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NHKニュースウオッチ9が謝罪放送 ワクチン接種後死亡者を感染死のように伝えたのは不適切

楊井人文弁護士
前日放送の問題を認め、陳謝したNHKのキャスター(5月16日放送・筆者撮影)

 NHKは5月15日夜の「ニュースウオッチ9」で、新型コロナワクチン接種直後に家族が亡くなった遺族たちの発言を、あたかも新型コロナ感染で死亡した家族の遺族の発言のように編集して放送した。

 遺族側が強く抗議し、NHKは同番組の公式サイトで謝罪。16日夜の放送で、メインキャスターの田中正良氏が「正確に伝えず、新型コロナに感染して亡くなったと受け取られるように伝えてしまいました」と不適切な放送だったことを認め、「取材に応じてくださった方や視聴者の皆様に深くお詫び申し上げます」と陳謝した。

 NHKは15日午後9時からの同番組のエンディングで、「新型コロナ5類移行一週間・戻りつつある日常」と題したVTRを放送した。

 VTRは約1分間で、「戻りつつある日常 それぞれの思い」のテロップを表示し、人々のコメントをつなぎ、最後に「少しずつ明るい未来へ」と締めくくる構成。その中で、3人の遺族が実名で登場し、「いったいコロナって何だったんだろう」「遺族の人たちの声を届けていただきたい」といったコメントが流れた。

 ただ、いずれの遺族も、テロップでは「夫を亡くした」「父を亡くした」「母を亡くした」と紹介されたにとどまり、ワクチン接種後の死亡者であったことには全く触れていなかった。

 そのため、事情を知らない一般視聴者が見れば、コロナ感染後の死亡者の遺族のコメントとしか受け取れない内容となっていた。

5月15日ニュースウオッチ9のVTRの一場面(筆者撮影)。「遺族の人たちの声を届けていただきたい」とのコメントが流れたが、母親を接種直後に失った事実は触れられていなかった。
5月15日ニュースウオッチ9のVTRの一場面(筆者撮影)。「遺族の人たちの声を届けていただきたい」とのコメントが流れたが、母親を接種直後に失った事実は触れられていなかった。

 放送直後にも、NHK「ニュースウオッチ9」の公式ツイッターアカウントが、このVTRの動画を投稿したが、そこでもワクチン接種後の死亡者であることは触れていなかった(投稿はその後削除)。

 まもなく、ワクチン接種後死亡者の遺族らの支援活動をしている鵜川和久さん(NPO法人駆け込み寺2020理事長)が、放送されたVTRとともに抗議のコメントをツイッターに投稿し、波紋が広がった。

 NHKのVTRに登場した3人の遺族は、いずれも同NPOが運営する「繋ぐ会」に参加。ホームページには、5回目のワクチン接種直後に死亡した母親の遺族、佐藤かおりさんらの証言動画などが掲載されている。

 鵜川さんは放送前、3人がNHKの取材を受け、放送予定であることをツイッターで予告していた。

 NHKが16日朝、公式サイトで謝罪文を掲載したことを受け、読売新聞朝日新聞も相次いで報道した。

 ニュースウオッチ9のツイッターは、一度なされた謝罪の投稿を削除したため、非難の声が広がったが、同日正午過ぎ、再度、謝罪の投稿がなされた。

 16日夜放送の「ニュースウオッチ9」では、エンディングの際、田中正良キャスターが以下のコメントを読み上げた。その後、3人のキャスターが5秒ほど深く頭を下げ、番組は終了した。

昨夜の放送で『新型コロナ5類から一週間・戻りつつある日常』と題して、およそ1分間のVTRを放送し、ツイッターなどでも配信しました。

この中でご遺族と紹介して3人のインタビューをお伝えしましたが、この方たちはワクチンを接種後に亡くなった方のご遺族でした。

このことを正確に伝えず、新型コロナに感染して亡くなったと受け取られるように伝えてしまいました。

取材ではワクチン接種後に亡くなった方のご遺族だと認識していました。

番組はコロナ禍を振り返り、ご遺族の思いを伝えるという考えで放送しましたが、適切ではありませんでした。

取材に応じてくださった方や視聴者の皆様に深くお詫び申し上げます。

 鵜川さんによると、NHKの取材を受けた3人の遺族とも、厚生労働省の健康被害救済制度で被害を申請し、審査の結果を待っている状況だという。

 同省の審査会では5月8日までに、接種後死亡した53人についてワクチン接種の健康被害と認定。現在もなお、4500人あまりが審査結果を待っている(詳細はこちら)。

筆者作成
筆者作成

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長を6年近く務め、2023年退任。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』を出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。翌年から調査報道NPO・InFactのファクトチェック担当編集長を1年あまり務める。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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