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【希望・民進合流】朝日、毎日は「反安倍でとにかくOK」だった?

楊井人文弁護士

【ファクトチェック】衆議院選挙に関連し、産経新聞は9月29日、ニュースサイトに「『反安倍でとにかくOK』 朝日、毎日の『希望の党』報道に橋下徹氏がツイッターで批判」と見出しをつけたWEB編集部の記事を配信した。希望と民進の「合流」をめぐり、橋下徹・前大阪市長が同日朝にツイッターで朝日、毎日新聞の報道姿勢を批判したことを取り上げたものだが、その日の両紙朝刊に「反安倍でとにかくOK」という趣旨の記事は見当たらず、むしろ「政策を二の次にした選挙目当ての互助会という批判は免れない」(朝日社説)などと批判的に論評していた。

産経が報じた橋下徹・前大阪市長のツイッター投稿

 産経の記事は、橋下氏の投稿を無批判に引用していたため、希望と民進の「合流」に関する朝日、毎日の報道姿勢について誤解を与えた可能性が高い。10月9日午前9時現在、Yahoo!ニュースに配信された産経の記事には「全くその通り」などと支持するコメントなどが4000件以上書き込まれている橋下氏の投稿は約3万4000回リツイート(転載)されたが、産経もツイッター投稿フェイスブック投稿を通じてさらに拡散した。

 産経が報じたのは、橋下氏が29日午前10時43分ごろに投稿したコメントと、それに対するツイッター上の肯定的な反応。この前日、民進党の両院議員総会で、立候補予定者は希望の党に公認申請を出すという前原誠司代表の提案が承認され、メディア各社が大きく報じていた。

 しかし、「希望と民進の合流」を論評した朝日、毎日新聞の記事を確認したところ、「反安倍でとにかくOK」という印象を与える記事や表現は見当たらず、むしろ批判的に取り上げていたことがわかった。橋下氏がコメントを出した29日の両紙朝刊に掲載された社説や署名入り論説記事などを調べた。

毎日新聞9月29日付朝刊1面の論説委員長署名記事(右)と朝日新聞同日付社説(左)
毎日新聞9月29日付朝刊1面の論説委員長署名記事(右)と朝日新聞同日付社説(左)

 朝日は社説で「リベラルな議員も多い民進党とは明らかに立ち位置が違うのに議論の場もほとんどないまま雪崩を打つ」「基本政策にも違いがある」「このままでは政策を二の次にした選挙目当ての互助会という批判は免れない」「政権交代可能な政治が目指すサイクルが、今回の民進党の選択によって無に帰したことが残念ではならない」などと指摘。「政権交代をめざすなら、野党各党の連携が欠かせないのはその通りだ」と野党連携自体に肯定的な表現もあったが、「反安倍でとにかくOK」と解釈できる文言はなかった。

 4面には「『リベラル』結集の途中で」と題した松下秀雄編集委員の署名記事が掲載された。松下氏は「政権交代可能な政党を目指した民主党・民進党の試みは挫折したとみるほかない」と指摘し、安倍政権に対し「対抗するのが、もう一つの『改革保守』勢力でいいのか。リベラルな政治勢力を求める人たちは確実にいる。その受け皿をなくすべきでない」と主張。安倍政権への対抗軸として希望の党に結集することに疑問を呈していた。

 毎日も、29日付社説で「再編は不可避」だったとしつつ、「野党結集の必要性は認めるが、理念や政策を捨て去り合流するのでは有権者の理解は得られない」と指摘。1面の古賀攻論説委員長の署名記事でも、「『希望の党』も多くの難点を抱えている。小池百合子氏の個人人気によりかかって安倍政権を倒すことが結集軸になっているが、仮にその目的を達成したら、その瞬間から矛盾が噴出することは容易に想像できる」と批判的に論評していた。いずれにしても「反安倍でとにかくOK」と解釈できる記述はなかった。(詳報はGoHooで)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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