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『幽★遊★白書』の戸愚呂弟は、筋肉量がどんどん増強! いったいどれほど強くなったのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

連載再開の期待が膨らむ『HUNTER×HUNTER』だが、同じ作者の『幽★遊★白書』も忘れられない傑作だ。

交通事故で命を落とした浦飯幽助が、生き返る代わりに妖怪と戦う物語で、さまざまな強敵が現れた。

なかでもすごい存在感を放ったのが、戸愚呂(とぐろ)弟だ。刈り上げた短髪とサングラスが印象的で、全身筋骨隆々。

もちろん、人間ではない。50年前に強さと若さを手に入れるため、妖怪になった!

望むものと引き換えに、人間をやめてしまうとは、心胆寒からしめる覚悟である。

彼の能力は、筋肉を増大させてパワーアップすること。

その強さは「%」で示されていた。

20%で幽助を殴って3mほど吹っ飛ばし、45%で巨漢の妖怪の体を殴ってぶち抜き、80%でパンチの風圧でクレーターを作る!

100%では、その姿になっただけで、戦いを見守っていた妖怪たちの4分の1を消滅させた……!

もはや筋肉の量だけでは説明のつかない事態である。

これが究極かと思いきや、さらにパワーアップして「フルパワー100%中の100%」に……!

この驚きのエスカレーションのなかで、戸愚呂弟はどれほど強くなっていったのだろうか!?

◆その筋肉は役に立つ!?

戸愚呂弟の筋肉増量ぶりはすさまじかった。

20%の段階で、すでに人間のボディビルダーの5割増しほどの筋肉量があり、そこから80%までは、全身の筋肉が太く厚くなっていく。

ついに100%になると、その上半身はもはや人間の姿をとどめていなかった。とくに際立ったのは、次の3点だ。

① 両肩の筋肉が、肩パッドのように左右に突き出す。

② 首と肩のあいだから木の枝のような筋肉が真上に突き出す。

③ 下まぶたから伸びた筋肉が、鎖骨につながっている。

明らかに発達しすぎである。

筋肉というものは、関節をまたいだ2本の骨のあいだで縮むことで力を出す。力こぶのように一部だけ盛り上がって見える筋肉でも、両端はきちんと骨につながっている。

つまり、①と②のように筋肉だけが大きく突き出していても、力を出すことはできない。まぶたと鎖骨をつなぐ筋肉に至っては、はたして何の役に立っているのか……?

そして、これを超えるのが「フルパワー100%中の100%」である。

このときの筋肉は、もう本当にすごい。

首から突き出ていた②の筋肉が頭の高さを超えて伸び上がり、肩パッドのように左右に突き出ていた①の筋肉は、三段に分離して翼のように広がっている(タイトル画のような感じ)。

これらの筋肉も力は出せないのでは……とも思うけど、見た目はメチャクチャ恐ろしい!

そもそも「100%中の100%」とは、どういう意味なのだろう。

言葉としては「本気のうえにも本気」といった感じだが、科学的には「100%中の100%」とは、やっぱり100%という気がするが……? いや、でも、見た目には本当にコワいから、やっぱりもっと強いのかも……?

◆風圧でクレーターを作る!

もちろん作中では、戸愚呂弟はぐんぐん強くなっていった。

80%になったとき、彼は「突き出す拳の風圧さえ武器になる!!」と言った。

実際、その拳の風圧はものすごく、地面には直径10m、深さ5mほどのクレーターが生じた。

モノスゴイことである。同じことを爆薬でやるには10kgが必要であり、パンチ力に換算すると4万t。しかもこれは、地面を直接殴る場合の話。戸愚呂弟は、このすさまじい破壊をパンチの風圧だけでやったのだ。

彼が、腕を突き出すことで、拳が通過した領域の空気を叩き出した、と考えよう。

拳の直径を10cm、拳が動いた距離を50cmとすれば、その領域にある空気の重さは4.7g。それが叩き出されて飛んでいくエネルギーが爆薬10kgに相当するとしたら、空気が飛んだスピードは秒速75=マッハ220だ!

当然、拳も同じ速度で動いたはず。このときの戸愚呂弟の体重を120kgとすると、ここから生まれるパンチ力は、なんと4700万t。

もし地面を直接殴れば、直径100mのクレーターが生まれたでありましょう。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆すごすぎる100%の力!

80%でこの威力。100%になったりしたら、どれほど強くなるのだろうか?

幽助は、100%になった戸愚呂弟にまともにパンチを食らい、競技場の壁に叩きつけられた。

「%」の意味から考えれば、100%は80%の1.25倍の強さのはずだが、そんなレベルで済んだとは思われない。というのは、20%で幽助を3mほど殴り飛ばしたときのパンチ力と、前述の80%時のパンチ力には、4倍どころではない差があるからだ。

20%のときのパンチ力を計算すると86t。80%のときは、前述のとおり4700万t。実に54万倍になっている。

ここから「%」とパンチ力の増大率の関係を探り出してみると、80%から100%になったら、パンチ力は82倍になると考えられる。

すると38億t……!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

体重60kgの幽助がこんなパンチを食らうと、マッハ163で吹っ飛ばされ、地球の重力を振り切り、太陽の重力をも振り切って、宇宙の彼方まで飛ばされてしまう。

作中の幽助は、競技場の壁に叩きつけられたが、壁のおかげで星にならずに済んだともいえるのだ。

では「100%中の100%」になったら?

前述のとおり、科学的には100%のときと強さは変わらないはずである。マンガのなかでも、100%中の100%になってからの戦いでは、戸愚呂弟は善戦したものの、最後は敗れてしまう。

う~ん、素晴らしいキャラであり、残念であった。100%中の100%より、200%とか300%に増大していたら、幽助にも勝てていたかも……と、筆者は戸愚呂弟の敗北を惜しむのであります。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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