老舗メディア企業によるスタートアップ買収はうまくいくのか? ~サムライト創業者・柴田氏インタビュー~

サムライト創業者・柴田泰成氏

その本業である広告収入と販売収入で苦戦を強いられている新聞社は、各社とも新規事業創出が求められていると聞く。そんな中、朝日新聞社は今年4月にコンテンツマーケティング事業へ本格進出する足がかりとして、オウンドメディア運営事業に強みを持つサムライト社の買収を行った。

日本ではレアケースである老舗メディア企業によるスタートアップ買収となった本案件は、日本のメディア業界にとって重要なベンチマークになると筆者は考えるが、一方で企業文化の違いから、本当にうまくいくのか?という不安も同時に感じている。

本記事では、サムライト社創業者である柴田氏を取材し、朝日新聞社がサムライト社買収に至るまでの経緯と買収後3ヶ月経った現状について語ってもらった。そこには、今後のメディア業界活性化のヒントがあった。

朝日新聞にバイアウトした男が起業するまで

柳内:まず、サムライトを起業したきっかけを教えて下さい。

柴田:起業のきっかけですが、元々30歳で起業をしようと決めていて、たまたま誘われて出場したインキュベイトキャンプという投資家が集まるイベントで優勝したのがきっかけです。ただ、投資家からはベンチャーキャピタルをやらないか?と誘われたんですね。起業家になろうと思って出たイベントで過去最高得点でぶっちぎりで優勝したので、投資家側が「こっちに来ないか」と。ただ起業することを目標にこれまで過ごしてきたので、3回くらい断りました。笑 最終的には、ファンドを作って、その箱の中で同時並行でたくさん会社を作っていくというチャレンジの提案を受け、それはまだ日本で成し遂げた人がほぼいない、非常に面白い起業の仕方だなと思って、まず「ソラシード・スタートアップス」というファンドを作ってから、ソラシード100%出資という形でサムライトを立ち上げました。起業家と投資家の二刀流スタイルはほぼ日本にいないですし、柳内さんの仰る「パラレルキャリア」をさらに進化させた「パラレルアントレプレナー」という挑戦です。

柳内:周囲からも求められ、起業すべくして、起業した感じですね。そして、パラレルアントレプレナーとして投資業と経営者の二足のわらじ。投資家と経営者って利益相反することもあると思うのに、すごい挑戦ですね。

WEB広告はユーザーファーストじゃない。新しいマーケティング手法が必要だ。

柳内:起業する分野は、数ある中で、オウンドメディア支援という分野を選んだ理由は何でしょうか?

柴田:それを説明するために、サムライト起業の経緯の話をさせてください。楽天とリクルートで業務経験を積んできましたが、複数の新規事業を立ち上げと、webマーケティング分野でキャリアを構築してきました。その中で自分自身の業務に少し疑問を持ってたんですね。結局のところ、web広告って効率性を追求するがあまり、ユーザーファーストでは無いんです。「刈り取り」とかいう表現が普通になってるほどで、ユーザーを結果的に欺くこともあったりします。新しい広告の形を作りたいなと考えていたときに、ちょうど「SEOアルゴリズムの変化」「ソーシャルメディア・スマホの普及」という大きな変化のタイミングが来て、コンテンツマーケティングという市場が米国で立ち上がっているのを知りました。ユーザーファーストなコンテンツを通じて、ユーザーと企業が握手できるような仕組み、これを追求したいと思ってサムライトを作りました。特にコンテンツマーケティングの中でも「オウンドメディア」という市場を選んだのは、新しいマーケティング手法として確立させる上で、企業自身が資産となるコンテンツを生み出していく未来をイメージしていて、それを自ら先頭に立って導きたかったというのがあります。

柳内:なるほど、Web広告の潮流が変わる中で、特に新しい手法であるオウンドメディアのトップランナーを目指して起業したわけですね。実際にどのくらいの企業の方に使ってもらっているですか?

柴田:サムライトはまだサービス開始から二年と少しですが、これまでに累計で100社を超えるオウンドメディアの立ち上げ・運用支援を行っています。

ただしこの未来(ゴール)を実現するのは自分たちだけでは難しく、大手メディアや大手広告会社など、広告業界全体の改革を意味するため、元々サムライトを創業したときから、大手メディア企業などと一緒になり、中長期の目線で進めていきたいと考えていました。つまり当初から売却というのは視野に入れていました。これは自分自身が投資家としてファンド100%出資で立ち上げているため、EXITを明確に意識しなくてはいけないという部分も理由としてはあります。

朝日新聞がサムライトを買収するまで

柳内:なるほど、それで4月の朝日新聞社との買収の話につながっていくわけですね。老舗メディア企業がスタートアップを買収するケースは非常に珍しいかと思います。買収に至ったまでの経緯を教えていただけますか?

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柴田:買収に至った経緯は、とある大企業とスタートアップをつなぐピッチイベントに出場した時に、サムライトのビジョンやオウンドメディアという領域に対して、朝日新聞社が興味を持ってくれて、何か一緒にやりましょう!という話になったことがきっかけです。はじめは買収ありきでは無く、業務提携ということで一緒にメディア運営を行っていこうということで話を進めていました。そこから徐々に、私の方針だったり彼らが老舗メディアとして抱えている課題感をすりあわせていくうちに、どちらからともなく「一緒になった方がよいね」ということで、最終的に買収という形に至りました。

スタートアップとの潤滑油となった朝日新聞メディアラボ

柳内:そういう経緯なんですね。朝日新聞は新規事業創出を考えるメディアラボという組織を立ち上げて動いていると思いますが、その存在は企業間の潤滑油として機能してた感じですか?

柴田:ITメガベンチャーのスタートアップ買収はこれまでにも幾つかありましたが、伝統的大企業がスタートアップを買収するのはこれまでにもあまり例が無いことだったので、世間からはポジティブな反応が多かったように思います。仰る通りで、我々とのカウンターパートナーが朝日新聞メディラボという組織でした。その組織の方々が本当に優秀で熱意があり、かつスタートアップに対して敬意を持って接してくれるので、信頼関係を構築できたというのが大きいです。ちなみに買収後、サムライトでは朝日新聞社から出向という形で取締役を受け入れていますが、その方がメディアラボ所属で、業務提携から買収交渉までずっと担当してくれていた方です。ちなみに私よりも年下の方です!

柳内:朝日新聞側から見ると、そういう熱意ある優秀な若手が社内イノベーションを起こしたというわけですね!メディアラボの動きは、日本の大企業病の処方箋としても注目すべき、と思いました。

買収から3ヶ月。朝日新聞とサムライトの次なる打ち手とは?

柳内:買収の発表から3ヶ月ほど経ったわけですが、朝日新聞社とは具体的にどんな会話をしていますか?次の打ち手の話とかも出ているんでしょうか??

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柴田:買収側の大企業が、本気で現状を変えたいと強く思っており、かつスタートアップに対して決して上から目線では無く対当に接する、そういう関係性じゃないと馴染まないのかもしれませんね。朝日新聞社はサムライトが今後も独立した企業として運営していくことを約束してくれて、あくまでその成長を支える立場だということを徹底してくれています。その姿勢はサムライトの従業員たちが驚くほどで、はじめは少し不安に思っていたメンバーも今では朝日新聞の方々にみんな感謝していますね。

サムライトが成長していくための課題を朝日新聞側と一緒になって話し合い、朝日新聞側のリソースで解決できそうな部分に関しては惜しみなく協力・援助をもらっているような状況です。記者や編集者の方々に来てもらって勉強会を開いたり、朝日新聞の若手に対してこちらがwebの知識を提供したり、朝日新聞の広告営業の方々にオウンドメディアを販売してもらったり、今後は共同商品の開発なども進めていく予定です。朝日新聞の記事制作の高いクオリティをサムライトに還流することで、大企業がオウンドメディアを立ちあげるケースが増えていくことに期待しています。

老舗大企業とスタートアップが良好な関係を築くには?

柳内:お互いの理解やリスペクトが必要ということですね。言葉にするのは簡単ですが、実行するとなると、年齢構成の違いや仕事のやり方の違いがあって、難易度が高い。そこを丁寧にコミュニケーションとったことで実現した案件なんでしょうね。

今後の打ち手としては朝日新聞の強力な営業ネットワークを活用したオウンドメディア支援事業がはじめの一歩というわけですね。共同商品開発も気になります。

柴田:はい、まさに仰る通りですね。時間が必要な部分も当然あると思っていますが、大企業側も危機意識を持っているため、これまでのところ大きな問題もなくスムーズにPMIが進んでいると感じています。今後の打ち手についてもまさにご認識の通りです。私自身は現在、新しいスタートアップを共同創業者という形で二社自ら立ち上げており、またシード投資も複数行っているため、サムライトの運営実務についてはバトンタッチし、非常勤取締役としてPMIや今後の成長戦略を担う役割に徹しています。

柳内:老舗メディア企業とスタートアップがシナジーを生み出し、メディア業界全体が活性化する成功例として、今後も期待しています。今日はありがとうございました。