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記録更新! アニメや特撮の最強キャラは、戦隊シリーズ『天装戦隊ゴセイジャー』に登場していた!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

皆さまに重大な報告があります。

ワタクシは以前『キン肉マン』の脇役ステカセキングについて考察して、「彼の必殺技『悪魔のシンフォニー』こそ、空想科学の世界で最強だ」と述べました。

悪魔のシンフォニーとは「相手の耳に100万ホーンの音を聞かせる」という技で、100万ホーンという音の持つエネルギーは10⁹⁹⁹⁸⁸ジュール。この宇宙を作ったビッグバンのエネルギーが50⁷²だから、それよりはるかにすごい。

ってことは、ステカセキングが「悪魔のシンフォニー」を発動したら、キン肉マンはただちに敗れ去り、それどころか地球や太陽系や銀河系が消滅し、いやこの宇宙そのものが一気に吹き飛んで、同時に10⁹⁹⁸¹⁶個もの新たな宇宙が誕生する……という恐るべき事態を予想したのである。

筆者は四半世紀にわたってマンガやアニメなどの現象をたくさん考察してきたが、ステカセキングを上回るエネルギーを持つ者は他にいなかった。よって、もうこのまま彼の地位は安泰か……と思い始めていた。

ところが今回、彼を上回りそうなすごいエピソードを知ってしまったのだ。

◆地球全土に届く騒音

それは『天装戦隊ゴセイジャー』。2010年に放送されたスーパー戦隊シリーズの第34作で、その第4話にトッケリク星人「ミューズィックのマズアータ」という敵キャラが登場する。

彼は天才を自任するミュージシャンで「激烈にヤバいミューズィックを聞かしてやるぜ!」と、大音響で不快な演奏をして地球人を苦しめていた。

そこらへんまではまだカワイイ話だったのだが、宇宙虐滅軍団ウォースターブレドランが「ならば、そのためのステージを用意しよう。地球を揺さぶり、震わせ、一挙に打ち砕く、地球最高にして最後のステージを!」と介入する。

そして、マズアータのステージ会場に、音楽の増幅装置を設け、パラボラアンテナから空に向かって音波を放った。

驚いたのは、その効果だ。

邪悪な音響に苦しむニューヨーク(背後に自由の女神)、ケニア(同アフリカゾウ)、パリ(エッフェル塔)、北京(皇帝と侍女の服装)、エジプト(ピラミッドとスフィンクス)の人々……。

なんと本当に世界が危機に陥ってしまった!

地球の裏側まで届くとは、どんなに大きな音を放ったのだろうか。

◆距離と音の関係は?

距離が遠いほど音が小さくなる理由は二つで、①「広い範囲にエネルギーが拡散する」と②「空気にエネルギーが吸収される」。

ここでは、東京からニューヨークまでの例を考えてみよう。

まずは①。音はドーム状に広がり、音の大きさは「ドームの面積当たりのエネルギー」で決まる。ドームの面積は「距離×距離」に比例するので、音の大きさは「距離×距離」に反比例する。

ただしニューヨークとなると、地球の丸みが無視できず、計算はやや複雑になる。音が地上10kmまでの対流圏(大気の99%がこの層にある)を伝わっていくと仮定して、結果だけを示すと、ニューヨークで聞こえる音は、距離10mで聞こえる音の6億分の1だ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

続いて②。音は、高いほどエネルギーが吸収されやすい。近くの雷の音が「ピシャーン!」と高いのに対して、遠いと「ゴロゴロゴロ……」と低くなるのもこのためだ。

エレキギターから出る1000Hz(空気が1秒に1000回振動する)の音なら、100m進むごとに、エネルギーは9.218%が吸収されて、90.782%になる。

すると、1km進めば「0.90782倍」が10回繰り返されて38.02%に。10km進むと「0.3802」倍が10回繰り返されて、0.0063%に。これを繰り返して、ニューヨークまでの1万869kmとなると、なんと10⁴⁵⁶⁴⁹⁸⁰分の1。

◆さあ、宇宙1位は誰だ!?

大変なことになってまいりました。両方合わせた効果は、①×②=60⁴⁵⁶⁴⁹⁸⁸分の1。

ニューヨークで、ジェット機のエンジン音ほどの音(1m²あたり1W。音のエネルギーは意外に小さい)が鳴り響いたとすれば、増幅装置から10mの地点では、1m²あたり60⁴⁵⁶⁴⁹⁸⁸Wの轟音が炸裂したことになる。

詳細は割愛するが、増幅装置が1秒間に放った音のエネルギーは40⁴⁵⁶⁴⁹⁹¹ジュールだ。

デカい数字が続出して、ワケがわからなくなってきたかもしれませんが、さあ、ここで冒頭のステカセキングと比較してみましょー。

悪魔のシンフォニーのエネルギーは10⁹⁹⁹⁸⁸ジュールであった。それに比べると、マズアータの40⁴⁵⁶⁴⁹⁹¹ジュールは桁が446万5003も上回る。 なんと、ステカセキング以上にマイナーなマズアータ(&増幅装置)が宇宙最強に!

と思ったら、劇中では、エリ(=ゴセイピンク)が歌い、アラタ(=ゴセイレッド)がその歌をスカイックパワーで世界に送ると、マズアータの騒音はかき消され、世界に平穏が戻ったのでした。

かき消したってことは、エリの歌はマズアータの騒音より大きかった!? ってことは、宇宙1位はゴセイピンク!?

それはそれで意外な結論であります。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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