Yahoo!ニュース

『ぐりとぐら』の大きなカステラ! 2人が作ったあのお菓子は、どれほど大きかったんだろう?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

ベストセラー絵本『ぐりとぐら』の初版は、いまから59年前の1963年!

筆者が子どもの頃から、本屋さんで平積みになっていて、いまも多くの書店で平積みである。

もちろん子どもの頃に読んだけど、もう手元にはなくなっていたので、あらためて本屋で購入したところ、それは2021年9月の印刷で、なんと237刷。オソロシイ本ですなあ。

数十年ぶりにこの本を買ったのは、『ぐりとぐら』に出てきた「かすてら」について考察したいと思ったからだ。

あのお菓子は、とても大きくて、モーレツにうまそうに見えた!

マンガやアニメのなかの食べ物を「おいしそう……」と感じることは多々あるが、筆者にとってその最初の体験は、この『ぐりとぐら』だった気がする。同じような思いの人も、たくさんいらっしゃるはずだ。

今日の研究レポートは、子どもの頃から気になって仕方がなかった『ぐりとぐら』のカステラが、どんな大きさだったか……を考えてみたい。

◆卵の大きさを知りたい

それは、こんなお話であった。

野ねずみのぐりとぐらが「ぼくらの なまえは ぐりと ぐら」と歌いながら森へドングリやクリを拾いに行ったら、大きな卵が落ちていた。

大きすぎて持ち帰れないので、家から材料と道具を持ってきて、その場で調理を始める。焼けてくると、いい匂いがして、森じゅうの動物が集まってきた。焼き上がったカステラのおいしかったこと!

ああ、いま読んでもやっぱりおいしそうなお菓子である。

材料になった卵は、持ち帰れないほど大きかったというが、具体的にはどんなサイズだったのだろう?

この場合、比較の対象になるのは、ぐりとぐらの体の大きさだ。よってまずは、彼らがどんなねずみなのかをハッキリさせたい。

森に棲むノネズミには、アカネズミとヒメネズミがいて、大きさや行動形態が違う。アカネズミのほうが大きく、地上で暮らすのに対して、ヒメネズミは樹上で生活する。

『ぐりぐら』シリーズの他の絵本を読むと、『ぐりとぐらとくるりくら』では「てながうさぎ」のくるりくらにつかまって、木に登らせてもらっている。ヒメネズミは木登りが得意だから、するとアカネズミだろうか。

また『ぐりとぐらのえんそく』では、ほどけた毛糸を巻き取りながら、5つの見開きにわたってかなり長い距離を歩いている。1kmは歩いた印象で、するとこれも1日に数kmを移動するアカネズミの特徴だ。

よってここでは「ぐりとぐらはアカネズミ」と考えよう。

東京ズーネットの『どうぶつ図鑑』によれば、アカネズミの体長は83~140mm、体重は20~72g。

ぐりとぐらは子どもと思われるので、どちらも最小の体長8.3cm、体重20gと仮定しよう。ヒジョ~に小さくて軽いヒトたちである。

そして、ぐりとぐらが卵を持ち上げようとしている絵で測定すると、卵の長径は、ぐらの体長の2.66倍。つまり22.1cmだ。

短径も同じように測定&計算すると、15.8cmとなる。

これはデカい!

筆者が自宅の冷蔵庫から卵を取り出して測ると、長径6.3cm、短径4.6cm、重さ63gだった。ぐりとぐらが見つけた卵は、体積がその42倍もあるのだ。

すると重さも42倍で、2.64kg。いったい何の卵なんですかなあ。

最初2人は、この卵を持ち帰ろうとして、アレコレ検討していた。

ぐらが「かついで いこうか?」と言うと、ぐりが「つるつる すべって、おちてしまうよ」と答える。ぐらが「ころがして いこうか?」と言うと、ぐりが「いしに ぶつかって、われてしまうよ」と答える。

あのう、滑るとか、割れるとか以前に、重さがすごくないですか。

2.64kgの卵を体重20gの2人が運ぶのは、体重50kgの人が2人で6.6tの大型トラックを運ぼうとするのと同じである。ちょっとムリだと思います~。

◆カステラは人間126人分!

賢明にも、2人は運ぶのを諦める。

そして家から「いちばん おおきな おなべ、こむぎこ、ばたー、ぎゅうにゅう、おさとう、ぼーると あわたてき、えぷろんを 2まい、まっち、りゅっくさっく」を持ってきて、その場でカステラを作ったわけである。

さて、そのカステラの大きさを考えたいが、ここでスバラシイ本を発見した。

『ぼくらのなまえはぐりとぐら 絵本「ぐりとぐら」のすべて。』(福音館書店)という本で、なんとカステラのレシピが載っている!

材料は絵本とまったく同じで「卵2個、卵黄1個分、グラニュー糖65g、薄力粉(ふるう)65g、牛乳大さじ1(柳田注:15mL)、無塩バター15g」とある。これで、直径18cm、写真での見た目では厚さ6cmほどの丸いカステラができるという。

しかし、ここまで見てきたように、ぐりとぐらが入手した卵はもっと巨大だから、このレシピの材料ではまったく足りない。

本のレシピを「レシピA」とするなら、ここでは、巨大卵に応じた分量の「レシピB」を作成する必要がある。

手元の卵で測定したところ、卵黄の重さは「卵の中身の3分の1」だった。

するとレシピAの「卵2個、卵黄1個分」とは、卵を「2と3分の1個」使うことになる。ぐりとぐらの卵は普通の卵42個分で、これは「2と3分の1個」の18倍だから、他の材料もすべて18倍にすれば「レシピB」が完成するはずだ。

結果を記すと「大きな卵1個、グラニュー糖1.17kg、薄力粉(ふるう)1.17kg、牛乳270mL、無塩バター270g」。これでカステラを作ると、その直径は47.1cm、厚さは15.7cm。うおおっ、デカイ!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

レシピAの直径18cmのカステラは、6~8人分だという。

中間の7人分とすると、その18倍の材料を使うぐりとぐらのカステラは、7×18=126人分!

これは驚いた。体長8.3cm、体重20gのぐりとぐらが、人間でさえ126人が食べられるカステラを作ったのである!

◆ぐりぐら4万4千匹分!

するとこのカステラ、ぐりとぐらにとっては、何人分なのか。

人間の体重を50kgとすると、ぐりとぐらの体重20gは、その2500分の1だが、2人が食べる量は人間の2500分の1にはならない。ティーカップの紅茶が、お風呂のお湯より冷めやすいように、体が小さいと、体から熱がドンドン逃げていくため、それを補うために、小さな動物ほど体重に比べてたくさん食べる必要がある。

計算してみると、体重が2500分の1のぐりとぐらでも、食べる量は350分の1にしかならない。あのヒトたち、意外と大食いなのである。

それでも、人間126人分のカステラは、ぐりとぐらにとって、126×350=4万4100人分!

こんなに作って大丈夫か、と心配になるけど、大丈夫だろう。カステラの焼けるおいしそうな匂いで、森の動物たちが集まってきたからだ。

ゾウ、ライオン、クマ、イノシシなどの大型動物から、カニ3匹、トカゲ4匹などの小動物まで、ぐりとぐらを合わせて総勢31匹! これだけいたら、人間126人分のカステラぐらい、あっという間に平らげたのではないかなあ。

カステラが巨大すぎてびっくりしたけど、長年気になっていた問題を考察できて、ワタクシは幸せです。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

柳田理科雄の最近の記事