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『HUNTER×HUNTER』で、怒りと悲しみでゴンの髪の毛がグーンと伸びた。何が起こったのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

2022年に期待したいことの一つは、『HUNTER×HUNTER』の連載再開だ。

この、キャラも世界観もバトルも頭脳戦も魅力的な作品の連載が始まったのは、1998年。それから20年以上経つけど、連載→休載→連載→休載を繰り返し、2018年11月以降は休載が続いている。

クラピカ乗船のブラックホエール号で繰り広げられている王位継承戦は、いったいどうなるんだっ!? 続きを読ませてくれっ!

――と切に願うのだが、2022年のお正月現在、まだ再開されていない。仕方がないので、ここでは「キメラアント編」でゴンが発現させた「念」能力について考えたい。

念は、体からあふれ出す「オーラ」と呼ばれるエネルギーを自在に操る能力のことで、「強化系」「変化系」「放出系」など6つがある。

主人公のゴン・フリークスは「強化系」で、巨大な岩を粉々にする「ジャンケン・グー」などを体得している。クラピカは「具象化系」で、手からオーラの鎖を出し、キルアは「変化系」で、電気をオーラと融合させて体内に蓄え、放電する。

敵も味方もさまざまな念能力を持ち、知謀知略も駆使されて、単なる力比べを超えたバトルが展開されるのが、『HUNTER×HUNTER』の魅力である。

なかでも「キメラアント編」の終盤にゴンが見せた念能力は、すさまじいものだった。

◆髪の毛がグーンと伸びた!

その力が発現したのは、命の恩人で、自らの目標でもあったハンター・カイトの死を知ったとき。

ゴンのなかには「自分が弱かったせいでカイトが死んだ」という思いが渦巻き、するとその体に異変が起こった。

みるみる身長が伸びて筋肉隆々になり、髪の毛も伸びて、なんと身長の3倍ほどになった!

しかもその髪は、天に向かって垂直に立っている! 「怒髪天を衝く」という言葉があるけど、まさにそれ。

いったい何が起こったのだろう?

この現象を目の当たりにした敵のピトーは独白した。「方法はわからないが、強制的に成長したんだ……!! ボクを倒せる年齢(レベル)まで!!」。

駆けつけた親友のキルアも、息を呑んで独白する。「何年…!? 十数年!? 何十年!? 絶え間ない修行を経てようやくたどり着くはずの姿!!」。

2人の言葉を総合して考えると、悲しみと怒りと自責の念に駆られたゴンは、それゆえに急激な成長を遂げ、何十年も修行を積んだほど筋肉が発達して、髪も伸びた……ということだろう。

しかし、そんなことがあり得るのか。

「ツラい経験を乗り越えた人間が一皮ムケる」という話は聞くけど、普通それは精神的な話。ゴンの場合は、念能力でそれが肉体にも及んだ……のだろうか。

◆修行36年分の大成長!

とりわけ筆者が気になるのは、髪が異常なほど伸びたことだ。

具体的にどれほど伸びたのか。このときゴンの身長が180cmになっていたとすると、その3倍ほどもある髪は実に5.4m!

それまでの髪は15cmほどだったから、5.25mも伸びたことになる。キルアも驚いていたが、何年分の成長をすればこれほど長くなるのだろう。

人間の髪は1日に0.4mm前後伸びるという。

ということは、5.25m伸びるのにかかる時間は1万3100日=36年!

つまりキルアの言う「何年…!? 十数年!? 何十年!? 絶え間ない修行を経てようやくたどり着くはずの姿!!」は、具体的には「36年間の絶え間ない修行を経てようやくたどり着く姿!!」ということになる。

36年とは、12歳のゴンが48歳になるまでの期間だ。長い。

たとえば、毎日100回の腕立て伏せやスクワットや腹筋運動を36年間続けたら、それぞれ合計131万回。

それだけ鍛えたら、モーレツに強くなるだろう。ピトーも恐れをなして当然かもしれない。

◆どんな髪の毛なのか?

それにしても5.4mもの長髪がまっすぐ上に伸びるのはすごい。

棒状の物体が湾曲に抵抗する力は、太さが同じ場合、長さの2乗に反比例する。また、長さが同じとき、円柱形の物体が湾曲に抵抗する力は、直径の4乗に比例する。

一般人の髪の直径が0.1mm、直立限界が3cmだとしたら、5.4mにまで伸びたゴンの髪が自重に負けずに屹立するには、1本の太さが1.34mm必要である。

シャーペンの芯が0.5mmとか、0.9mmだから、それより太い。

日本人の髪の本数は10万本といわれるが、そんなに太い髪が10万本で、しかも長さが5.4mとなると、重さは763kg。大きい牛ぐらい!

頭がそんなに重かったら、36年分強くなったとしても、ちょっと戦いづらいのでは……。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

などと些末なことをアレコレ考えるのも楽しいんだけど、うーん、やっぱりマンガの続きを読みたいなあ。

この春にはユニバーサルスタジオジャパンでの『HUNTER×HUNTER』コラボ企画がスタートするなど、周囲はどんどん盛り上がっている。

近いうちに、少年ジャンプでの連載も再開するに違いない。2022年の『HUNTER×HUNTER』に期待したい!

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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