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【体操】“美の競演”NHK杯 内村航平、田中佑典、白井健三が持つ、それぞれの美

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
4月の全日本個人総合選手権1位の内村、2位の田中、3位の白井(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

体操の世界選手権(10月、カナダ・モントリオール)の代表選考を兼ねるNHK杯(女子20日、男子21日)に向け、大会9連覇と個人総合40連勝が懸かる内村航平(リンガーハット)、4月の全日本選手権で内村とわずか0・05点差で2位になった田中佑典(コナミスポーツ)、同じく0・25差で3位になった白井健三(日体大)が、試合会場の東京体育館で会見を行なった。

リオ五輪まで続いた“技の難度”を重視する戦いから“実施の美しさ”に重きを置いた新ルールが施行され、5カ月余りが経過した。上位2選手に与えられる世界選手権切符を目指す今大会も、美しさを競う戦いへ、選手の意識が変化してきている。

■美しさに一家言持つ内村航平

美の競演へ向け、最初に自信をみなぎらせたのは内村だ。“美しい体操”について一家言持つ体操王は、演技の出来映えを示す「Eスコア」で確かな評価を得るために必要なこととして、「僕の場合はキレのある演技」とコメント。そこから派生して、「選手それぞれに美しさがある。僕はキレの中に美しさがある」と続け、田中の持つ「美」の特徴を「しなやかさの中の美しさ」と表現した。

06年に同時にナショナルチーム入りをした内村と田中は、12年から昨年までコナミスポーツでともに練習をしており、深い縁がある。14年の世界選手権のつり輪で、田中が自らの持ち味である「腹筋と腸腰筋の柔らかさ、強さ」(田中)を生かした新技(ホンマ脚上挙十字懸垂)を成功させ、「タナカ」と命名された際は、その柔軟性に対して、「子供の頃からの練習のたまものですよ」と心からリスペクトしていた。しなやかな美しさには、この柔軟性が大きく寄与している。

最後に一言だけだったが、内村は「(白井)健三にはまた違う種類の美しさがある」とも言った。

■田中「航平さんはスピード感のある美しさ。僕は…」

内村の会見でのコメントを受け、田中はしばし沈黙の中で熟考し、両者の美しさの違いをこう説明した。

「航平さんはスピード感のある美しさ。勢いをすべてコントロールできている美しさがある。僕の体操の美しさは、どちらかというと勢いは少ない方。どの局面においても力のコントロールができている体操を目指している」

田中は「いろいろな人が手をかけてくれた僕のこの体操を、一度は日本一にしたい」とも話した。幼い頃から両親に教え込まれてきた美しさを追求する体操への自負や使命感である。

全日本では僅差で「1位」を逃した。「やるからには1位を目指したい。自分の体操を国内1位にしたい」。意気込みは強い。

■白井「僕の美しさは度胸です」

3人の中で最後に会見を行なった白井にも、美しさについての質問が出た。

世界最高難度の技を駆使して世界選手権種目別ゆかで2度の金メダル、リオ五輪種目別跳馬で銅メダルを獲得してきた白井の最大の武器は、誰にもまねのできないオリジナル技である。

だが、美しさについても妥協はない。「航平さんや佑典さんと比べれば足のラインや(技の)決めはまだまだ甘いところもある。でも、度胸や一発にかける勇気は誰にも負けない。演技には出ないけれど、そこが僕の美しさだと思う」

白井には、未知の境地に挑戦するという攻めの美学があるのだ。

体操NHK杯は20日に女子、21日に男子が行なわれる。“美の競演”に火花を散らすのは女子だけではなく、男子も一緒。内村の連勝記録、さらには誰がそれを止めるのかへの関心が高い中で、それぞれの個性を生かした美しさを競う姿にも注目したい。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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