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【フィギュアスケート】羽生結弦が語った事故の詳細とNHK杯出場への意志・NHK杯会見全文

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
NHK杯会見に出席した日本選手(羽生結弦は後列左から2人目)

11月28日に大阪で開幕するフィギュアスケートのGPシリーズ第6戦NHK杯に出場する日本選手が27日、記者会見を開き、第3戦の中国杯で頭部、左大腿など計5カ所を負傷した羽生結弦(ANA)が、事故時の詳細やNHK杯での抱負を語った。

●会見での羽生一問一答全文

―NHK杯の抱負を。

「まず、抱負を述べる前に、中国杯でのけがについて、皆さんに心配をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます。けがについては、現地でしっかりと診断を受けた上で出場したので、皆さんあまり深刻にならないように、よろしくお願いします。NHK杯の抱負は、万全な調子ではないために、レベルを少し落とす構成にしています。ただ、僕自身一生懸命頑張って滑りたいと思っています」

―今季のGPはNHK杯で2戦目。1戦目を踏まえて、どういう試合にしたいか。

「僕はショートプログラム(SP)、フリー(FP)ともに第1戦から構成を変えています。SPでは今シーズンから挑戦している後半の4回転トゥループを、昨シーズンと同じように変えました。なので4回転トゥループを前半に、そして後半にトリプルアクセルと3回転+3回転のコンビネーションを入れる予定です。

フリーに関しては、中国杯のFPでやったのと同じ構成にしたいと思っています。後半の4回転トゥループ+2回転トゥループのところを3回転ルッツ+2回転トゥループにしています。

中国杯を終わってからは、安静にしていた期間が多かったので、戻すという作業にしか手をつけられなかったのですが、構成を変えたり、ジャンプのタイミングが変わったりするなどがあったので、自分のジャンプに近づけることを意識してきました」

―なぜ、NHK杯に出ようという判断に至ったのか。

「中国杯で、普通だったら棄権するような大きなケガをしてしまっていたので、皆さんが本当に心配してくれていたのですが、その中でもしっかりと診断していただいて、滑らせていただいた。ファイナルに出たいという自分の意志を尊重して、滑らせていただけたので、そのときの演技を無駄にしたくないという思いがまずありました。

安静にしているころは、痛くて眠れなかったりとか、歩くのも大変だった時期もありました。足の痛みが徐々におちついてきて、氷に乗ったときは、少し辞めるという考えもありました。

ただ、徐々にやっていくにあたって、少しづつ感覚も戻ってきましたし、最終的には現地(なみはやドーム)で昨日(26日)滑ってみて、ほぼ感覚的には普通の状態に近いという判断をし、(ブライアン・オーサー)コーチと、(日本スケート)連盟のドクターと話をして、出場するということになりました」

―GPファイナル進出への意欲は?

「万全な調子ではないですし、体力の方も落ちてしまっています。構成を下げてまで出るのかと言われたら(問われたら)、皆さんに本当に申し訳ないと思っていますが、自分自身、ファイナルに出たいという思いが凄く強いので、しっかりこの大会で今の自分ができる最高の演技をしたいと思います」

―オーストラリアのクリケットの選手がボールに当たって27日に亡くなった。中国では脳しんとうの心配があったわけだが、リスクを取らなくて良かったという思いはあるか?

「そのニュースは知りませんでしたが、実際にスポーツは自分の限界に挑んでいるわけで、ある意味では死と隣り合わせ。はっきり言って僕が衝突した事故というのは、1秒にも満たないくらいの前後の時間の差があったとしたら、僕はいなくなっていたかもしれない。あのケースでは当たり所がまだ良くて、僕たちが振り向いた瞬間にぶつかっていたので、何とか互いに顔をそらすことができた。また、僕は腕を出すことができたので、何とか衝撃を避けることができました。

顎は氷に打ちつけて、側頭部はハンヤン(閻涵=えんかん)選手の肩か顎にぶつかったと理解しているんですが、ここに関してはそんなに出血が多くなかったですし、衝撃(の度合い)的にも頭が揺れたという感覚があまりなかったので、自分自身大丈夫かなと思っていました。

また、幸いなことに、現地にいたアメリカのドクターがすぐに僕のほうに駆け寄ってくれて、しっかりと診断してくれました。問診も受けました。見て判断していただいた部分もたくさんあったのですが、その中で脳しんとうの危険はないとブライアン(・オーサー)コーチも理解して、僕も理解しました。

リスクはあったと思うのですが、僕らはそのドクターを信じたいと言う気持ちがあって滑りました。

もちろんリスクはあったと思います。ここにいること自体が奇跡に近い状態だと思います。たくさんの人が、あれは無謀だったとか、あれは危険すぎた、セカンドインパクトの恐れがあったから、あれはやめるべきだったとコーチを批判したり、連盟の方々を批判したりすることもあると思うのですが、僕自身はあのときに僕の意志を尊重してくれたブライアンと連盟にとても感謝しているし、中国杯で滑れて、またここにいることができています。自分の体に感謝したいと思っています」

―5カ所のケガ(頭部挫創、下顎挫創、腹部挫傷、左大腿(だいたい)挫傷、右足関節捻挫)の現状は?

「足首は中国杯に行く前から捻挫していたので、演技の影響で捻挫したということではないと僕は思っています。頭部の傷に関しては、接触したときにかすって擦り傷になって、そこが少し出血していました。顎に関しては、ぶつかった後に足を抜かれていたので、そのままお腹から顎にかけて氷に強打したことで裂傷になりました。腹部も(顎と)同様に、氷に打ち付けたときに、息ができないほど苦しくなるくらい打ち付けたので、筋肉にダメージが残っています。

一番重かった左太腿に関しては、いわゆるモモカンというやつで、バスケットボール選手などがよくなると聞きました。ハンヤン選手のヒザがあのスピードの中で自分の太腿の筋肉の部分に思い切り当たりました。打撲といったら軽い印象になってしまうかもしれないですが、筋肉の打撲で歩くのも辛いような状態でした。

今日と昨日の練習では左太腿には少し違和感はありますが、滑れると自分とドクターとトレーナーと判断して決めました」

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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