「命の線引きされた気持ち」 新型コロナ拡大が招く「外国人嫌悪」の危うさ

筆者撮影

 新型コロナウイルスの感染拡大は、世界各地でゼノフォビア(外国人嫌悪)とレイシズムの広がりをも招いた。

米国や欧州では、かつての黄禍論を想起させるアジア人差別が横行している。アジア系であるという理由だけで暴行を受けるといったヘイトクライムも少なくない。

 許しがたいことだ。ウイルスは国籍を選ばない。人も選ばない。しかし、差別や偏見は特定の人々に向けられ、心もからだも、そして人としての尊厳も傷つける。感染拡大を防ぐためには何の役にも立たないどころか、社会に対する破壊行為でもある。

もちろん日本も例外ではない。

"コロナ危機"は、もともと日本社会に溶け込んでいた差別と偏見を、"非常時レイシズム"ともいうべき、よりわかりやすい形で表出させている。

さいたま市のマスク配布対象から当初外された朝鮮学校

「国に帰れ」「厚かましい」「日本人と同じ権利と保護があると思っているのか」──。

 ここ連日、電話やメールでヘイトスピーチをぶつけられているのは、埼玉朝鮮初中級学校幼稚部(園児41人・さいたま市)だ。

 きっかけは「マスク配布問題」だった。

 3月上旬、さいたま市はウイルス感染防止策として市内の幼稚園や保育園、放課後児童クラブに備蓄マスクを配布することを決めた。ところが、市は「直接に指導監督する施設ではない」ことを理由に、朝鮮学校を配布対象としなかった。しかも、理由を訊ねた同園・朴洋子園長に対し、市の担当者は配布マスクが転売される可能性をも示唆したのである。

 国籍や人種にかかわらず、地域で暮らすすべての人の命と健康を守ることが地方公共団体の責務だ。さいたま市はそれを放棄したことになる。

 私の取材に対し、朴園長は次のように話した、

「子どもの命の線引きをされた気持ちになりました。私たちは何が何でもマスクを寄越せと言いたかったわけではありません。朝鮮学校の園児たちも同じように扱ってほしかっただけなんです」(同)

 この件は新聞などでも大きく報じられ、市に対して抗議も相次いだ。結局、市は朝鮮学校にもマスクを配布することを決めたわけだが、今度は学校側に前述したようなヘイトスピーチが襲いかかったのである。

 学校に対する激励のメッセージも送られているというが、他方、殺到する怒声に脅え、電話の受話器を手に取ることのできない職員もいるという。同園では非通知でかかってくる電話に対しては留守番機能を用いるなどの対応を取らざるを得なくなった。

 敵を「発見」しては、攻撃する──社会全体が苦しんでいるときは、こうした回路が生まれやすくなる。

ウイルス以上の感染力を持つ「便乗ヘイト」

「中国人お断り」の張り紙を提示する商店があった。

 横浜市の老舗中華料理店には「中国人はゴミ」「出ていけ」と書かれた手紙が送りつけられた。

 宿泊者を日本国籍者に限定した「日本人専用フロアプラン」を売り出すビジネスホテルがあった。

 日ごろから外国人排斥を訴えている差別者団体は、コロナ禍に便乗したヘイトデモを東京・銀座で実施した。参加者らは中国人の蔑称である「シナ人」を連呼しながら「日本に流入させるな」と叫んだ。ネット上にはこれに賛同するような書き込みも目立つ。

 愛知県では、クルーズ船のウイルス感染者を藤田医科大岡崎医療センターに受け入れた際、「外国人に税金を使うな」「中国人、韓国人を追い返せ」といった抗議電話が相次いだことを大村秀章知事が明かしている。

 非常時レイシズムと便乗ヘイトは、ウイルス以上の感染力をもって日本社会に広がっているようだ。

差別を許さない、明確なメッセージが必要

 本来、こうしたときにこそ政治家や行政といった責任ある立場の者が「差別や排除は許さない」と明確なメッセージを発するべきである。

 だが、一部の政治家や首長を除き、差別の蔓延に関心を寄せる向きは少ない。

 抗議を受けて朝鮮学校へのマスク配布を決めたさいたま市も、「(配布決定は)抗議を判断材料にしたのではない」として、自らの施策に誤りがあったことは認めていないのだ。

 国会議員の間では、新型コロナウイルスをわざわざ「武漢ウイルス」と言い換え、特定の地域や民族に対する差別や風評被害を煽る者が少なくない。

 現在議論されている生活支援の給付金に関しては、自民党・小野田紀美参院議員がツイッターに「マイナンバーは住民票を持つ外国人も持っていますので、マイナンバー保持=給付は問題が生じます」(3月30日)と書き込んだ。給付対象からの外国人排除を訴えた発言としか読み取ることができない(真意を聞きたく同議員事務所に取材の申し込みをしたが、現在までのところ返答はない)。

 ちなみに、外国人労働者の受け入れ促進を目的とした改正出入国管理法の成立時(2018年12月)、小野田議員を含む自民党所属議員は国会で賛成票を投じている。同法は外国人労働者を増やすことで少子高齢化による深刻な人材不足を解消するといった趣旨で生まれたものだ。人権保障の点で多くの問題点を抱えた同法ではあるが、これによって少なくない企業が労働力を確保し、事業存続が可能となったことは事実だ。つまり、日本の雇用は外国人によって「助けられている」のである(納税という点ではすべての外国人が貢献している)。「日本で働いてください」とお願いしておきながら、非常時の補償から外国人を排除するとは、どういうことなのか。そんな都合の良い"切り捨て"が許されて良いわけがない。

 また、2016年に施行されたヘイトスピーチ解消法では「不当な差別的言動はあってはならず、こうした事態をこのまま看過することは、国際社会において我が国の占める地位に照らしても、ふさわしいものではない」としたうえで、国や地方公共団体が率先して差別解消に努めるよう求めている。にもかかわらず、行政や政治家が外国人、外国籍住民に対する偏見を野放しとするどころか、ときに差別の旗振り役を務めるのは、法の精神に真っ向から反しているといってもよいだろう。

「命の線引き」につながる差別に、毅然と立ち向かうべき時

 想像してほしい。非常時に、社会全体が苦しんでいるときに、差別の扇動はときに取り返しのつかない事態を招いてしまうのだということを。

 1923年の関東大震災では、差別と偏見、デマによって、多くの朝鮮人が殺された。いまなお地震や水害といった自然災害が起きるたびに、外国人を危険視する書き込みがネット上にあふれる。

 昨年、大型台風が関東全域をを襲った際も、2018年の大阪北部地震、2016年の熊本地震のときも、「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」「外国人窃盗団が空き巣を繰り返している」といったデマ情報がSNSで流布された。

 2014年に広島で大雨による土砂災害が発生した際は、同様に「外国人窃盗団」デマが広まっただけでなく、"犯罪外国人制圧"を目的とした自警団結成の動きまであった。

 根拠なきデマは、一歩間違えれば大きな過ちをおかすことになる。

 差別は命にかかわる問題だ。そう、「命の線引き」だ。これを許容する社会であってはならない。

 世界でもっとも感染拡大が深刻化する米国にあっては、アジア系住民への差別を憂慮すニューヨーク市のビル・デブラシオ市長が市民にこう呼びかけた。

 「差別やヘイトクライムを見たらすぐに通報してほしい。アジア系のみなさんへ。ニューヨークはあなた方の味方です」

 いま必要とされるのは、こうしたメッセージではないのか。

 同時に、私たちひとりひとりが差別と偏見に毅然と立ち向かうべきだ。

 繰り返す。「命の線引き」は、感染拡大防止になにひとつ役立つことはない。地域と社会を「壊す」だけだ。