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【体操】東京五輪へ躍り出た17歳の“倒立王子” 三輪哲平

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
体操個人総合スーパーファイナルで2位になった三輪哲平(11月23日)(写真:田村翔/アフロスポーツ)

 男子体操の新設大会「個人総合スーパーファイナル」が11月23日に群馬県の高崎アリーナで行われ、協会推薦で出場した高校3年生の三輪哲平(17歳、大阪・清風高)が、昨年の世界選手権個人総合銅メダリストである白井健三(日体大4年)に続く2位に食い込む大健闘を見せた。3位は、今秋の世界選手権個人総合で6位の萱和磨(順大4年)。この大会は来年開催される個人総合ワールドカップシリーズ(全4戦)の代表選考を兼ねており、白井にはW杯2試合、三輪と萱にはW杯1試合に出場する権利が与えられた。

■跳馬と平行棒が得意

 昨年の国際ジュニア、今年の高校選抜、インターハイの個人総合を制している三輪は、終始落ち着いた演技を見せた。あん馬からスタートし、得意の跳馬では高難度の「ロペス」を成功。同じく得意の平行棒では出場12選手中2番目に高いDスコア6・3の構成をしっかりと演技し、5種目めとして行った鉄棒では、ピタリと動かぬ着地を見せて全体の2位の14・200点をマークした。5種目を終えて2位で迎えた最後のゆかではラインオーバーもあって点が伸びなかったが、表情を変えることなく丁寧な演技。合計点は84・132だった。 

 内村航平こそ足首負傷の影響で出場していなかったものの、白井や萱、谷川航と翔の兄弟、アジア大会代表勢の野々村笙吾や千葉健太、前野風哉ら、国内トップのオールラウンダーたちで競われたこの大会。東京五輪にもつながっていくW杯の出場権を懸けた重要な大会で飛び出した17歳は、どのような選手なのだろうか。

■基礎を教えたコーチは1987年世界選手権代表の寺尾直之さん

 三輪は2000(平成12)年12月21日、静岡県清水市(現静岡市)生まれ。2つ上の兄がやっていたことがきっかけで4歳から地元の「清水ペガサス体操クラブ」で体操を始めた。

 最初は幼児クラスで週に1回の練習。小1になる前から同クラブの選手コースに入り、1987年世界選手権(オランダ・ロッテルダム)に出場した元日本代表選手である寺尾直之コーチの指導を受けた。寺尾コーチは双子の兄・知之さんとともに「寺尾兄弟」として活躍。あん馬と鉄棒以外はすべて得意というオールラウンダーで、1987年ロッテルダム世界選手権では団体総合5位、個人総合21位という成績を残した。

 寺尾コーチによると三輪は「非常に意識の高い子ども」だった。

 選手コースに入りたてで、まだポチャポチャした幼児体型だった頃。三輪が突然「寺尾先生を抜きたい」と言った。

「先生を超えるにはオリンピックに出ないと抜かせないよ」

「うん、抜かす。オリンピックに出る」

 素質のある子どももいる中で、三輪には柔軟性こそあれ、特別な能力はなかったと寺尾コーチは言う。しかし、言われたことは真面目にコツコツとやる。そして、「オリンピックに出る」と宣言した通りに体操に打ち込み、選手コースに入ってから練習を休んだことは1日もなかった。

 こうして三輪は小1で出た静岡の大会で、マット(側転、倒立前転など)と跳び箱(転回跳び)の2種目で10点満点を出した。

「姿勢も指先もつま先もきれいでした。2種目とも10点満点という子は静岡では初めてでした」

■失敗したことがないという“倒立王子”

 そんな三輪が最も秀でていたのは「倒立」だった。小学校3、4年生ごろの時期に清水ペガサスで行った2泊3日の合宿。寺尾コーチは不意打ちをかけて子どもたちを朝6時に起こし、すぐに倒立をやらせてみた。すると、寝起きでバランスをうまく取れない子どもがほとんどという中で、三輪だけがピタッとまっすぐに静止していた。

「倒立は最初から強かった。“乗せ方”がうまくて、失敗したことがありません」

 寺尾コーチの指導方針は基本を大事にすることと、きれいな演技をさせること。倒立こそ体操の基本と考える中で、倒立の練習に多くの時間を割いたことで、三輪は平行棒とつり輪の強い選手へと育っていった。

 今回のスーパーファイナルでは、高校3年生でシニアと同じ土俵でつり輪を競い合うにはさすがに筋力がまだ足りていなかったが、平行棒では既にシニアレベルでも十分に渡り合える実力を持っていることが証明された。さらに、跳馬ではDスコア6・0の「ロペスハーフ」にも挑んでいるという。

 寺尾コーチは言う。

「彼は昔から度胸がある。淡々とやる子で、緊張しているように見えない。今回のスーパーファイナル2位という成績でワールドカップに出ることになったので、世界大会に出るという意味では私と並びました。オリンピックに出て、私を超えて欲しいです」

■水鳥強化本部長「エースになっていく存在」

 スーパーファイナルに三輪と北園丈琉を推薦した水鳥寿思男子強化部長は、結果を受けて目を細めていた。

「期待以上にやってくれてうれしかった。最後に結果を出せる選手は限られている。エースになっていく存在だと思う。2年後へのポテンシャルを感じるし、来年から世界選手権に入ってくるかもしれないと今回感じた」

 水鳥本部長はさらに三輪について「力強さがある。楊威(中国)みたいにできる強さを持っている」と、2008年北京五輪個人総合金メダリストにもたとえて絶賛した。

■目標は内村航平

「目標は内村航平選手。オールラウンダーで美しくダイナミックさもある」という三輪の目標は「オリンピックで団体に貢献して団体優勝し、個人総合でも優勝すること」

 物静かな17歳が見せる丁寧な体操は、未完成だからこその魅力にも包まれている。三輪が大きな目標へ向かい、第一歩を力強く踏み出した。

全日本体操団体選手権のあん馬で清風高校の最終演技者として登場した三輪哲平(撮影:矢内由美子)
全日本体操団体選手権のあん馬で清風高校の最終演技者として登場した三輪哲平(撮影:矢内由美子)
サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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