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『銀河鉄道999』の「アンドロメダまでの定期券」のお値段はいくらだったのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『銀河鉄道999』は、もうメチャクチャ羨ましすぎる物語であった。

主人公・星野鉄郎は、絶世の美女メーテルと2人で宇宙列車に乗って、地球からアンドロメダまで旅をする。

彼が999号に乗れたのは、メーテルから定期券をタダでもらったから。

その定期は、乗車区間が「地球⇔アンドロメダ」、期限は「無期限」。そのうえ、旅に必要なお金は銀河鉄道株式会社が全額出してくれるという驚異のオプション付き!

鉄郎ってどんだけラッキーなのでしょーか。

筆者が気になって仕方がないのは、銀河鉄道999号の定期の料金だ。

鉄郎はタダでもらっていたけど、「地球⇔アンドロメダ」の無期限定期は、購入したらおいくらなのだろう?

物語の舞台は西暦2221年だが、ここでは現代に置き換えて考えてみたい。

◆単位は何なのか?

「地球⇔アンドロメダ」の定期券の料金は、劇場版アニメ『銀河鉄道999』で、数値だけが明らかになっている。

物語の冒頭、いかにも裕福そうな機械化人間が自動販売機で定期を買おうとしたとき、販売機に次の数字が表示されたのだ。

245 155 000

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

すごい金額らしいことはわかるが、通貨の単位がわからない。

日本円なら、2億4515万5千円。米ドルで2億4515万5千ドルなら、2022年7月21日のレート(1ドル139円)で約341億円。韓国ウォンなら、同じく(1ウォン0.11円)で約2700万円。

うーむ、単位が不明だと価値も全然わからないが、いずれにしても、安くない金額だろう。

作中、宿屋の主人が「あんたらの定期の価値に比べたら、わしらの家の1軒や2軒」などと言っていたし。

◆ビックリするほど高い!

現実の鉄道運賃から推測すると、どうなるか。

そこで、JR東日本の運賃体系(1996年〜現在)を調べてみよう。

鉄道運賃は基本的に、乗車距離に「賃率」と呼ばれる数字をかけて、これに消費税がつく。賃率は距離が長いほど安くなり、幹線では600kmを超えると7.05円だ。

地球からアンドロメダまでは明らかに600kmを超えるから、ここでは1kmあたり7.05円で計算しよう。

作中、車掌さんは地球からアンドロメダまでの距離を228万3856光年と言っていた。

これを「km」に直すと2160京(けい)km。

よって7.05×2160京=1垓(がい)5200京円。これに1520京円という失神しそうな消費税(10%)がついて、1垓6720京円。

これが「地球→アンドロメダ」の片道切符1枚の値段ということになる。

片道切符だけでもこんなに高いのに、無期限の定期券だとどうなるのか。現実の鉄道に無期限の定期は存在しないから、これも推測してみる。

JR東日本の通勤定期は、1ヵ月・3ヵ月・6ヵ月の3種類。乗車距離100kmの金額は次のようになっている。

1ヵ月定期:4万6650円

 ⇒1ヵ月あたり4万6650円

3ヵ月定期:13万2940円

 ⇒1ヵ月あたり4万4313円

6ヵ月定期:23万9500円

 ⇒1ヵ月あたり3万9917円

有効期限が長いほど、1ヵ月あたりの金額が安くなる。

さらに細かく分析すると、1ヵ月あたりの金額は、3ヵ月定期が1ヵ月定期の95%、6ヵ月定期が3ヵ月定期の90%と、5%ずつ安くなっている。

これを繰り返していくと、21ヵ月定期までは総額が増えていくが、それより期間の長い定期からは割引率が大きくなりすぎて、逆に総額の料金が下がってしまう。

だったら鉄道会社としては、どんなに期間の長い定期も「21ヵ月定期」として売り出したほうがいいだろう。その金額は、同じ距離の片道料金の257倍だ。

銀河鉄道株式会社が、これと同じ料金システムを採ったとしたら、銀河鉄道999号の無期限定期代は、片道1垓6720京円×257=430垓円!

実に、日本の国家予算の4億年分である。あまりにも高い!

◆宇宙ラーメンが10円!?

ところがここで、筆者は気になるコマを見つけてしまった。

999号には食堂車があり、そこのメニューに「ビーフステーキ1100 カニコロッケ600 (何かの)フライ700」と書かれていたのだ。これもまた、単位がわからない。

だが、鉄郎は、21番目に訪れた名称不明の星で喫茶店に入り、ミックスジュースを注文したとき「10円とは安いなあ〜〜」と驚いていた。

また、「昨日の歌を歌う星」では、白骨化した男がタマゴを売りにきた。これも10円。鉄郎は「立派なタマゴなのにずいぶん安いね」と感想を述べている。

「かじられ星」に停まったときも、食べたラーメンは10円だった。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ということは、物語世界の中の通貨単位も「日本円」? 西暦2221年には、全宇宙の標準通貨が「円」になっているのか!?

だったら、劇場版の冒頭に出てきた「245 155 000」という数字も、あっさりと「2億4515万5千円」ということでしょーか。

H-ⅡAロケットの打ち上げ費用が100億円というから、往復460光年の旅ができる金額としては、あまりにも安い気もするが……。

はたして430垓円か、2億4515万5千円か。

もちろん筆者としては、ぜひとも後者であってほしいと願います。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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