の件でこの客を責めないで欲しいというコメントを発している(MBS)が、これに関しても同様に無関係の第三者に対しての訴えだ。

SNS時代は情報の伝播力がとても速く、これまで多くの人が知り得なかった出来事が可視化されすぐに共有される。そしてそこにテレビやネットメディアなどによるブーストがかかり、ある種の「同調圧力」が働いて世論が形成されていく。それは場合によっては伝言ゲームのように、予想もしなかった結果に辿り着くこともある。それがSNS時代の在り方だと言えばそれまでだが、無関係な「第三者」である私たち一人一人は、それらの情報としっかり向き合った上で、精査し考えて発言するスキルを持たなければならない。自戒の意味も込めて。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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