世界が称賛した日本代表のロッカー清掃、コパ・アメリカでも行われていた

コパ・アメリカ(南米選手権)を戦ったサッカー日本代表(写真:ロイター/アフロ)

 東京五輪世代を中心とする若き日本代表がチリ、ウルグアイ、エクアドルと熱戦を繰り広げたコパ・アメリカ(6月14日~7月7日、ブラジル)。本気の強豪国と互角に渡り合い、決勝トーナメント進出まであとわずかと迫った日本代表が、ブラジルの地で人知れず継続していた“美しき習慣”があった。

■槙野智章に届いた“報告”

 「今回もやっていましたね」

 そう語るのは槙野智章(浦和レッズ)だ。日本代表のスタッフから槙野のスマホに写真が届いたのはコパ・アメリカの期間中だった。そこには試合後、片付けと掃除が済まされ、すっきりとしたロッカールームが写っていた。

「きれいに用意してもらったロッカーを、きれいにして返すのは当たり前だと思います。当たり前のことを当たり前にやる。そういうことですよね」

 槙野は、「あの掃除の中には、いろいろなものが詰まっているんです」と言葉を継いでいった。

2018ロシアW杯。カザンでの日本代表合宿で、槙野智章(右)は原口元気とランニング(撮影:矢内由美子)
2018ロシアW杯。カザンでの日本代表合宿で、槙野智章(右)は原口元気とランニング(撮影:矢内由美子)

■「日本の品性」「すべてのチームのお手本」

 日本代表がロッカールームを清掃するようになったきっかけは、昨夏のロシアW杯だ。昨年5月18日に発表された日本代表メンバー23人は、国内での親善試合(5月30日、ガーナ戦)、事前合宿を張った欧州での親善試合(6月8日スイス戦、同12日パラグアイ戦)を経ながら徐々に先発組が固定されていった。先発組とサブ組の境目が次第にハッキリしていく過程では、「W杯のピッチに立つ」という高い意識で集結しているからこそ、出番が訪れない選手は気持ちを保つのが難しくなるものである。

2018ロシアW杯。ベースキャンプ地カザンでトレーニングする本田圭佑(左)と大迫勇也(撮影:矢内由美子)
2018ロシアW杯。ベースキャンプ地カザンでトレーニングする本田圭佑(左)と大迫勇也(撮影:矢内由美子)

 しかし、ロシアW杯の日本代表は最後まで全員がチームのために全力を注ぐ強固な状態を保ち続けた。それを可能にしたのは何か。その一つが、本田圭佑による「ロッカーをきれいにしよう」という提案だったと槙野が以前に語っていた。

 昨年7月上旬。ロシアW杯の日本代表が、決勝トーナメント1回戦のベルギー戦終了後にロッカールームを清掃し、ロシア語で「ありがとう」と書いた紙を残して大会を去ったことが報道されると、世界中から「日本の品性」「すべてのチームのお手本」と称賛された。そしてその行動が、本田の日本代表引退後も、槙野らの率先によって継続していったのだった。

 今年2月1日のアジア杯決勝では、日本とカタールの試合が行われた翌日に、大会公式Twitterが、「日本はロッカールームを汚れ一つない状態にし、英語、アラビア語、日本語で感謝のメッセージを残して大会を去る」と、ロッカールームの写真入りで伝えた。

大会公式ツイッターの投稿

 槙野は言う。

「掃除ってやっぱり面倒くさい。でも僕は、スタッフが片付けるのが当たり前だとは思っていなくて、選手がやるのが当たり前だと思っているんです。その中で、じゃあ誰がやるのかというときに、ベテランだからやらないというのはおかしいと思う」

「ただし、試合に出たグループと、出ていないグループがいます。試合に出ている選手たちは次の試合に向けて早くリカバリーをしないといけない。だからジョギングをしたり、ケアをしないといけないけど、出ていない選手たちはチームのために働くという意味で、片付けやゴミ捨てをやるのが仕事だと思っています」

「試合に出られなくて悔しい思いがある選手もいると思います。でも、そういう感情を押し殺してチームの和をつくるのも大事だと思うんです。僕は、ああいうところでチームワークや絆が深まると思うんですよね。長い合宿になると出ている選手と出ていない選手の温度差が出てきたりする。そこを見つけて、お前もやろうよ、と声を掛け合う」

 槙野によれば乾と一緒のときは“放課後の教室掃除”さながら、じゃれあうように後片付けをしていたという。

「そんな感じでもいいと思うんですよ。そうやることで、若い選手、中堅、ベテランが融合してうまくやれたら、またチームとしての和がつくれますから」

冨安は若手ながら森保監督とともに試合前日の記者会見にも出席した(撮影:矢内由美子)
冨安は若手ながら森保監督とともに試合前日の記者会見にも出席した(撮影:矢内由美子)

■「冨安くんが率先してやってくれた」

 今回のコパ・アメリカでは、冨安健洋(シントトロイデン→ボローニャ)が率先して掃除をしている様子がスタッフから槙野に伝えられたそうだ。

「冨安くんが率先してやってくれていましたね。彼はいつもやってくれるんです。試合に出ていようが出ていまいが、いつもやってくれるんですよ」

 実は、槙野のところにロッカー清掃の情報が届けられたのはコパ・アメリカだけではない。槙野が不在だった親善試合では、選手たちから画像が届いていたこともあるそうだ。

「こういうのが日本の文化であり、素晴らしさであるとみんなが気づいていければ、サッカーはもちろん、それ以外のところの価値も上がっていくと思います。これが日本代表の当たり前の流れになっていけばいいですね」

ベロオシゾンテでの練習は一般公開され、現地の子供たちと記念撮影をした。冨安は右上(撮影:矢内由美子)
ベロオシゾンテでの練習は一般公開され、現地の子供たちと記念撮影をした。冨安は右上(撮影:矢内由美子)

 純粋に良いと思えることを選手が自発的に行っていく。それを継続していく。ニュースに取り上げられたいからやっているわけではない。

コパ・アメリカ2019のマスコット「ZIZITO」(撮影:矢内由美子)
コパ・アメリカ2019のマスコット「ZIZITO」(撮影:矢内由美子)

 日本代表サポーターが試合後のスタンドでゴミ拾いをして帰る姿はもはやお馴染みで、訪れる国々で爽やかな印象を置き土産にしている。ロッカールームの清掃も、いつかサムライブルーのスタンダードな印象として世界に知られるようになるのだろう。