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【バレーボール】コロナ罹患から復帰した石川祐希。当事者のリアル

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
新型コロナウイルス感染から約1カ月ぶりに公式戦に復帰した石川祐希(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 バレーボール男子日本代表のエースで、イタリアセリエAでプレーする石川祐希(パワーバレー・ミラノ)が、12月に罹患していた新型コロナウイルス感染症から回復し、1月4日にオンラインで日本メディアの取材に応じた。

 昨年12月8日に新型コロナウイルス検査の陽性判定が出てから約1カ月。この間の具体的な症状や回復過程を、身体面や精神面を含めて詳細に語った。

 日本国内では各競技でアスリートの感染状況が公表されているが、ひとたび陰性となるとその後の情報はほとんど発信されず、リアルな情報を求める人は多い。もちろんその中にはアスリート自身も含まれる。

 今回のオンライン取材では、石川が味覚や嗅覚の後遺症についても言及しており、当事者発の貴重なコメントとなっている。

■12月8日に陽性判定。「とても不安な気持ちになった」

 石川の新型コロナウイルス感染が判明したのは12月8日だった。所属しているパワーバレー・ミラノが、イタリアバレーボール連盟から義務付けられている定期的な新型コロナウイルス感染症検査を12月7日に実施し、翌8日に石川を含む選手2名の陽性が確認された。

 石川自身、日本に帰国中だった昨夏には感染防止を呼び掛ける取り組みを積極的に行うなど、高い意識で感染予防に努めてきた。

 イタリアでは10月以降に1日の新規感染者数が3万人を超える日が続き、11月から一部でロックダウンが行われるなど、いまなお日本とは桁違いの感染数だが、実際に陽性が判明したとき、石川はどう感じたのだろうか。

石川「感染予防、対策をしていたので陽性が判明したときは、どこでもらったのかわからなかったので戸惑いました。僕自身感染予防は最大限にしていたし、予防を呼びかけている中で罹ってしまったので、とても不安な気持ちになりました」

■熱は最高で39度。味覚と嗅覚は陰性判定から半月経過でも「まだ半分くらい」

 石川は、検査時には無症状だったが、検査を受けた12月7日の夜から倦怠感と発熱の症状が出た。すぐに、イタリア政府保健当局と医療機関の指導により自宅療養に入った。

 発症中の具体的な症状はどのようなものだったのか。

石川「3日間38度の高熱が続き、その後にせきが出て味覚、嗅覚の異状を感じていました。熱は最高で39度まで出ました」

 その間の心理状態は?

石川「高熱が出た時に、どこまで症状が出続けるのだろう、どれくらいで回復するのかが全くわからないので、不安がありました。(発熱が)落ち着いてきてからは気持ちが少し楽になったが、陽性が判明してから3、4日間は症状もあったので不安な気持ちでした」

 39度の発熱は身体的にきつい。それに、アスリートの場合は身体が資本。発熱で伏していれば筋力や体力の低下は避けられない。戻った時にレギュラーポジションが約束されているわけでもない。

 それでも石川の場合は不幸中の幸いで、その後熱は下がっていき、発症から10日目にあたる12月17日と同22日に2度の新型コロナウイルス感染症検査を受け、2度とも陰性が確認された。そして、メディカルチェックでも異状が見られなかったため、12月28日からチームに合流して練習を再開し、1月3日のヴェローナ戦で早くも公式戦に復帰した。

 試合に出たということは確実に回復しているということだが、実際の状態はどうなのだろうか。

石川「体調は問題なく過ごしています。けれども、味覚と嗅覚は徐々に戻ってきていますが、まだ半分くらいといった感じです」

 加えて、せきも軽くまだ残っているという。とはいえ石川は1月3日の復帰戦で病み上がりを感じさせないスタッツを記録した。チームは敗れたが、石川個人は得点数やスパイク決定率、サービスエース、レセプションと、どれも及第点以上。プレーに影響が出た様子はない。

 石川以外の他の新型コロナウイルス感染者はどんな様子なのか。

石川「僕と同時期に(新型コロナウイルスに)罹った選手は、味覚と嗅覚の症状は完全に回復しているといいますが、呼吸はまだしづらいと練習の時に言っていました。でも、彼の動きは悪くないですし、パフォーマンスはすぐに戻っていた印象です。症状も人によって違っています」

1月4日、オンラインで日本メディアの取材に応じた石川祐希(提供:株式会社グッドオンユー GOOD ON YOU LTD.)
1月4日、オンラインで日本メディアの取材に応じた石川祐希(提供:株式会社グッドオンユー GOOD ON YOU LTD.)

■東京五輪について「感染した身としては人々の健康や命が最優先であってほしい」

 1年の延期となり、今年7月に開幕する運びとなっている東京五輪については、どのように思っているのだろうか。

石川「五輪のことは、もう一度代表選考から始まりますから、もちろん頭の片隅にはあります。でもそれ以上に、今は今シーズンにどれだけの結果を出し、どれだけのパフォーマンスをするかにこだわっています。目の前の試合、シーズンを戦うことしか考えていないです」

 五輪をやってほしいか、やってほしいとは思わないか。この難しい問いにも、石川は丁寧に言葉を選んで返答した。

石川「正直やってほしいです。アスリートとして五輪の舞台は特別だと思っていますし、これだけ大きな舞台はない。そこでプレーしたいという気持ちは強いです。でも、今の世界情勢を考えると簡単な判断ではない。コロナに感染した身としては、一番の考えは健康であること、元気であること。僕は実際に感染して、症状もありました。それによってやはり健康が一番だと感じています。人々の健康や命が最優先であってほしいです」

 新型コロナウイルス感染症に罹患したアスリートのリアルであり、本音だった。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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