【バスケットボール】大神雄子の “元気が出るバスケ” を見に行こう ~今季限りで引退~
■「今季がラストシーズン」
日本女子バスケットボール界の至宝、元女子日本代表ポイントガードの大神雄子(トヨタ自動車アンテロープス)が、10月7日に開幕する今季Wリーグを区切りに、現役を引退することを表明した。
「自分の中では今季がラストシーズンです」
大神はすがすがしい表情で言った。10月2日に都内で行われた2017-2018のシーズン開幕に向けた記者会見。各チームのヘッドコーチとキャプテンが今季の抱負を述べた後に行われた囲み取材の場で、大神はその決意を口にした。
1982年10月17日、山形県生まれ。愛知・桜花学園を卒業後、2001年にジャパンエナジー(現JXーENEOS)に加入し、2004年アテネ五輪にはチーム最年少の21歳で出場した。2008年には日本選手で2人目となる米女子プロリーグ(WNBA)入り。2010年世界選手権では8試合に出場し、1試合平均19・1得点で大会得点王に輝いた。
女子日本代表キャプテンも務めた。コートを縦横無尽に動き回るプレースタイルはまさに“元気が出るバスケ”だった。
「21歳でアテネ五輪にも出場しましたし、多くの経験を積んできました。セカンドキャリアを考え始めた時、自分の経験を伝えることが恩返しだと思ったのです。今シーズンで区切りをつけて、コーチングの勉強をしたいと思います」
■夢は五輪監督
2014年まで日本代表に選ばれ続け、2015年に加入したトヨタでは、ドナルド・ベックヘッドコーチの下、チームリーダーとして活躍。昨シーズンはリーグファイナルに進出し、9連覇を達成したJXーENEOSに敗れたものの、準優勝に貢献した。
今季を現役の最後にすると言ったとき、周囲の反応は人それぞれだったという。
「まだやれるんじゃないかという声と、『シン(大神のコートネーム)ももう34歳なのか』という声がありました。人によってとらえ方がそれぞれでしたね」
引退後は英語の勉強をして世界中のバスケをチームの内側から見たいという野望がある。つまり、世界を股に掛けた指導者。
「日本だけじゃなく、海外リーグのコーチもやってみたい。WNBAやヨーロッパリーグなど、世界のバスケを見てみたい。それを外から見るだけではなく、中に入って見たいんです。それを一つのモチベーションにできればと思っています。女子だけじゃなく、男子もそう。チャンスがあればBリーグも見てみたい」
情熱が向かう先には五輪監督もある。
「選手として経験させてもらったオリンピック。今度はオリンピック代表のヘッドコーチになれたらいい」
■ラストシーズンを多くの人に見てもらいたい
Wリーグ開幕を前に引退を表明したのは、ラストシーズンを多くの人に見てもらいたいという思いがあるからだ。Wリーグはホームアリーナ制ではなく、全国各地の会場で試合を行う。1人でも多くの人に最後の勇姿を見てもらい、バスケットボールを盛り上げ、「メジャーにしていきたい」と考えての発表だった。
引退の前に最後のミッションとして掲げている目標は、ずばりリーグ優勝。「10連覇に挑戦できるのはJXーENEOSしかありませんが、それを止めることができるのは私たち11チームだけ。挑戦者として楽しみたい」
大神は「JXの9連覇のうちの何回かは私も絡んでいましたからね」と笑って言い、ドナルド・ベックHC体制3年目で古巣を打ち破ることを誓っている。
トヨタは今季、富士通レッドウェーブから日本代表FW長岡萌子、アイシンAWから同FW馬瓜エブリン、そしてシャンソン化粧品シャンソンVマジックからはリオデジャネイロ五輪代表PG三好南穂を獲得した。トヨタの大型補強は今季のWリーグの大きな話題だが、以前は滅多になかったチーム間の移籍を活発化させる起爆剤となったのも大神だった。
12シーズンを過ごしたJX―ENEOSを退団して中国リーグでプレーした翌シーズンは、選手登録のルールの壁に阻まれ、日本代表選手でありながら所属チームがないという苦しみも味わったが、それも問題提起となった。
トヨタは10月7日の開幕戦でアイシンAW(名古屋・稲永スポーツセンター、14時開始)と対戦する。
「今年はリーグ最年長になりましたからね。がんばりますよ」
大神の勇姿を見られるのは今季が最後。コートを縦横無尽に駆け回る大神の“元気の出るバスケ”を目に焼き付けたいシーズンが、いよいよ始まる。