【スピードスケート】ダブル制覇の偉業に挑む高木美帆vs V2狙う小平奈緒 ~28日、世界選手権開幕

2019年世界スプリント選手権優勝の小平奈緒(右)と2位の高木美帆(写真:ロイター/アフロ)

 スピードスケートの世界スプリント・オールラウンド選手権は、2月28日、ノルウェー・ハーマルで開幕する。昨年まではスプリント部門(500mと1000m2レースずつの合計)と、オールラウンド部門(短距離から長距離まで4レースの合計)が別々の日程で行われていたが、今年からひとつの大会に統一された。

 装いもあらたに開催される今大会で世界的な注目を浴びているのが、女子スプリント部門の小平奈緒(相澤病院)と高木美帆(日本体育大学助手)による頂上争いだ。

■女子スプリント部門展望

 女子スプリント部門で「オールラウンド」と「スプリント」のダブル制覇を狙うのが高木美帆だ。18年3月の世界選手権(オールラウンド部門)を日本人として初めて制し、“クイーン・オブ・スケート”の称号を得た高木美帆は、昨年は2月下旬の世界スプリント選手権と、3月上旬の世界選手権(オールラウンド)の両方に出場した。

「両方のタイトルを取れたら格好いい。1シーズンで両方にチャレンジできる機会は少ないので、無駄にしたくない」との意気込みで、過酷なスケジュールに挑戦。世界スプリント2位、世界選手権(オールラウンド)でも2位になった。同一年2冠の夢はかなわなかったが、同一年のダブル表彰台は女子では12年のクリスティン・ネスビット(カナダ)が世界スプリント1位、オールラウンド2位になって以来の快挙だった。

 ヨハン・デビットコーチが「高木美帆は素晴らしいレースをした。両方の表彰台は誰でもできることではない」と称賛したように、求められる性質の違う「スプリント」と「オールラウンド」を1シーズンで同時に制するのは極めて困難だ。達成したことがあるのは男女を通じても少ない。00年代以降はマルチスケーターとして活躍したアンニ・フリージンガー(ドイツ)が「オールラウンド」を01、02、05年に、「スプリント」を07年に制しており、今回、高木美帆がスプリント部門を制すれば、女子ではフリージンガー以来の快挙となる。

 

高木美帆の滑り(撮影:矢内由美子)
高木美帆の滑り(撮影:矢内由美子)

■挑む高木美帆、立ちはだかる小平奈緒

 ただし、壁は厚い。2年連続3度目の優勝を見据える小平がいるからだ。2月13日から16日まで行われた世界距離別選手権で、2日目にあった500mで女王の座を奪回し、最終日の1500mでは自己ベストを2秒58も更新するなど、シーズン終盤にきて充実した状態をつくりあげている。

 女子で世界スプリントを3度以上制した選手は過去に4人。以前は500mで強い選手がスプリント選手権を制する傾向が強かったが、近年は18年大会を制したヨリン・テルモルス(オランダ)のような、中距離の1000m、1500mに強い選手も頂点を狙うようになっており、高木美帆もその一人である。

2月8日カルガリーW杯にて(撮影:矢内由美子)
2月8日カルガリーW杯にて(撮影:矢内由美子)

 このため、世界スプリントを連覇する選手は減り、04年以降は15、16年に連覇したブリタニー・ボウ(米国)しかいない。最速の世界を切り拓くことに情熱を注ぐ小平には、「スプリンター」としての矜恃があるはず。高木美帆、あるいはテルモルスやボウらとの争いが楽しみであると同時に、日本人としては小平と高木美帆がワンツーフィニッシュを飾った昨年の再現にも期待したいところだ。

 平昌五輪の後に引退し、今季から復帰して1年目で出場権をつかんだ郷亜里砂(イヨテツクラブ)はできるだけ上位に迫りたい。世界距離別選手権では本調子ではなかったがどこまで状態を良くしているかに懸かる。

■女子オールラウンド部門展望

 昨年は高木菜那(日本電産サンキョー)の総合11位が最高で、佐藤綾乃(高崎健康福祉大)は13位。2人とも8人のみに絞られる最終種目の5000mに進めなかった。

 今季は高木菜那が大いに実力を伸ばし、2月上旬に高速リンクのカルガリーで行われたワールドカップやその翌週のソルトレークシティーでの世界距離別選手権で次々と自己ベストを更新している。佐藤もシーズン前半の不調からよみがえり、主要大会の時期にしっかりと調子を上げてきた。

 2人ともまずは最終種目出場ラインに到達し、そこからひとつでも上の順位を目指していくことがターゲットになる。

 酒井寧子(富士急行)も佐藤と同様に、シーズン前半の不調時と比べて調子を上げている。来季につながる滑りをしたい。

■男子スプリント部門展望

 

 男子スプリント部門では、初出場だった昨年の世界スプリント選手権で2位になった新浜立也(高崎健康福祉大学職員)への期待が膨らむ。昨年は、09年、10年と2年連続で表彰台に上がった長島圭一郎以来のメダリストとなり、日本のエースに躍り出た。

 今年の世界距離別選手権500mではスタートダッシュからバックストレートまでをほぼ完璧に滑ったが、経験したことのないスピードに達したことで第2コーナーの小さなカーブで重力に耐えられず、体勢を崩し、3位にとどまった。

 優勝したパベル・クリズニコフ(ロシア)は「新浜選手がインスタートだったら、僕と同じタイムだった」と語り、そのコメントを受けた新浜は「たらればだが、インアウトだったら勝てていたと思う」と強気。自信を胸に、4レースを滑り抜けてほしい。

 クリズニコフと同様に好調なロシア勢のヴィクトル・ムシュタコフや、カイ・フェルヴァル(オランダ)らとの白熱した争いが楽しみだ。

■伏兵の山中大地、新鋭の松井大和

 男子スプリントでは股関節痛で昨季後半を思い切って休養した山中大地(電算)の復調が著しい。

 平昌五輪の500mでは34秒78で日本勢最高の5位入賞。表彰台に0秒13届かなかったが、14年ソチ五輪の1000mで36位と沈んだところから大きな成長を示した。元々は中長距離がメインの選手。スピード練習の一環として取り組んだ500mで才能を開花させた。

 昨季の負傷により今季序盤は出遅れたが、ここにきて絶好調。2月の世界距離別選手権では34秒06の自己ベストを出して、日本勢では3位の新浜に次ぐ5位になり、「今はスケートが面白い」と笑顔を見せていた。現時点では目立っていないが、虎視眈々と上位を狙っているはず。4レースを高いレベルで揃えられれば表彰台も見えてくるだろう。

 山中はナショナルチームには入っておらず、小平とともに練習する「チーム信州」の一員である。ナショナルチームが大いに成果を上げている中、別角度の強化で世界と渡り合う選手が出てくるところにも、男子勢の上昇ムードが感じられる。

復活した山中大地(撮影:矢内由美子)
復活した山中大地(撮影:矢内由美子)

 新鋭の松井大和(日大)は昨年12月の全日本選手権スプリント部門で初優勝し、世界選手権の代表権をつかんだ。今月は、カルガリーとソルトレークシティーの高速リンクを初経験し、自己ベストを連発しながらも、新たな課題が見つかったと言う。ナショナルチーム入り1年目で大きく飛躍している今季は、すべてが学びの場。どこまで上位に食いこめるか。

新鋭スプリンター松井大和(撮影:矢内由美子)
新鋭スプリンター松井大和(撮影:矢内由美子)

■男子オールラウンド部門展望

世界距離別選手権で銀メダルを獲った日本男子チームパシュート勢。左から土屋陸、ウィリアムソン師円、一戸誠太郎(撮影:矢内由美子)
世界距離別選手権で銀メダルを獲った日本男子チームパシュート勢。左から土屋陸、ウィリアムソン師円、一戸誠太郎(撮影:矢内由美子)

 世界距離別選手権のチームパシュートで日本男子に初のメダルとなる銀メダルを獲得し、勢いに乗っている3人が出場する。

 パシュートチームのリーダー、ウィリアムソン師円(日本電産サンキョー)、エースの一戸誠太郎(ANA)、このところめきめき力をつけている若手の土屋陸(日本電産サンキョー)である。

 世界距離別選手権のチームパシュートでは2位になったが、湯田淳スピード強化本部長の見解は「実力的にはまだそこまで達していない」と厳しく、4番手くらいと見ているという。理由は単種目の5000mで入賞レベルに達する選手がいないこと。世界距離別選手権の1500mで3位と約0・2秒差の6位と健闘した一戸を中心に、17年大会の中村奨太以来となる最終種目(1万m)進出をつかみ取る選手が出てくるか。

 なお、大会は2月28、29日に男女スプリント部門、29日、3月1日に男女オールラウンド部門が行われる。

(※当初の記事では高木美帆がスプリントで勝った場合「史上2人目」としていましたが、アンニ・フリージンガー以外にもダブル制覇をした選手がいたため、見出しと本文を修正しました。申し訳ございません)

ソルトレークシティーの世界距離別選手権会場に掲出されていた応援バナー(撮影:矢内由美子)
ソルトレークシティーの世界距離別選手権会場に掲出されていた応援バナー(撮影:矢内由美子)