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米大統領選で注目されるファクトチェッカー 世界にはこれだけのサイトがある

楊井人文弁護士
討論会でのトランプ氏の発言をファクトチェック(Politifact.comより)

「私のホームページにファクトチェッカーのサイトを作りました。事実を知りたい人はぜひ見に行ってください」(*1)

先日行われた米大統領選の第1回テレビ討論会。民主党候補ヒラリー・クリントン氏の口から、こんなセリフが飛び出した。彼女が見てほしいと呼びかけたのは、共和党候補ドラルド・トランプ氏の発言内容の真実性を検証したウェブサイト「Literally Trump」のことだ。彼女の発言後1時間以内に約200万人がアクセスし、この一晩でSNSで1万8000回シェアされたという。(*2) 彼女はこの討論会で3度「ファクトチェッカー」(Fact-Checker)に言及していた。

ファクトチェッカーとは、ある言説内容が事実かどうかを調査・分析する人を指す。対象となるのは、政治家の発言、メディアの報道、知識人の言説などだ。Fact-checkという単語は英語圏で定着し、辞書にも載っている。

米国には専門職としてのファクトチェッカーがおり、それ専門のサイトがたくさん存在する。(*3) いや世界各国に存在する。米国デューク大学の研究室の調査では、現在、世界には少なくとも115個のファクトチェックサイトが稼働している。アジアをみても、韓国、インド、フィリピンなどにあるのだが、日本には1つもない(日本報道検証機構が運営するGoHooは先日、登録を打診中)。

ファクトチェックサイトは、原則として対象となる言説を党派にかかわらず公平に検証することをモットーにしている。その点、クリントン陣営のLiterally Trumpは、もっぱら対立候補の欺瞞をあばくことを目的として作られたもので、通常のファクトチェックサイトとはかなり性質が異なる(クリントン氏本人が発案したと言われている)。(*4)

ファクトチェックサイトの世界地図(米国デューク大学のReporters' Labより)
ファクトチェックサイトの世界地図(米国デューク大学のReporters' Labより)

ファクトチェッカーが社会的に最も脚光を浴びるのは、やはり米大統領選だ。そこで、第1回討論会に関するファクトチェックサイトがどれだけあったか、調べてみた。驚くことに、ファクトチェック専門のサイトだけでなく、ほとんどすべての主要メディアが作っていた。あまりに多すぎて、これらを比較検証する「まとめサイト」が必要ではないか、と思うくらいだ。

ファクトチェッカーにならって、というより、彼我のメディア文化の違いを実感していただくために、確認できたサイトを全て列挙してみよう。

2016年米大統領選第1回討論会に関するファクトチェックサイト

【ファクトチェック専門サイト】

【テレビ】

CNNのファクトチェック
CNNのファクトチェック

【通信社】

【新聞社】

【ネットメディア】

【英国メディア】(おまけ)

Politifact.comは討論会の最中にツイッターで検証結果を速報。一部テレビ局も、中継中にファクトチェックの結果を流していたようだ。(*5) ほとんどのサイトも、討論後それほど間をおかずに記事化していた。

現地記者であればこうした実態を知らないはずがないが、日本ではほとんど報じられていない(例外として、毎日新聞ロサンゼルス支局記者によるレポート)。(*6)

日本のマスメディアは、ふだんは「権力の監視がジャーナリズムの役割」と自任しているのに、なぜどこもやらないのであろうか。政治家などの言説の真偽をチェックする、というのは「権力の監視」の実践そのもののはずである。

まさか、「そんなことをやったら政治部記者が取材しにくくなる」とか「コンプライアンス部門に訴訟リスクがあると忠告される」といった理由で、ためらっているわけでは・・・。

【注】

(*1) クリントン氏の発言は以下のとおり。

So we have taken the home page of my website, HillaryClinton.com, and we've turned it into a fact-checker. So if you want to see in real-time what the facts are, please go and take a look.

出典:The Washington Post

(*2)Millions of People Checked Out Clinton's Debate Fact-Check Site(WIRED 2016/9/27)

(*3) 米国では、(主に言説の真偽をチェックする)ファクト・チェッカー(Fact-checker)と(主に形式的誤りを事前チェックする)校閲(Proofreader)は異なる職業とされている。

(*4) (*2)の記事参照。

(*5)The Presidential Debate Will Be Fact-Checked in Real-Time(Fortune 2016/9/26)

(*6)毎日新聞2016年8月4日「<発信箱>間違い探し」同9月28日「<米大統領選>トランプ氏、誇張や誤り…メディア即座に指摘」

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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