クリエイターの下積みは必要か? ~SNS時代のクリエイターの生き方を考える~

(写真:アフロ)

カメラマン、漫画家、アニメーター、ゲームデザイナーなど、クリエイター的な職種の多くには、「下積み」の時期が存在する。下積み期間は、「実践的な知識を身に付けるのに大切な経験だ」という意見がある一方で、その労働環境の劣悪さから、その職種を目指す若者を減らしている元凶とする声もある。そんな中、SNSの登場により、下積みなしに、活躍するクリエイターも登場し始めている。賛否両論が混在する「下積み」は、果たして本当に必要なのか?本稿ではこのテーマを考えてみたい。

去年世間を賑わした「寿司職人の下積み不要論」

去年11月くらいに、ホリエモンこと堀江貴文氏のTwitterの発言が波紋を呼んだ。

「飯炊き3年、握り8年」と言われる寿司職人の下積み修行について、「今時、イケてる寿司屋はそんな悠長な修行しねーよ。センスの方が大事」と、一刀両断したからだ。これをきっかけに、「寿司職人に下積みは必要か?」というテーマは、ネットで多くの人が賛否両論のコメントをし、テレビでも「ワイドナショー」や「TVタックル」で取り上げられたりと、大きな話題となった。

そんな中、堀江氏の発言を裏付けるように、3か月の寿司学校を卒業と同時に開店し、わずか11か月でミシュランガイドに掲載された店(鮨 千陽)が登場するなど、「下積み不要論」という見解が広がりを見せている。

実際、「鮨 千陽」の店長・土田秀信氏は「3か月あればすべての寿司の技術を網羅できる」「長い修業は無意味」と語る。

「鮨 千陽」店長・土田秀信氏 ーPR TIMESより
「鮨 千陽」店長・土田秀信氏 ーPR TIMESより

下積みが存在するクリエイターの世界

この下積みという概念は、寿司職人に限らず、クリエイターの世界にも存在する。

例えば、カメラマンにも下積みは存在する。

作家性の高いプロカメラマンを目指す場合、専門学校などを卒業した後、巨匠と呼ばれるような有名カメラマンの元で、数年師事する。その間は、撮影現場の手伝いもあるが、撮影スキルの上達とは到底関係のない雑務も多い。今は独立して活躍しているプロカメラマンの友人も「なんでこんな関係ないことやらないといけないんだ?」という疑問を正直持ちつつも、長い下積み期間を耐えていた部分があると言っていた。

やはり、寿司職人やカメラマンの世界を覗くと、下積みというのは、撮影スキルを網羅するのに最低限必要な期間より、はるかに長いのは確かなようだ。この余剰な期間はスキルの獲得という点においてはムダも多いと言える。

師匠を持たない次世代カメラマン

それを証明するように、下積みなしで、世に出てきた次世代カメラマンも最近は増えてきている。

例えば、保井崇志氏柳内良仁氏の両氏は、”師匠を持たない”プロカメラマンだ。保井崇志はInstagram上で10万人以上のフォロワーを抱え、雑誌DiscoverJapanの表紙や人気バンドSEKAI NO OWARIを撮影するなどの売れっ子カメラマン。柳内良仁氏は、若干23歳にして、Twitterでフォロワー数を49万人以上のフォロワーを誇り、10代に人気モデル撮影やテレビ番組「恋んトス」のオープニング撮影を担当するなど活躍中だ。

保井崇志氏撮影写真(DISCOVER JAPANより)
保井崇志氏撮影写真(DISCOVER JAPANより)
柳内良仁氏撮影の写真(柳内氏Twitterより)
柳内良仁氏撮影の写真(柳内氏Twitterより)

彼らに共通するのは、自身の写真を自らSNS上に投稿することで、積極的にファンを獲得していった点だ。今はSNSに投稿すれば、ユーザーからの反応が一瞬で返ってくる。そして、ネットで人気が出れば、出版社やテレビ局などのプロデューサーがそれを見つけて、メディアに露出できる。実力さえあれば、師匠の推薦がなくとも、クリエイターは世の中に出られる時代なのである。

ネット時代における下積みのメリット

これまで述べてきたことを総合すると、「下積み不要。以上終了」という結論になりそうだ。しかし、SNS時代においても、下積みにはメリットが多くあると思う。

一つは「信用力」だ。師匠の元で下積みをし、師匠がお墨付きを出して、世に出した弟子なのだから、当然技術的にも人間的にも十分信用できる人である確率が高い。広告写真のような、一度の失敗のダメージが大きな世界においては、このお墨付きが指名を取るのに重要な役割を果す時もあるだろう。師匠によって、事前にデューデリジェンスされているのは、発注主にとってありがたいのである。

もう一つ挙げるとすると、「網羅的で正しい技術の獲得」だ。師匠を持たず、独学で技術を習得しようとすると、どうしても知識に偏りが出る。下手をすると、間違った知識を覚えてしまっているかもしれない。一方、アシスタントして、割と長い年月をかけながら、現場を経験すると、満遍なく技術を学ぶことができるわけだ。

で、結局下積みは不要なの?

これまで下積みについて、寿司職人やカメラマンの世界を例に考えてきた。結局、クリエイターに下積みは不要なのだろうか?この答えはクリエイターのゴール設定に依存するので、場合分けして考えてみたい。

まず、若くして成功したいキミ。才能とセンスに自信があるキミ。君たちは一刻も早く、下積みを辞めて、SNSで自信作をどんどん発表していった方がよい。もちろん技術に偏りがあるため、壁にぶつかることもあるだろう。しかし、それは実践の中で修正していけばいい。才能の賞味期限は短い。細かい修正をすることより、早くファンを付けることを優先すべきだ。そうすれば、それがいつかビジネスになっていく。

次に、将来はぜひ独立したいとぼんやり思っているキミ。君たちはまだ下積みを辞めるのは早いかもしれない。けれど、師匠が許せば、自分の作品をネットでどんどん発表していくべきだ。そこで生のファンとやりとりをガンガンする。そして、今の世の中のニーズを感じ取り、自分のオリジナリティを磨くべきだ。将来ほとんどのコンテンツはネット化し、その多くがSNSで流れるようになる。その時代に向けて、師匠の方ばかり見るのではなく、今のユーザーのことを気にして、自分の作品という名の刀を磨いて欲しい。

あと、もし師匠が自分の作品を発表することを許してくれない場合。これは師匠がブラック企業ならぬ「ブラック師匠」の可能性がある。その場合は、即刻辞表を叩きつけ、新しい師匠の元で、上記のように発信をしていくのがいいと思う。

最後に、別に大した成功を望んでないキミ。人並みの幸せがあればそれでいいと言うキミ。そういう人はクリエイターに向いてないから、事務仕事にでも転職した方がいいかもしれない。

間違いなく言えるのは、昔はクリエイターになるのが「下積みからの独立」ほぼ一択だったが、今は違うということである。やる気と勇気次第でそれをショートカットすることも可能なのだ。

下積みのメリットとデメリットを理解し、自分がどんな風に成功したいのかに合わせて行動を決めることが重要だろう。