dマガジン、楽天マガジン、KindleUnlimited…雑誌読み放題サービスが導く「雑誌の未来」

雑誌読み放題サービスの普及の先にある「雑誌の未来予想図」

雑誌読み放題サービスが日本で初めて本格参入したのは、2014年6月20日にスタートした、NTTドコモの「dマガジン」(月額400円)でしょう。

さらに、今月になって、楽天が200誌以上収録しているという「楽天マガジン」が月額380円でサービスを開始しました。「後発、ちょい安、サービス名似てる」という三段コンボの参入スタイルがいかにも楽天らしく、味わい深いです。

また、Amazonの「Kindle Unlimited」も月額980円で、マンガや書籍がラインナップの主軸とは言え、読み放題対象の中には多数の雑誌が収録されています。

プレイヤーが出揃った感はある、雑誌読み放題サービス。これが普及すると、ユーザーの生活が便利になる一方で、出版業界に大きな影響が出ることが予想されます。

雑誌読み放題サービスが普及すると、出版社に具体的にどんなことが起こり、雑誌はどんな形態に変貌を遂げるのか?本記事では、雑誌読み放題サービスの普及が導く「雑誌の未来」について考えたいと思います。

※この記事を基礎知識として、雑誌読み放題各サービスの比較については、下記リンクを読むとだいぶ把握できます。お時間ある方は目をお通しください。

ざっくり言うと、契約数は300万人突破しているdマガジンが独走状態。収録雑誌数は楽天マガジンの約200が、dマガジンの約160を上回る。しかし、dマガジンは「週刊文春」「週刊新潮」「BRUTUS」「ダ・ヴィンチ」などの人気雑誌を独占的に配信するなど、先行プレイヤーならではの囲い込みで差別化。といったところです。

それでは、雑誌読み放題サービスが与える出版業界への影響に移りましょう。私は主に下記の3つだと考えています。

読み放題サービス登場が出版業界に与える影響

その1 雑誌のビジネスモデル変更が余儀なくされる

定額雑誌読み放題サービスの普及によって、紙の雑誌を買ったり、電子書籍単品を買ったりするユーザーの減少が予想されます。これにより、「紙媒体及び電子書籍単品の売上減」と「読み放題サービス事業者からの収益分配金の増加」が予想され、雑誌はビジネスモデルの変更を余儀なくされるでしょう。つまり、ドコモや楽天などのプラットフォームからの売上に強く依存したビジネスモデルです。実際、ある人気大衆誌は、数千万単位の収益分配金を、dマガジンから受けているらしく、それは確実に収益の柱となっているそうです。

これは、プラットフォーム事業者側が雑誌というコンテンツの価格コントロール権を持つことを示しています。例えば「これまでは総売上の70%を、出版社に還元してたけど、明日から50%にしますわ」と言い放たれた瞬間、それを出版社は飲まざる得ないようになってしまうのです。

このままでは、出版社はリッチなコンテンツを作れなくなってしまいます。そこで重要になってくるのが、プラットフォーム事業者に売上を依存しないビジネスを持つことです。

例えば、自社のウェブメディアを持つことがその解の一つになるでしょう。元々持っている取材力や編集力を活かし、自社でウェブメディアを運営する。そして、そのメディア内の広告を販売したり、ユーザーに直接課金したりするのです。こうした別チャンネルの売上を持っておけば、ドコモや楽天に分配金の値下げ交渉をされても「もし下げるなら、お宅とは取引やめますわ~」と言い放つ選択肢を持つことができるわけです。

というわけで、読み放題サービスは、雑誌のオンライン化を更に加速させると私は予測しています。

その2 プラットフォームが「編集領域」に進出してくる

次に起きること。dマガジンや楽天マガジンなどのプラットフォームが「編集領域」にじわじわと進出してくるということです。

実際、dマガジンでは「おすすめ」というタブ、楽天マガジンでは「記事まとめ」というタブをアプリ内に持ち、リオ五輪特集」「夏のヘアアレンジ特集」といったテーマ別に、そこで色んな雑誌の関連記事をピックアップして並べることをしています。また、dマガジンも楽天も「ランキング」タブを持ち、雑誌を人気順に並べたページを作っています。これらは様々な雑誌を横断的に再編集していると言えるでしょう。

プラットフォーム事業者はデータを持っていますから、どんな記事がよく読まれ人気か、知っています。その強みを活かして、プラットフォームがコンテンツの編集領域にじわじわと進出することが今後も予想されます。Yahoo!やLINEが、記事を報道機関からアグリゲートし、それにタイトルを付け替えて再配信していますが、これと非常に似た構造と言えるでしょう。汗を書いて、記事を制作している出版社からすれば、上澄み液だけを吸われているようで胸くそ悪いかもしれません。しかし、メディアビジネスは、顧客と直接繋がっている企業が優位な運命。ビジネス構造上仕方ないことなのです。

プラットフォーム事業者が、集めた雑誌コンテンツを再編集することで、顧客へ価値最大化できるのではあれば、プラットフォームの編集領域への進出はさらに加速するでしょう。出版社が雑誌というパッケージは、バラバラにアンバンドルされ、最小単位のコンテンツとして、ユーザーに消費されるようになってくるのです。

出版社がこのような状況の中で、実施すべき打ち手は、とにもかくにも「個性の強いオリジナルコンテンツを作る」に尽きます。バラバラに切り刻まれても、読んだら、この雑誌と分かるコンテンツ(コーナー)を作る。それは企画の切り口から、タイトルや文体にも宿るもので、ここでは語り尽くせないほど、総合的なノウハウを必要とします。例えば、マガジンハウス(マガハ)の雑誌は「マガハっぽい匂いがある」という人がいます。プラットフォームが編集領域に進出してくる時、どこでどう消費されても、そのチームが作ったものだと認知されるようなコンテンツの有無が、雑誌のブランディングにおいて、キーファクターになってくると予想されるのです。

その3 Netflixのように、プラットフォームが自社オリジナルコンテンツを制作するようになる

「その2」の状況がさらに進むと、dマガジンや楽天マガジンは、自社でコンテンツを制作する可能性もあると、私は考えています。

動画配信プラットフォームであるNetflixは、最初は既存作品を集め、それらを月額定額で提供することでユーザーを集めてきました。しかし、いくつもの動画配信プラットフォームが登場する中で、彼らとの差別化戦略として、自社オリジナルコンテンツの制作に乗り出しました。これと同じことが、雑誌読み放題サービスでも起きるというのは、十分ありえることです。

これはドコモや楽天が編集部を持ち、コンテンツを内製し始めるということではありません。編集プロダクションは世の中に数多くありますから、そういったところに制作委託をすれば済む話です。プラットフォームは、「この季節、こんなテーマがウケる」「今、このタレントさんが旬である」というデータを持っていますから、それらを大いに活用すれば、企画の打率は上がるわけです。例えば、dマガジンが楽天マガジンとの差別化のために、自社オリジナルの目玉コンテンツを巨額を投入して制作する、みたいなことが数年後起きえるかもしれないですね。

まとめ1 出版社が注力すべき2つのこと

これまで、雑誌読み放題サービスの普及による、雑誌の未来予想をしてきました。雑誌読み放題サービスは、安価で手軽にたくさんの雑誌を読めるので、その普及の流れは加速すると予想されます。そうした時、各出版社がどのように対応するか、その戦略次第で、数年後の各社の売上や利益は大きく差が出るでしょう。その際には、本記事で指摘した「自社オンラインメディアの強化」「オリジナリティの高いコンテンツへの注力」がカギとなってくるはずです。

まとめ2 未来の雑誌のカタチ

プラットフォーム事業者とコンテンツプロバイダーである出版社が、時に握手しながら、時にケンカをしながら、各社とユーザー利益最大化を図りながら、作られていく「未来の雑誌のカタチ」。これを予測するのは大変難しいことです。予想する人の分だけ、カタチがありそうです。

これまで述べてきたことも踏まえ、私が考える一番有力なシナリオは、下記の4点です。

  1. 登場した3つの雑誌読み放題プラットフォームが競争しつつも、合計ユーザーは増加。市場は拡大方向へ。
  2. 雑誌読み放題プラットフォームが、資本力とユーザーデータを背景に、コンテンツの拡充とアプリのマーケティングに注力。多くのユーザーがアプリ経由で雑誌を楽しむように。ほとんどの出版社は、彼らプラットフォームからの売上に依存するビジネスモデルへシフト。
  3. 雑誌読み放題プラットフォームの一部は、オリジナルコンテンツの制作に進出。それぞれのプラットフォームに「個性」が出てくるように。
  4. オリジナリティの高い人気コンテンツを作れる一部の出版社は、自社でプラットフォームを持ち、ユーザーから直接課金でマネタイズするように。プラットフォームへの料金交渉も強気に出たり、時にはコンテンツをプラットフォームへ出し惜しみするようになる。

読み放題サービス各社は、コンテンツの拡充とアプリマーケティング競争をする中で、3社のうちどの会社が残るか、という話になりそうです。3社くらいなら、どこも撤退せず同居して、生き残るということもありえそうです。

また、出版社は、最後の項目にあるように、人気オリジナルコンテンツを持ち、自社プラットフォームや別のIPビジネスでマネタイズすることがベストシナリオとなります。最近独自スクープで元気な週刊文春や、固定ファンの多いマガジンハウスのような出版社が、その候補になるのではないかと私は予想しています。

雑誌業界の再編がどうなるか、スマホも普及しきった後の、この数年が勝負になるように思います。その勝者が誰になるのか、目が離せません。