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【新型コロナ】報道されない病床使用率 首都圏と近畿圏はほぼ同じ

楊井人文弁護士
新型コロナウイルス感染症患者の対応にあたる聖マリアンナ医科大学病院(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルス感染症感染拡大による緊急事態宣言の解除をめぐり、首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)、近畿圏(大阪・京都・兵庫)をそれぞれ一体として判断するとの議論が浮上し、近畿圏は5月21日にも解除される一方、首都圏は見送られるとの見通しが報道されている。ただ、政府は基本的対処方針で、感染状況、医療提供体制、監視体制の3つの観点から総合的に判断するとしている。メディアは「感染状況」の報道に偏り、もう一つの重要な判断基準である「医療提供体制」についてほとんど報道していない。(*)

 そこで、最新の情報を取りまとめて、病床確保数・入院患者数を合算したところ、首都圏と近畿圏のいずれも病床使用率が20%でほぼ同じであることがわかった(次の表)。各都道府県の病床数は5月19日に厚生労働省が発表した資料を参照した。

筆者作成
筆者作成

 調査の結果、最も感染者の多い東京都の病床使用率は25.2%で、大阪府の23.9%より若干高い程度。重症患者に限ると、東京都の病床使用率は12.3%で、大阪府や兵庫県を下回っていることがわかった。大阪府は、独自の「大阪モデル」の自粛解除基準「重症者病床使用率 60%未満」を掲げており、首都圏の1都3県も全てこれを下回っている。東京都はいまも明確な基準を示していない。

 政府は基本的対処方針で「重症者が増えた場合に十分に対応できる医療提供体制が整えられているか」を重要な判断指標の一つとして明記している。この点に関しては病床使用率でみる限り、首都圏が近畿圏とほとんど変わらない水準であることが明らかとなったと言える。

(既報)【新型コロナ】東京都の重症者病床使用率、大阪を下回る 正確なデータを公表せず(2020/5/19)

【新型コロナ】入院患者が4割減少 東京都の病床使用率も50%以下に改善(2020/5/17)

新規感染者「10万人あたり0.5人以下」が基準との報道は要注意

 主要メディアの中には、政府が緊急事態宣言を解除する際の目安を「直近1週間の新たな感染者数で、10万人あたり0.5人程度以下」と設定し、近畿の2府1県は満たしているものの、東京・神奈川は満たしていないと報道しているものがある()。だが、その「目安」が絶対の基準であるかのように誤解を与える恐れがある。

FNNニュース(サイトよりスクリーンショット撮影)
FNNニュース(サイトよりスクリーンショット撮影)

 たしかに、政府の基本的対処方針では、「10万人あたり0.5人程度以下」を目安に解除の要件を満たすか判断するとしているが、よく読むと「10万人あたり1人程度以下の場合」でも、「減少傾向を確認し、特定のクラスターや院内感染の発生状況、感染経路不明の症例の発生状況についても考慮して、総合的に判断する」と記されている。これは「10万人あたり1人程度以下の場合」でも解除の可能性を排除しないことを示唆しているものだ。

 実際、西村康稔経済再生担当相は19日午後の参院内閣委員会で「0.5人」を超えた場合でも解除する余地があるとの見方を示している。

 NHKは、19日までの1週間における10万人当たりの新たな感染者数について、東京都は0.6人、神奈川県は0.99人、埼玉県は0.30人、千葉県は0.22人、京都府は0.08人、大阪府は0.27人、兵庫県は0.09人と伝えている。

政府の基本的対処方針(5月14日改定)の一部抜粋

 緊急事態措置を実施すべき区域の判断にあたっては、これまで基本的対処方針においても示してきたとおり、以下の三点に特に着目した上で、総合的に判断する必要がある。

 (1)感染の状況(疫学的状況)オーバーシュートの兆候は見られず、クラスター対策が十分に実施可能な水準の新規報告数であるか否か。

 (2)医療提供体制感染者、特に重症者が増えた場合でも、十分に対応できる医療提供体制が整えられているか否か。

 (3)監視体制感染が拡大する傾向を早期に発見し、直ちに対応するための体制が整えられているか否か。

 これらの点を踏まえ、特定の区域について、緊急事態措置を実施する必要がなくなったと認めるにあたっても、新型コロナウイルス感染症の感染の状況、医療提供体制、監視体制等を踏まえて総合的に判断する。感染の状況については、1週間単位で見て新規報告数が減少傾向にあること、及び、3月上中旬頃の新規報告数である、クラスター対策が十分に実施可能な水準にまで新規報告数が減少しており、現在のPCR検査の実施状況等を踏まえ、直近1週間の累積報告数が10万人あたり 0.5 人程度以下であることを目安とする。直近1週間の10万人あたり累積報告数が、1人程度以下の場合には、減少傾向を確認し、特定のクラスターや院内感染の発生状況、感染経路不明の症例の発生状況についても考慮して、総合的に判断する。医療提供体制については、新型コロナウイルス感染症の重症者数が持続的に減少しており、病床の状況に加え、都道府県新型コロナウイルス対策調整本部、協議会の設置等により患者急増に対応可能な体制が確保されていることとする。監視体制については、医師が必要とするPCR検査等が遅滞なく行える体制が整備されていることとする。

(太字は筆者。引用元は新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針

(*) 調査したところ、現時点で、産経新聞5月18日付け記事が確認できる程度。

(訂正)医療提供体制状況の表で、当初、京都府の入院患者の病床使用率が「23.9%」となっていましたが、正しくは「6.8%」でしたので、文中の記載とともに訂正しました。

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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