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アニメ史に輝く『マジンガーZ』のロケットパンチ! すごすぎる性能ゆえの問題点とは!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『マジンガーZ』は、人間が乗り込んで戦うという、革新的なロボットアニメだった。この作品がアニメの歴史に与えた影響は計り知れない。

そしてもう一つ、筆者にとって忘れられないのが、その必殺武器「ロケットパンチ」だ。

ヒジから先が飛んでいき、機械獣(敵ロボット)のボディをぶち抜き、戻ってきて再び腕になる。

普通ミサイルというものは、飛んでいったらそれっきりだが、ロケットパンチは無傷で戻り、腕にくっつくのだ。なんとすばらしい!

『マジンガーZ』の根幹を成すのは「新元素・ジャパニウム」である。

富士火山帯の地層から発見されたこの元素は、2つの優れた性質を持っていた。

1、核分裂するときに、放射線ではなく光を出す。マジンガーZは、その光をエネルギー源とする「光子力」で動く。

2、きわめて強靭。マジンガーZは、ジャパニウムから作られた「超合金Z」で作られており、ロケットパンチが頑丈なのもそれゆえ。

う~む。こうして書いているだけでも、ホレボレしますなあ。

筆者は子どもの頃『マジンガーZ』が大好きで、毎週テレビの前に正座して見たものである。

このスーパーロボットが誕生して半世紀となる今年、ロケットパンチのすごさを再確認してみよう。

◆すごいぞ、ロケットパンチ!

『スーパーロボット大鑑』(メディアワークス)によれば、ロケットパンチの性能は次のとおり。

・光子力ロケットで飛ぶ

・飛行速度はマッハ2

・半径2kmまで誘導可能

どれもスバラシイ性能のように思えるが、冷静に考えれば、推進力として光子力が使われているのはどうなのだろう?

光にも、物を動かす力はあり、「光圧」と呼ばれる。

たとえば、われわれが燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びているとき、体は光圧で押されている。

ただし、「光圧=光の出力(1秒あたりのエネルギー。単位はW)÷光速」の関係があり、光速が秒速3億mというとてつもない値を持つため、光圧はとても小さい。われわれが真夏の太陽を45度の角度で受けているとき、その光圧は0.1mg。蚊の体重の30分の1ほどでしかない。

マジンガーZは全高18m、重量20tで、最大出力は95万馬力だ。

95万馬力とは70万kWで、大型原子炉の半分ほど。なかなかすごい出力である。

では、これをすべて注ぎ込んだときの、ロケットパンチの推進力とは?

答えは240g。「t」じゃなくて、「kg」ですらなくて、「g」なのですグラム!

そんな力でロケットパンチを飛ばすと、どうなるか。

マジンガーZの体重は前述のとおり20tだから、ヒジから先の重さを5%と仮定すると1tになる。

これを肩の高さ15mから発射すると、落下するまでに3.6mmしか進まない。つまり、ヒジから先をポロッと落とすだけ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

――こうなるのも、光の力を直接使おうとするからだ。光のエネルギーはまことにクリーンだが、力学的な力は、たいへん微弱なのである。

◆危なっかしくて使えない!

せっかく「ロケットパンチ」という名称なのだから、光子力にこだわらなければいいのではないだろうか。

その名のとおり、ロケットエンジンを使えば、目の目にいる機械獣にぶつけることくらい簡単なのでは……?

ロケットの燃料には、液体燃料と固体燃料があるが、現在の大きなロケットには、主に液体燃料が使われている。出力の調整が利き、エンジン停止後の再点火もできるからだ。

しかし、液体燃料は取り扱いが難しい。温度をマイナス200度に保っておかねばならないという問題がある。ジャボジャボ注ぐとそれだけで温度が上がってしまうから、時間をかけて静かに充填(じゅうてん)する必要がある。

充填後に衝撃を与えるのも禁物だ。衝撃によって温度が上がり、爆発の危険が生じる。

こんな危なっかしいもの、マジンガーZに使えるかい!

戦闘はおろか、機械獣を発見してずんこずんこ歩き始めた瞬間に爆発してしまう。出撃は、抜き足差し足忍び足。マジンガーZは時速360kmで走れるが、そんなモノは宝の持ち腐れであり、機械獣が格闘を挑んできたら「乱暴しないでくれ!」と頼まなければならなくなる。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

では、固体ロケット燃料はどうか。

こちらは、発火点が高く、衝撃にも強いため、取り扱いが簡単だ。現実世界では、ロケットの補助ブースターや、戦闘機のミサイルなどに固体燃料が使われている。ロケットパンチにふさわしいのはこっちか?

しかし、ロケットパンチの重要な使命は、敵の機械獣に命中しても爆発することなく、無傷で戻ってくることなのだ。これ、固体燃料にはまったく果たせない要求である。

ひとたび点火すると燃え尽きるまで止まらないから、固体燃料を採用したロケットパンチは、敵に当たろうが当たるまいが、戻ってきたときが大変だ。まったく減速せずにマッハ2で戻ってきて、腕に装着しても火を噴き続ける。身内の対策に大わらわで、とても機械獣など相手にしてはいられない。どうしてくれよう、この無用の長物……。

と、困り果て、前掲のロケットパンチ3条件を眺めてみて……筆者はアッと驚いた。

半径2kmまで操縦可能? 2kmですと?

ロケットパンチはマッハ2で飛んでいくから、半径2kmなんて、わずか3秒で飛び出してしまう。

その後は誘導不能になるわけだから、燃料が尽きた時点でどこか落下するはず。つまり、どういう方法で飛ばすにせよ、マジンガーZが放ったロケットパンチは、自ら走って探しに行くしかないということだ。そのあいだ、やっぱり機械獣は放ったらかしに……。

うーむ。クリーンなエネルギーだし、性能もすごいロケットパンチだが、それゆえに兵器としてはイマイチである。

いずれもっと科学が進歩すれば、『マジンガーZ』のロケットパンチも実現に至るのか……、いや、こんなスゴイ兵器は、いつまでも実現しないほうがいいですね。そう考えれば、ロケットパンチの使い勝手の悪さは喜ぶべきことなのだ。たぶん。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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