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内田篤人が明かした“ネイマールの封じ方”

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
2012年10月の国際親善試合ブラジル戦でネイマールとマッチアップした内田篤人(写真:ロイター/アフロ)

今夏74億円でバルサに移籍するビッグネーム

完敗や惨敗といった単純な言葉では表現しきれない、厳しい感情の沸いてくる試合だった。

「あれだけ勝ちに行くと言っておきながら、それを示す作業もせずに終わった」と咬牙切歯する香川真司の姿が象徴するように、コンフェデ杯開幕ブラジル戦は、ワールドカップ5大会連続出場を決め、ある程度のプライドを持ち始めていた日本にとって、あまりに衝撃的な90分間だった。

だが、冷静に試合を振り返ってみれば、一条の光はあった。右サイドバック内田篤人(ドイツ・シャルケ)とネイマールの1対1の攻防だ。

キックオフの笛が鳴ってからわずか3分でネイマールに屠(ほふ)られた日本だが、残りの87分間、そのネイマールをきっちり封じ込めていたのが内田だった。

ネイマールはブラジルの名門サントスからスペインのバルセロナに移籍が決まったばかりの21歳。バルセロナによると移籍金は5700万ユーロ(約74億円)で、5年間の契約を途中で解除して他のクラブに移籍する場合の違約金は1億9千万ユーロ(約247億円)に設定されている。誰もが疑う余地のない才能を持つブラジルの至宝に、内田はどのようにして対峙したのか。

準備段階で取り組んだこと

「ネイマールは重心の逆を取るのがうまい。あまり深く取りに行かずに、フェイントだろうと思って行くぐらいがいい。でも、そうするとスピードで行かれちゃうんだけどね」。これは12年10月16日にポーランドで行った親善試合のときに感じたことだ。

2度目の対戦となる今回は、試合2日前からネイマール対策の準備を始めた。日本代表スタッフが編集したDVDを見ること。そして、自身の頭の中でイメージトレーニングすること。

内田は、「イメージしたのは、【1】ネイマールにボールが回ってくる前の守備、【2】ネイマールにボールが入る前の守備、【3】ネイマールにボールが入ってからの守備」と説明した。

ネイマールへの守備に関し、今までのどの経験が役に立ったのか。この質問にはこう答えた。

「ドイツでやっているのが生きていると思う。シャルケだったら紅白戦でユリアン・ドラクスラーとか、いい選手とやれるのでその積み重ねだと思っています」

そして何より今回、内田の心を奮い立たせたのは、相手が『ネイマール』というビッグネームだったことだ。

「相手がネイマールということでモチベーションがあった。1対1はドイツでプレーするようになってから意識が変わったけど、とにかく大事なのは自分の気持ち。例えばフランク・リベリー(バイエルン・ミュンヘン、フランス代表)といった相手チームのエースと対峙するときは、モチベーションが高くなる。今回はネイマールがエースだというのは分かっていたし、彼をしっかり抑えられれば、他の国とやっても大丈夫かなと思っていた」

ボールよりもネイマールを見ていた

試合中に意識したことは何か。

「飛び込まないことと、逆を取ってくるのがうまいので先を読むこと。あとは、ボランチとセンターバックの位置を確認しながら、ネイマールが縦に来るのか中にいくのかということを考えていた」

内田は今回のブラジル戦では、ボールを見るよりもネイマールを見ていることが多かったという。スッポンのようなベタ付きのマークだ。なぜそこまでしたのか。

「前回の試合(12年10月)では、自分の中で攻撃に出ようという意識が強かった。でも、そうやって普通にやったら、裏に抜けられたら追いつけない。フリーにさせたらやっぱりダメだなと思ったので、今回はいつもより彼を見ていた。ボールよりも彼を見ていたくらい。それほどの価値のある選手だからね」

“それほどの価値”のある選手は「今までやってきた中ではリベリー」くらいだそうだ。

世界舞台で戦うために変化させたこと

内田は今回のブラジル戦で、自身のスタイルを得意の攻撃モードから守備モードに変えたという。それは、シーズンを通しての長丁場となる各国リーグ戦と違って、W杯は常に一発勝負となるからだ。

「一発勝負では、自分が行きたいからということで前へ行って相手のリズムになるくらいなら、勝ち点を確実に拾えるようにやるのが賢明だと思う」

ブラジル戦では結果的に日本は0-3で敗れ、勝ち点を手にすることはできなかった。だが、内田がネイマールに得点以外のところでほとんど仕事をさせなかったのは、今まで守備よりも攻撃を評価されてきた内田が、守備で力をつけてきたという収穫を表すものだ。

「ブラジルは予想通り強かったけど、でも、強いのと勝ち負けは別だからね。負けたときにへこみすぎるのは良くない」

“ネイマールは嫌がっていたように見えたけど?”との問いかけには、まんざらでもなさそうな表情を浮かべながらこう返した。

「嫌がってくれていればいいけどね。でもまあ、ネイマールに聞いて、『あいつ大したことねえ』と言われれば、別に大したことないけどね」

内田はネイマールとの対峙で、ドイツでの成長を示すことに成功した。

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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