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ロシアW杯の記憶 U-19日本代表が胸に刻んだこと。久保建英、安部裕葵、荻原拓也、橋岡大樹、郷家友太

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
6月22日、U-19日本代表対U-20ルビン・カザン。ドリブルする久保建英(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 ベスト16に入った日本代表サムライブルーが世界にインパクトを残して散ったロシアW杯は、フランスの優勝で幕を閉じた。6月14日から7月15日までの32日間は、世界中がサッカー一色に染まった幸せな日々だった。

 この期間、ロシアで大きな刺激を受けた10代のサッカー選手たちがいる。A代表であるサムライブルーがベースキャンプ地としていたロシア・カザンで、6月18日から26日まで合宿を張ったUー19日本代表の23人だ。

 FW久保建英(F東京)、MF安部裕葵(鹿島)、MF郷家友太(神戸)DF橋岡大樹(浦和)、DF荻原拓也(浦和)ら、次代の日本サッカーを背負うと期待されるメンバーたちはロシアで何を感じたのか。備忘録として記したい。

6月26日、カザンでの最後のトレーニングマッチ後のU-19日本代表集合写真(撮影:矢内由美子)
6月26日、カザンでの最後のトレーニングマッチ後のU-19日本代表集合写真(撮影:矢内由美子)

■6月18日から26日まで、カザンで合宿を張った

 6月17日に日本を発った23人が合宿を開始したのは、翌18日からだった。ロシアリーグの強豪であるルビン・カザンのトレーニング施設には13日からA代表も入っていたが、A代表は19日に行なわれるW杯グループリーグ初戦のコロンビア戦に向けてすでに開催地のサランスクに行っていた。

 Uー19のメンバーたちは部屋に入った後に軽く体を動かし、休憩に入った。彼らにはこの後、サランスクへの約9時間のバス移動が待っていた。

 23人は翌19日午後3時からサランスクの会場で日本対コロンビアの試合を観戦した。1999年から2001年生まれの彼らにとって、2002年日韓W杯は、見ていたとしても実体験としての記憶はない。後日、話を聞いた選手全員が「初めて生で見たワールドカップ」がこの「日本対コロンビア戦」だったと語っていた。目の前で繰り広げられた行き詰まるつばぜり合いのような一戦、そして日本の勝利は、若い彼らの胸を存分に刺激した。

 Uー19日本代表はコロンビア戦に2-1の勝利を収めたA代表とともに、19日夜にチャーター機でカザンに戻った。行きは狭いバスでの9時間もの陸路移動。帰りの陸路は警察車両に先導され、飛行機はチャーター機。スタジアムを出てから2時間ほどで宿舎に戻ったそうだ。日本サッカー協会担当者によれば、この両方を経験させることにも狙いがあった。彼らは20日にはカザンで開催されたスペイン対イランの試合もスタンド観戦した。

 また、U-19日本代表の影山雅永監督によれば、ドイツやアルゼンチンは以前からアンダーカテゴリーの選手がA代表と同時期にW杯のベースキャンプ地に帯同しているというが、日本は初めてだった。

 

ベースキャンプ地カザンに設置されたモニュメント(撮影:矢内由美子)
ベースキャンプ地カザンに設置されたモニュメント(撮影:矢内由美子)

■久保建英「刺激だらけです」

 カザンでのUー19日本代表のトレーニングが報道陣に最初に公開されたのは22日だった。Uー20ルビン・カザンとトレーニングマッチ(30分3本)を行い、FW原大智(FC東京)のゴールで1-0で勝利した。試合後には取材対応の場が設けられた。

「刺激だらけというのが正直なところです。A代表の方と一緒に練習するのもそうですし、何よりワールドカップの雰囲気を味わえたり、試合を生で見たりというのはだれもができることではない」

 興奮気味にそう話していたのは、バルセロナの育成組織で育った久保建英だ。W杯は開幕してから約1週間が過ぎており、テレビ観戦した試合もいくつかある中で、ここまでに最も印象に残った試合はどれかと聞かれると、迷うことなく、「一番印象に残ったのは日本の試合です」と即答した。

「理由は自分は日本人だから。自分の国のトッププレイヤーを見ると、自分もいつかこうなりたい。自分の目指しているところです。他の国の試合も迫力がありますが、やっぱり自分の国の代表は一番です」

 しっかりと前を見据えて話す姿は非常に印象的だった。久保は21日行われたA代表の控え組対U-19日本代表とのゲーム形式のトレーニングで、A代表チームに入る時間もあったというが(※非公開)、スタッフによれば、「かなりやれていた」という。高いレベルの中に入ってプレーしたことで、能力を引き出されたのだろう。

ロシア遠征時のU-19日本代表。17歳から19歳のメンバーたちが、合宿最後にはすっかりひとつのチームに。(撮影:矢内由美子)
ロシア遠征時のU-19日本代表。17歳から19歳のメンバーたちが、合宿最後にはすっかりひとつのチームに。(撮影:矢内由美子)

■安部裕葵「先輩のように、頼もしい選手になりたい」

 その久保と同様に、A代表チームに混じってプレーした安部裕葵は、「身近にA代表を感じることができているし、ワールドカップのピリッとした雰囲気も感じることができていて、すごく良い遠征になっています」と落ち着いた口調の中にも弾むような気持ちが見えた。

 ゲーム形式の練習でMF本田圭佑と同じチームでプレーしたことについて聞かれると、「すべてが違うと思いました。パスひとつ、トラップ、守備、攻撃、すべてが違いました」と自分に言い聞かせるように語った。

 また、日本対コロンビア戦については「会場の熱気がJリーグとは違っていました。ああいう環境で戦う先輩方のように頼もしい選手になりたいと感じました」と、意欲をかき立てられていた。

 最も印象に残った試合を聞かれると、スペイン対イラン戦を挙げた。

「スペイン代表を見て衝撃を受けました。スピード感や守備、攻撃、すべてがひとつ、二つ、上のレベルだと感じました。こういう機会はない。できるだけ自分のために、得られるものはすべて得られるよう、良い合宿にしたいです」

■荻原拓也「ワールドカップ出場への強い意志が生まれた」

 Uー20ルビン・カザンとのトレーニングマッチで攻撃的な左サイドバックとして多くのチャンスを演出していたDF荻原拓也は「ワールドカップを生で見て、今まで以上に、4年後、8年後に自分がワールドカップに出場したい、するんだという強い意志が生まれました」と、文字通り目の色が変わったようだった。

「試合を見てワールドカップ独特の緊張感を肌で感じました。そういう緊張感をつねに持ちながら練習したらワールドカップに立ったときにもできるんじゃないか。つねに見据えて行動したいです」

 荻原は意識改革にも言及した。

「4年後、あるいは2年後の東京五輪のために、自分が今何をできるのか、このままでいいのかという自問もできました」

 ロシア遠征に参加した今回のチームには荻原や久保を含めて左利きの選手が多い。荻原は「右サイドにも左利きの選手が入ったり、面白いチームになっていくと思う」と話し、10、11月にインドネシアで行われるAFC Uー19選手権での勝利と未来への飛躍を誓った。

U-20ルビン・カザン戦の荻原拓也(撮影:矢内由美子)
U-20ルビン・カザン戦の荻原拓也(撮影:矢内由美子)

■9日間で大きな刺激を受けた

 Uー19日本代表は24日の日本対セネガル戦もエカテリンブルクのスタジアムで生観戦した。日本は前半11分にミスからFWマネに先制されたものの、同34分にMF乾貴士の同点弾で追いつくと、後半26分に追加点を許して1-2とされたが、その7分後に途中出場のMF本田圭佑が左足でゴールを決め、2-2の引き分けに持ち込んだ。

 セネガル戦でさらなる刺激を受けたUー19日本代表は、26日に再びU-20ルビン・カザンとトレーニングマッチ(30分3本)を行い、2本目と3本目に出た久保の2得点で2-0の勝利を収めた。

 合宿での全活動を終えた後、久保はセネガル戦でたくましさを見せたA代表について聞かれると、「全体的に日本のほうが良いチームだったと思いました。相手を細かいパスで揺さぶっていて、チームとしても個人としても上回っていたのではないかと思います」と言った。

 カザンでの合宿についてはこう話した。

「大きな刺激を受けました。自分にとっても、これからサッカーをやっていくうえでプラスになると思います。そこに立ってみないと分からないこともあると思うので、まずはあそこに立つために毎日努力するだけです」

 久保の口調には一度目の取材対応日だった22日と比べて冷静な響きがあった。だが、これは久保だけではない。チーム全体がコロンビア戦を見て高揚感に包まれたが、それからの数日間で現実に思いを落とし込んで、この先の課題に目を向けたからなのだろう。

U-20ルビン・カザン戦の菅原由勢(名古屋グランパスU-18)はこのときはまだ17歳(撮影:矢内由美子)
U-20ルビン・カザン戦の菅原由勢(名古屋グランパスU-18)はこのときはまだ17歳(撮影:矢内由美子)

■橋岡大樹「4年後にああいうところに自分も立ちたい」

 Uー21日本代表にも飛び級で選ばれてトゥーロン国際にも出場していた橋岡大樹(浦和)は、この年代の中でも最も多くの試合に出ている選手の一人だ。所属の浦和では右ウイングバックや右サイドバックで出場しているが、このチームでのポジションは橋岡本来のセンターバック。手足の長いUー20ルビン・カザンの選手とのマッチアップは、良い経験になった。

「この遠征はA代表のトレーニングパートナーとしての練習や、ワールドカップを生で見ることも貴重な体験だったけど、それだけじゃありませんでした。ルビン・カザンとの練習試合でも成長できたと思います。チーム全体では、前からいくところや切り替えは少しずつですが良くなってきていて、チーム的にも成長していると思います」

 もちろん、スタンドで見たワールドカップ3試合からも刺激を受けた。

「試合を生で見たり、少し練習試合をやったりして、そういった中で、自分たちも4年後にああいうところに立ちたいと。それは以前から思っていたことですが、もっと強く思うようになりました。本当にすごいあこがれの場所です」

U-20ルビン・カザン戦の橋岡大樹(撮影:矢内由美子)
U-20ルビン・カザン戦の橋岡大樹(撮影:矢内由美子)

 

■郷家友太「イニエスタ選手を脅かす選手にならなくては」

 後にチームメートとなることが決まっていた世界的英雄を、“ライバル視”も込めた目線で見ていたのは、郷家友太(神戸)だ。

 最も印象に残った試合と選手を尋ねられた郷家は「スペイン対イラン」と「イニエスタ」の名を挙げた。

 試合を見た感想としては、「世界を見ると一瞬のスピードが勝負だと思うので、もう少し一瞬のスピードや長い距離を走るスピードを上げて、世界で闘えるような選手になりたいと思いました」と言った。また、イニエスタについては「イニエスタ選手は自分でボールを持ちたいタイプだと思うので、一緒に崩せたら良いなと思います」と言いながらも、神戸ではポジションが被るという現実を思い浮かべながら、「一緒にプレーできるかどうかは分からない。スタメンを取っていけるよう、あこがれの気持ちをなくしていきたいです」

 郷家は、青森山田中・高校の先輩である柴崎岳からも学ぶところがあったという。

「ポジションは違うのですが、長短のパスがすごくうまいので、見習いたいです」

 そして、最後に言った。

「見て経験したというだけではダメ。日本に帰ってこれをどう生かせるかが勝負だと思っています。今回学んだことを生かして、J1で出続けて、イニエスタ選手を脅かすくらいの選手になりたい。今回のロシア遠征であらためて将来の夢を再確認できました。来年のU-20ワールドカップや東京五輪を見据えて頑張っていきたいです」

 J1リーグは7月18日に再開する。23人のほとんどがJ1クラブ所属選手。遠征で何を学び、何を生かしていけるか。リーグの試合でも彼らに注目していきたい。

6月21日、皇族として102年ぶりにロシアを訪れた高円宮妃久子さまの激励を受けた日本代表とU-19日本代表(撮影:矢内由美子)
6月21日、皇族として102年ぶりにロシアを訪れた高円宮妃久子さまの激励を受けた日本代表とU-19日本代表(撮影:矢内由美子)
リラックスした様子で合宿施設内を歩くU-19日本代表。いずれ日本を背負う有望株(撮影:矢内由美子)
リラックスした様子で合宿施設内を歩くU-19日本代表。いずれ日本を背負う有望株(撮影:矢内由美子)
明るい表情の横浜F・マリノスMF山田康太(撮影:矢内由美子)
明るい表情の横浜F・マリノスMF山田康太(撮影:矢内由美子)
合宿で多くのものを得た国士舘大DF谷口栄斗(ひろと)(撮影:矢内由美子)
合宿で多くのものを得た国士舘大DF谷口栄斗(ひろと)(撮影:矢内由美子)
サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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