【参院埼玉補選】選挙公報をファクトチェックしてみた結果は…両候補とも不正確な記載

参院埼玉補選=10月27日投開票=のポスター(宮原ジェフリー氏撮影提供)

 議員辞職に伴う参議院の埼玉選挙区補欠選挙で、元埼玉県知事の上田清司氏(無所属)と、7月の参院選に当選したばかりの「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏=議員は自動失職=が立候補している。10月27日投開票が行われる。

 このほど、NPOメディア「ニュースのタネ」が両候補の選挙公報をファクトチェックした結果、上田候補の「(知事時代の実績として)1人あたり県民所得の増加額 全国1位」との記載や立花候補の「NHKの人件費が年々増加している」との主張などに複数の誤りがあることがわかり、25日、検証記事を発表した。

選挙の意義は当落だけなのか

 率直に言って、メディアや社会の関心はあまり高くないようだ。立花氏が記者会見で落選を予想し、次に挑戦する選挙に言及したとも報じられている。しかし、選挙の意義は勝ち負けだけではない。政治家の見識、資質を問う重要な機会でもある。候補者が有権者に訴えている内容は何なのか。きちんとチェックして問いただすべきは問いただすのか、それを全くしないのかで、選挙結果を左右しなくても、政治に与える影響は異なるのではないだろうか

 例えば、A候補は事実と異なる主張をして落選したが、誰も、どのメディアも、主張内容の真偽を調べていなかったので、誤りに気づかずに終わったとする。そうすると、A候補は、別の選挙に立候補して同じ内容の事実と異なる主張を訴え続けることが可能になる。今度は、それが功を奏して当選するかもしれない。仮に、落選した選挙の際にチェックして事実と異なることが判明していれば、次の選挙に立候補する際に同じ内容の主張を訴え続けることはできなかったかもしれない。・・・もちろんこれは、あくまで一般論であるが・・・

参院埼玉補選の選挙公報
参院埼玉補選の選挙公報

ごくわずかな記述の中に、いくつもの不正確な記載

 そんな思いもあって、今回の補選でも限られた範囲だが、ファクトチェック(真偽検証)をしてみることにした。取り組んだのはNPOメディア「ニュースのタネ」。私がファクトチェック部門を担当し、弁護士や会社員など複数のメンバーが参加している。今回は両候補の選挙公報を取り上げることにした。

 選挙公報は、公費すなわち税金で全有権者に配布される、選挙の根幹をなすものだ。選挙管理委員会の名で出しているものとはいえ、事前に内容の真偽がチェックされているわけではない。嘘があっても掲載して配布しなければならないものだ。

 ファクトチェックは、あくまで事実に基づいているかどうかを調べることに徹する。どちらの候補者、政策が優れているか、ではない。単なる政治的見解や約束など「事実言明」が含まれない言説は、基本的に検証の対象とはならない。

 選挙公報から検証可能な記述(事実言明)を8つピックアップし、事実に基づいているかどうかを調査した(選挙公報全文は県選管サイト、ファクトチェックは「ニュースのタネ」も参照のこと)。その結果は、案の定とはいえ、愕然とするものだった。ごくわずかな記述の中にも、いくつもの事実と異なる記述、あるいは有権者をミスリードする言説が確認できたからだ。

●上田清司(きよし)候補の言説

(「上田県政が変えた16年」と題し、知事時代の実績を強調した欄で) 

(1)「人口増加率3位」

(2) 「1人あたりの県民所得の増加額1位・・・埼玉県は平成18年度から1兆1485億円、5.6%の増加。増加額で全国1位」

(3)「県内総生産増加額名目3位・・・埼玉県は平成18年度から7196億円、3.3%の増加。増加額で全国第3位」

(4)「県内総生産実質2位・・・埼玉県は平成18年度から1兆1156億円、5.4%の増加。増加額で全国第2位。」

(5)「県の借金 約2兆6千億円を1兆9千億円に、約7000億円減らす。▲26%(H14→H31見込み)」

(6)「約18万件の犯罪を6万件に!」

●チェックした立花孝志候補の言説

(1)「…バブルが起こり、NHKは政治家に親しい政治部記者(島桂次元会長や海老沢勝二元会長)を会長にすることで、国会で受信料の大幅値上げと衛星受信料の新規設定が承認されました」

(2)「この大幅な受信料値上げと衛星受信料を原資として、NHK職員の給与はドンドン増えていきました。・・・(平成14年以降)NHK職員の人件費は年々増額され続け、今では約1万人のNHK職員に対して、年間で1754億円(NHK職員一人平均1750万円)の人件費が使われています。」

街頭演説する上田きよし候補
街頭演説する上田きよし候補

 調査した結果を簡単にまとめると、次のとおりだった。

 まず、上田候補の6つの言説のうち、データに基づいて「正確」だったのは、(1)(3)(4)(6)。

 (2)「1人あたりの県民所得の増加額1位」は間違いで、正しくは「1人あたりの県民所得の増加額17位」もしくは「県民所得の増加額1位」だった。

 本人のサイトには「県民所得の増加額1位」と書かれた資料があり、選挙公報の方は「記載ミス」のように見えるが、実は政見放送でも、上田候補は「1人あたりの県民所得の増加額1位」と事実と異なる発言をしていた。

 (5)「県の借金 約2兆6千億円を1兆9千億円に、約7000億円減らす」も、問題のある記述だ。

 選挙公報に県債を大幅に減らしたことを表したグラフも載せているが、「減収補填債」と「臨時財政対策債」を含めると県債残高は、むしろ1兆円以上膨らんでおり、減少したのはその2種類以外の県債だった。

街頭演説する立花孝志候補
街頭演説する立花孝志候補

 立花候補の2つの言説(1)については、島桂次元会長時代にNHKの受信料が値上げされ、衛星受信料が新設されたことはその通りだが、海老沢勝二元会長時代には値上げはなく、やや正確さに欠ける。

 (2)については、NHKの人件費は、職員減少もあいまって総額は減少傾向にあり、一人当たりで換算しても決して「年々増額」しているわけではないことがわかった。

 それぞれ詳細な検証記事を同時に発表しているので、そちらも確認していただきたい。

 両候補に対しては調査結果を伝え、見解を求めていた(23日)。現時点で回答は返ってきていないことも付け加えておく(最終的な回答の有無は追記する)。

ノーチェックでいいのか

 メディアは、埼玉を自虐的に描き実写映画がヒットしたギャグ漫画を活用したPRを展開し、有権者の関心を少しでも高めようとする、県選挙管理委員会の涙ぐましい努力を報じたりしている。それももちろんいいのだが、いかに関心が低かろうと、他にもメディアとしてやるべきことがあるのではないかと思う。

 これまで、選挙公報も、政見放送も、街頭演説も、ほぼノーチェックで、有権者に「訴え」が垂れ流されてきた。本来、それをチェックして見極めた上で判断を下すのが有権者の役割で、その判断を手助けするのがメディアの仕事であると思われる。しかし、現実には、これまでほとんど誰もファクトチェックしないまま、選挙が行われてきたのである。

 考えてみると、おかしなことではないだろうか。

(追記)ニュースのタネの質問に対し、上田、立花両氏から回答はなかった。(2019/10/30)