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コンフェデ杯で出た課題をおさらい~2014年のための備忘録(前編)

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

備忘録中編http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaiyumiko/20130630-00026079/

備忘録後編http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaiyumiko/20130701-00026104/

「コンフェデレーションズ杯は、2014年W杯で良い戦いをするための絶好のテストの機会になる。現在、自分たちがどのポジションにいるのかを確認し、W杯に向けてどれだけやらないといけないのかを測る絶好の場だ」

オーストラリアとの試合の翌日の6月5日、さいたま市内のホテルで行われたW杯出場決定会見。アルベルト・ザッケローニ監督はコンフェデ杯の位置づけを聞かれ、こう答えた。

本田圭佑は「コンフェデ杯はテストじゃない。しっかり勝ちに行く」と話しており、これには長友佑都や長谷部誠も同調していた。一見するとベンチとピッチの思惑には乖離があるようにも取れるが、選手側が言いたかったのは「何かを試せればそれで良いのではなく、勝つつもりでやってこそ多くのものを得られる」ということ。いずれにせよ、最終到達目標が1年後のW杯であるのに相違はなかった。

2014年に向けてザックジャパンはどの部分のギャップを埋め、どの部分の個を伸ばし、どの部分の調整をしていくべきか

3戦全敗と打ちのめされた今大会のピッチで選手が感じていた問題点や課題を、「備忘録」としてまとめた。

■6月15日 日本 0-3 ブラジル(ブラジリア)

日本は前半3分、FWネイマールのスーパーボレーで先制されると、後半3分にはボランチのパウリーニョのゴールで2失点目。後半アディショナルタイムには途中出場のジョーにダメ押しの3点目を決められ、0-3で敗れた。

0-4で敗れた12年10月の対戦時よりも、内容ではさらに差のついた完敗。特に前半のボールポゼッションは日本36%、ブラジル64%とボール支配で圧倒され、何もできなかったという言葉がぴったりの試合だった。

★寄せの甘さ

前半3分、ペナルティーエリア手前からネイマールに決められた場面は、組織が崩されての失点ではなかった。

左サイドバックのマルセロに簡単にクロスを上げられ、中央のフレッジにも楽にポストプレーをさせた。フレッジが胸で落としたパスは、大会前の不調でブラジルメディアから批判を受け、得点が欲しくてたまらないネイマールに対する明確なラストパス。ネイマールは右足ダイレクトでこれを決めた。

このシーンでのブラジルの一連の動きは確かにどれもが素晴らしかったが、問題は日本の守備の人数は足りていたことだ。マークする位置に「立って」いたが、ブラジルの3人はあたかもフリーであるかのごとくボールを扱った。

続く2点目は、右サイドからのクロスにパウリーニョが中央で合わせたもの。2失点に共通しているのはサイドからやられたことであり、加えてボールマンへのプレッシャーがなかったことだ。

長谷部誠は言う。

「昨年10月に戦ったときはショートカウンターでかなりやられたので、そこは警戒していた。でも、ブラジルはそれだけじゃない。1点目、2点目みたいにサイドからゴールを決められる。ああいうところで一瞬でも隙を与えると世界トップレベルのチームにはやられる」

ネイマールとの1対1ではほぼ鎮圧に成功した内田篤人も、チーム全体の寄せの甘さを指摘している。右サイドでコンビを組んだ清武弘嗣とは試合前に「マルセロに対してはしっかり行こうと、それだけはきっちりと話し合っていたのだけれど」というのだから惜しまれる。

本当に1歩2歩のところ。ただ、それは今言っていることではなく、5、6年前から言っていること。分かってはいるのだけど、やはり向こうもうまいので、どうしても難しい」。内田はそう言った。

★ラインが下がる

2失点目の場面では、守備ラインが下がっていたのが悔やまれた。

吉田麻也は「(パウリーニョに)ワントラップされているように、時間を与えてしまったのがもったいない。クロスに対して(守備ラインが)下がりすぎた。ボランチも下がりすぎて、マークがハッキリしなかった。飛び込んだけど、間に合わなかった」と失点の原因を分析した。

押し込まれると耐えられずにラインが低くなることについては、ブラジル戦だけではなく、3試合とも共通していたことだった。

★チャレンジ精神に欠けた

攻撃陣は失点を恐れてトライしなかったことを悔やんだ。試合後、この世の果てに足を踏み入れてしまったような沈痛な面持ちを見せながら、香川はこう話していた。

「ブラジル戦では前半の最初に決められたが、あれは決めた選手を褒めるべきだと気持ちを切り替えるべきだった。けれども、どこかでもう1点を失いたくないという気持ちがあって、攻撃で前にいく姿勢や、リスクをかける姿勢をなかなか出せなかった。精神的なところで後手に回った」

早い時間帯に先制点を取ったブラジルは余裕が生まれ、その後は守備ブロックを敷いてきた。日本はそのブロックを崩すような工夫、例えばミドルシュートの試みや、サイドチェンジもなかった。前線でのチェーシングも、マイボールの際の仕掛けも足りなかったが、攻め手が見つからないときの工夫も見られなかった。

※ただし、サイドチェンジに関しては、ザッケローニ戦術のベーシックなコンセプトとして「片方のサイドに寄せて攻める」というやり方があった。ブラジル戦後に長谷部がザッケローニ監督にサイドチェンジを使いたいという選手の要望を伝え、指揮官はこれを了承。イタリア戦ではサイドチェンジで攻撃の厚みを出すことに成功した。

★失点の時間帯

ブラジル戦で受けたダメージをより大きくしたのは失点の時間帯が悪すぎたことだ。前後半の立ち上がりと試合終了間際に失点していては、試合前やハーフタイムに立てたゲームプランが意味をなさなくなる。

川島永嗣は「立ち上がりのところではもう少し強くいかないといけなかった。前後半とも球際のところが弱かった。相手の技術は高い。相手に対して厳しくいくところが大事になる」と振り返った。

凡ミスが多いことと、その後の対応

ブラジリアのナショナルスタディオンの芝がかなり悪かったのは事実で、ミスが出たことについてはブラジルも同様だった。ただ、ミスの後の対応に差があった。

岡崎は「ミスはしょうがないと思うけど、その後のリアクションや、仕掛けていくところが少なかった。時間をかけてサッカーをしてしまったことで、リズムにも乗れなかった」と話した。

(中編に続く)

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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