有給休暇100%を義務化したブライダル企業は「休めるはずがない」をどう払拭したか

2019年4月から、社員に有給休暇を年5日、確実に取得させることが企業の義務となる。働き方改革の一環で労働基準法が改正されたのだ。これを受け、社員の有休取得率の向上策を考えている企業も多いだろう。

今回は、休暇の取得が特に難しいと思われるサービス業ながら、2014年にいち早く有給休暇の取得推進を始めて成果を上げる株式会社ノバレーゼを取材した。

■有休取得率は5年前の40%台から80%台に躍進

ノバレーゼは、全国で29ヶ所の結婚式場のほかレストランやドレスショップも運営している。従業員はパート・アルバイトも含めて1,900人ほどで、そのうち95%がウェディングプランナーや店舗のスタッフだ(店舗数、従業員数は2019年3月現在のもの)。

結婚式といえば顧客にとっては一生のうちでも特別なイベント。準備段階から結婚式当日まで、ウェディングプランナーを始めとするスタッフには顧客第一の姿勢が求められる。一般的には、自分の都合で休みを取るということが非常に難しい職種だと想像される。

厚生労働省の調査によると、直近の有給休暇取得率は全産業平均で51.1%。ノバレーゼが分類される「生活関連サービス業、娯楽業」は36.5%となっている(「平成30年就労条件総合調査」)。

ノバレーゼの有休取得率は2013年に44.1%だったが、2018年は86%に達した(前年に有給休暇が付与された人をもとに算出)。いったい、どんな施策が行われたのだろうか。

■トップダウンで100%取得を義務化

同社が有休取得率の向上に取り組み始めたのは2014年下期。管理職を除く全正社員・契約社員が「休むための下半期計画」を策定し、計画的に休みを取るようにしたところ、上半期に21.6%だった取得率が下半期は43.5%と倍増した(年間での取得率は77.7%)。

翌2015年からは、その年に付与される有給休暇を正社員・契約社員の部下に100%取得させることを、管理職と各レストラン料理長の義務とした。対象者とその部門長で「休むための年間計画」を策定し、3ヶ月毎に各部門の達成率を公表するといった取り組みにより、取得率は91.0%まで向上した(※)。

(※100%義務化の対象者の取得率。計算方法は、「1年間(1~12月末)に取得した有休」÷「同期間に付与された有休」)

有給休暇取得率の推移(ノバレーゼ提供のデータを元に筆者が作図)
有給休暇取得率の推移(ノバレーゼ提供のデータを元に筆者が作図)

2016年から管理職や料理長も有給休暇取得100%の対象とし、2018年には全体で80%以上の取得率となった。2019年からは、年に10日以上の有給休暇を付与するアルバイトも対象としている。

「100%取得の義務化」を決めたのは当時の代表だ。「お客様を幸福にするためにはスタッフ自身が幸福でないといけない、そのためにはきちんと休ませることが重要である」という考えを、管理職が集まる場で代表から直接伝えた。

株式会社ノバレーゼ 総務人事部長 小高 直美さん
株式会社ノバレーゼ 総務人事部長 小高 直美さん

総務人事部長の小高 直美さんは、当時を振り返る。

「それまでは有休を100%取るなんて考えたこともなかったでしょうから、管理職の中からは『いきなり100%は難しいのでは』という意見も出ました。でも代表は、『中途半端に70%や80%を目指すのではなく、100%だ』という強い意思を示し、『できない』ではなく、『どうしたらできるのか』を考えるように促しました」

各現場では、管理職からスタッフに有休を取るように働きかけたが、最初は「休めるはずがない」「お客様にご迷惑がかかる」「かえって残業が増える」などの抵抗があったそう。子育て中の女性から「子どもの病気などで休む可能性があるから、有休をとっておきたい」、役職者からは「うちのスタッフは『働きたい、休まなくていい』と言っている」といった意見も出てきた。

しかし、例外や妥協を許しては目標達成への推進力が弱まってしまう。総務人事部は「それでも(部下に)有休を取らせてください」と言い続けるとともに、休みを取りやすい環境づくりを支援した。

■「休めない理由」を取り除くための仕組みづくり

・「休むための年間計画」で確実に有休を取得させる

有休取得推進のベースにあるしくみは、「休むための年間計画」とその進捗確認だ。

各自が1年間の有給休暇の取得日程を年初(※)に計画したものを、各部門長が取りまとめて総務人事部に提出する。それを元に、部門長と総務人事部は予定どおり有休取得できるよう支援するとともに、部門ごとの達成率を公表することで意識付けを行った。

(※2019年からは各自の有給休暇付与のタイミングに変更)

なお、急な事情で休んだ場合や予定が変わった場合など、有休取得の計画を変更することも可能だ。「子育て中で、休みを使い切ってしまうのは不安」といった声に対しては、前年から繰り越された休みを有効に使うほか、計画を柔軟に変更しつつ1年間の中でうまく100%取得するようにアドバイスしたそうだ。

・情報共有システムの構築

会社や上司から休めと言われても、「自分がいないと仕事が進まない」「休んだらお客様にご迷惑をかける」という意識があると休みは取りづらい。その点を解消するために導入されたのが、顧客情報を共有するシステムだ。

結婚式に向けては、それぞれの顧客に対して担当のウェディングプランナーが付き、細かな要望を聴きながら準備をしていく。以前は、顧客との打ち合わせ内容を手書きでメモするなどして担当者が把握していたが、その場で直接システムに入力するようにした。

そうすることで常に過去のやり取りの履歴が確認でき、担当者が不在のときでも他のスタッフがフォローできるようになったのだ。

・営業日の見直し

情報システムによる効率化が難しかったレストランでは、会社主導で営業日の見直しなどを行っている。具体的には、定休日を増やすことで時間外労働の削減をはかり、スタッフが有休をとりやすい体制を作るなどの対策をしているという。

レストランの場合、営業日を減らすことは売上減につながる。しかし小高さんは、売上よりも「スタッフが安心して生き生きと働けること」を重視しての判断だと言い切る。

なお、ノバレーゼでは2015年から、年に2回の全社休業日も定めている。以前は社員が「ユーモアあふれる休暇の理由」を提出することで年に1日の有給休暇を与えられる「アイデア休暇」や自己申告制で記念日に休暇を取得できる「記念日休暇」制度の制度があったが、利用率が低かった。これを改め、2月と8月の第3木曜日を全員一律に休んでリフレッシュする日としたそうだ。

■有給休暇取得率向上の結果、得られたもの

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小高さんによると、有給休暇の取得率が上がったことで、会社および社員には次のような収穫があった。

まず、人材の定着や確保への効果がある。2014年の取り組み開始前と比較して、退職率は7%下がり、採用の場面でも有休取得推進の施策に興味を示す候補者が多いそうだ。

また、休みを取る機会が増えたことで社員が休むことの重要性に気づき始めているという。

同社の社員は、3年ごとに30日の「リフレッシュ休暇」を取ることができる。これは2000年の創業当時からの制度だが、以前はあまり利用されていなかった。それが、有給休暇取得推進の取り組みを始めてから利用者が増えてきたそうだ。30日の休暇は実質1ヶ月以上の連続休暇になる。海外の結婚式場を見てくるなど、仕事につながる見聞を広める機会にもなる。

休むことへの抵抗感が薄れただけでなく、目の前の仕事だけに埋没しない良い時間の過ごし方が身についてきたようだ。

休みが取りやすくなったことは社員の家族からも好評だそう。ブライダル業界の仕事は週末の出勤も多く、特に子育て中の社員などは周囲の理解がないと続けづらい。家族の応援を得られるというのはとても大事なことなのだ。

■難しいけれどやりがいのある、サービス業の「休める職場」づくり

旅行総合サイトのエクスペディア・ジャパンの国際比較調査によると、「有給休暇の取得に罪悪感がある人の割合」は日本が最も高く、58%だ。

出典:エクスペディア・ジャパン「世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査2018」
出典:エクスペディア・ジャパン「世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査2018」

日本で有給休暇の取得率を上げるには、この罪悪感をいかに払拭するかが鍵になる。

ノバレーゼのやり方は、有休取得100%を管理職の責任とし、休暇取得の予定と実績もしっかり把握することで会社の本気度を示すとともに、システム導入や営業日の見直しなど、同僚や顧客に「迷惑をかけてしまう」といった懸念も取り除く工夫をしている。「できない理由」を会社ぐるみで解消していく姿勢は、どんな会社にとっても参考になるのではないだろうか。

サービス業は目の前に顧客がいてこそなりたつ仕事が多く、他業種と比べて個々人の工夫で効率化することが難しい。その上、「人に喜んでもらうのが好きでこの職業を選択した」という人が多ければ、進んで「休もう」という気持ちになりづらい可能性も高い。

しかし一方で、サービス業だからこそスタッフの活力が顧客に提供する価値の源泉になる。疲弊したスタッフから良いサービスは生まれないだろう。休める職場づくりは、難しいけれど取り組みがいのある課題なのだ。

(写真はすべて筆者撮影)