業界で新卒の運命は二極化か 冬ボーナス後の退職リスク、減らす工夫は?

(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの感染が日に日に拡大するなか社会人生活のスタートをきった今年の新入社員たち。入社から半年以上が経過した現在は、どのように過ごしているのだろうか。

入社式も新入社員研修もオンラインで実施した会社や、新入社員の離職や転職の動向について詳しい専門家に話を聞いた。

新卒者の運命は業種によって二極化? 辞めさせたくない会社でより手厚いケアも

今年の新卒者の運命は、内定していた会社の業種によって大きく異なったと予想される。

厚生労働省によると、新型コロナウイルス感染拡大に関連する解雇等見込み労働者数(既に解雇済みも含む)は11月6日時点で累積70,242人、製造業、飲食業、小売業、宿泊業で全体の約4割を占める。

こういった業界には、育成が必要な新入社員を抱える余裕を失った会社も多いだろう。内定取り消し、入社時期の延期、入社はさせたものの休業扱いで自宅待機を続けさせるといった対応をとるところもあり、早々に就職・転職活動を余儀なくされた新卒者もいる。

そこまで深刻でない会社では、新入社員と密なコミュニケーションが取りづらい状況下、どうやって会社への帰属意識をもってもらい戦力に育てていくのかに、苦心しているところも多い。

入社式も新入社員研修もすべてオンラインで行ったSB C&S株式会社では、当初は予定していなかった新卒者向けの取り組みをいくつか実施した。

そのひとつは7月に行ったアンケート調査だ。各部門に配属されてひと月ほど経ったタイミングで、新卒者全員のコンディションや不安に思っていることなどを確認した。その結果を踏まえてエルダー社員(新人についてサポートを担当する先輩社員の呼称)の研修を行ったほか、社内のコミュニケーションを増やす施策を追加で実施している。

課題は「コミュニケーション機会の減少」と「スキル面での不安」

アンケート調査で分かった課題のひとつは、コミュニケーションの機会が不足しているということだ。外出自粛で同期同士で飲みに行ったりすることができなかったのはもちろん、オンライン研修中は休憩時間の気軽な雑談も生まれにくい。配属後も在宅勤務が多く、上司や先輩にちょっとした質問をするタイミングが分からないという悩みを持つ新人もいた。さらに、業務で関わりの薄い他部署とのコミュニケーションの機会がないということも課題として見えてきた。

そこで人事部では、新入社員とエルダー社員が共同作業をする宿題を出して接触機会を増やしたり、新卒同士のコミュニケーション機会を持つことを主眼とした「フォローアップ研修」を10月に実施した。1月には、新入社員の自宅に飲食物を届けるケータリングサービスを利用し、オンライン飲み会の開催も予定しているそうだ。

アンケートからは、「配属先で期待されるパフォーマンスが出せるのか」という新人の不安感も見えてきた。研修がオンライン化されたことで実施できなかった内容があったことや、配属後もリモートワークが中心となり、例年通りのOJTが難しくなったことなどに起因する。

家電量販店向けの営業部署に配属された渡部果奈さんは、2年上の先輩たちとオンラインで交流した際に「5月には配属先の部署で営業同行をしていた」という話を聞いた。自分たちはその時期にまだ集合研修を受けていたため、遅れを挽回できるのかと不安になったそうだ。

法人向けの営業の部署に配属された奥村真優さんも、「例年の新卒と比べ、自分は能力が低いのでは」という思いがあったという。今年は緊急事態宣言や東京アラートの発動によってできるだけ客先訪問を控えていた時期があり、営業同行のチャンスがなかなかなかった。自信が持てないまま、10月には担当となった得意先に訪問することになり、とても緊張したという。

しかし、渡部さんも奥村さんも実際に得意先に訪問するようになってからは、なんとかなりそうだという感触を得ているようだ。案ずるより産むが易しということだろう。

毎日電話、出社日を合わせる……在宅勤務中心でも孤独を感じさせない工夫

株式会社アスマークの「『新型コロナ禍 新入社員』意識調査」によると、今年の新卒入社者の47.8%が「仕事をしていて孤独感や疎外感を感じることがある」と回答している。そして、その割合は在宅勤務の頻度が高いほど高いという結果になっている(新卒と中途合わせた結果)。

株式会社アスマークの「『新型コロナ禍 新入社員』意識調査」のデータを元に筆者が作図
株式会社アスマークの「『新型コロナ禍 新入社員』意識調査」のデータを元に筆者が作図

SB C&Sは、今も在宅勤務を原則としている。配属後は業務の必要に応じて出社をしたり上司や先輩と外出する機会があるものの、新入社員たちが他の社員と身近に接する機会はやはり少ない。

しかし新入社員たちはそれほど孤独感を感じていないようだ。

先の渡部さんは、在宅勤務の際も上司や先輩がよく電話をしてくれて話ができたほか、最近は役職者や現場の責任者が出席する定期的なミーティングをオンラインで開き、新人から質問できる機会を作ってくれていると語る。

奥村さんの場合は、「自分が出社する日は先輩ができるだけ社内に残り、何かあればすぐに質問しやすい状態を作ってくれた」そうだ。配属直後は毎日出社していたという関口大輝さん(販売店向けの営業部署に所属)も、エルダー社員を含む数名の社員が1人ずつ交代で出社して業務を教えてくれたほか、在宅勤務の日は上司かエルダー社員が必ず「今日はどうだった?」と電話をくれたと語る。

部署ごとに具体的なやり方は異なれど、会社として「新入社員とこまめにコミュニケーションを取り、不安を回避する」という行動が取れていると見受けられる。

10月のフォローアップ研修の様子をのぞかせてもらったが、各現場で実務に当たるようになって数ヶ月、忙しさや目標達成の難しさなど様々な壁を感じながらも、それらを乗り越えようと前向きにがんばっている新人たちが多いと感じた。

冬以降にモチベーション低下、離職のリスクも

今年の新卒社員はデジタル・ネイティブ世代であり、中堅社員以上にオンライン・コミュニケーションの良さを享受している可能性もある。

求人情報や人材紹介のエン・ジャパンでは、例年は配属先の地域内に閉じがちだった新人同士の関係が、今年は社内SNSなどを通じて全国規模で続いているとのこと。実務に当たっての悩みや問題が、新人同士のオンライン交流の中で解決されることもあるそうだ。

エン・ジャパン『入社後活躍研究所』研究員の越田 良さんによると、取引先の企業において、今年の新卒者が特に離職率が高いとかモチベーションが下がっているといった傾向は、今のところ見られないという。

同社では新入社員の離職リスクを可視化するWebツール『HR Onboard』を提供しているが、お盆が明けたくらいから徐々に離職リスクが高まってくるのが例年の傾向だ。しかし、今年の新入社員にはその傾向が見られない。それは、コロナ禍で配属や実務を割り当てられる時期が遅れており、仕事の難しさや忙しさに直面してやる気が下がるという状態に、まだいたっていない企業が一定数あるためではないか、というのが越田さんの予想だ。

逆に、新人たちが本格的に現場に投入されて忙しさを感じ始めてからが要注意だ。特にコロナ禍で業績が悪化している会社では、いつも以上に厳しい目標が課せられて新人が追い詰められる可能性もある。

今後は、冬のボーナスが出たり、年末年始に友人から他社の様子を聞くなど、自分の待遇や今後のキャリアについて一旦立ち止まって考えるようなタイミングも多い。そのような時期を経た年明け以降、転職を考える新人が増える可能性もなきにしもあらずだという。

このところの感染者の増加で、ふたたび在宅勤務率が上がるかもしれない。新入社員に対しては「そろそろ慣れただろう」と放置してしまうことは禁物だ。気持ちの変化を見逃さないためにも、頻繁にコミュニケーションの機会を作ってケアしていくことが必要だ。