【スピードスケート】小平奈緒が完遂した金メダルへのシミュレーション

平昌五輪選考大会で爆走する小平奈緒(写真:アフロ)

 12月27日から30日まで長野エムウェーブでピードスケート平昌五輪選考大会が行われ、男女計16人の代表選手が決まった。白熱したレースが続いた中で、盤石と言うべき強さを感じさせたのは、やはり、小平奈緒(相澤病院)。W杯の成績により、すでに内定を得ていた500mと1000mでは国内最高記録を出し、3つ目の出場種目として滑った1500mでは今季W杯4連勝中の高木美帆(日体大助手)に次ぐ2位になった。記録も順位もさすがという結果での代表決定だった。

 ただ、今回の大会で小平が手にしたものはそれだけではない。圧倒的な実力を見せつけていた裏で、本番での金メダル獲得へ向け、練習だけでは決してできない綿密なシミュレーションを完遂させていたのだ。

■スタート直前のアクシデント

「スタートの直前に左の(靴の)バネが折れたんです」

 小平が衝撃の事実を明かしたのは、自らが世界記録を持つ1000mのレース後だった。小平が滑る1組前のレース中にスケート靴の足裏部分にあるバネが突然折れた。

 滅多に起こらないアクシデントであり、しかもレース直前という最悪のタイミングだった。動揺を懸命に抑えながら結城匡啓コーチのところへ行き、常備している予備のバネに手際よく交換した。どうにかレースに間に合うという、綱渡りの状態でのスタートとなった。

「不安ですごく慎重になり、最初はバネを確かめながら滑った。結城先生とは普段からそういうこともあるだろうと話してはいたが、それが現実になって、本当にこういうことが起こるんだと思った」

 突然のハプニングは、見方を変えれば最高のシミュレーションになった。五輪では何が起こるか分からないからだ。

 98年長野五輪の男子500mでは、20組で滑る清水宏保の出番の前に水を差される出来事がいくつも重なった。16組で転倒者が担架で運ばれてレース中断。17組では2度、18組では3度もスタートのやり直しがあった。10年バンクーバー五輪では、男子500mで整氷車が故障したため1時間以上も中断した。

 長野の清水は金、バンクーバーでは長島圭一郎が銀、加藤条治が銅メダルに輝いたが、それができたのは3人ともたぐいまれな集中力の持ち主だからこそ。小平にとっても今回の出来事は、アクシデントに動じない集中力という面で自信につながったはずだ。

■大きな収穫はアウトスタートを経験したことだ

 今回の選考大会では500mと1000mで今季初めてアウトスタートのレースを経験した。ランキングによって滑る順番が決まるW杯では、昨季からぶっちぎりの強さを見せている小平の500mでの定位置は「最終組のインコース・スタート」。1000mも今季はすべてインスタートだった。けれども、平昌五輪ではインスタートになるかアウトスタートになるかが抽選で決まる。

 インとアウトの有利不利は、特に1000mで大きな差となって出る。スタート位置から最初のカーブまでの距離が長いインスタートに比べると、スタート位置からカーブまでの距離が短いためにスタートダッシュをしにくいアウトスタートは「別の種目というくらい違う」(結城コーチ)という。一方の500mは、カーブ技術が向上している現在はアウトスタートを好む選手が多いが、それでも最終コーナーの小さなカーブは、レースをこなしていかないと自信を持って突っ込めないものである。

 今回の小平は500mでは2位の郷亜里砂に0秒27差をつけて優勝し、1000mでも2位の高木美帆に0秒21差をつけての1位。どのコースからのスタートでもきっちりと実力を出せることをあらためて示した。

「アウトスタートは望んでいたコースだった。公式レースでやるかやらないかというのはすごく大きな違い。今回は2種目とも経験値が少ないコースで滑れたのはオリンピックに向けて本当に良い準備になった。運も味方していると感じた」。小平の表情には笑みも浮かんでいた。

■昨シーズンに済ませているシミュレーションも

 昨シーズン中に終えているシミュレーションもある。代表的なことは、平昌五輪会場でのレースだ。2017年2月9日から12日まで開催された世界距離別選手権の舞台は平昌五輪の本番会場。小平はそこで500mで金メダル、1000mで銀メダルに輝いている。

 地力を養い、シミュレーションも万全。小平は3度目の五輪へ向けて着々と歩みを進め、2018年への幕を開ける。