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47年前の今日、放送が始まった『宇宙戦艦ヤマト』。イスカンダルへの旅を、相対性理論で考える。

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

『宇宙戦艦ヤマト』の放送が始まったのは、1974年の10月6日だった。

舞台は、西暦2199年。ガミラス星人の遊星爆弾攻撃で地球は汚染され、滅亡のカウントダウンが進むなか、人類は大マゼラン星雲まで「放射能除去装置」を取りに行くという一大プロジェクトを敢行する。

向かうのは、昭和初期の戦艦大和を改造した宇宙戦艦。目的地は、地球から14万8千光年離れたイスカンダル星。残された時間はたったの1年。――絶望的としか思えない旅であった。

そんな旅が成功したのは、沖田艦長のリーダーシップや、島大介の冷静さや、真田志郎の頭脳や、古代進の運のよさなど、原因はいろいろ考えられる。

なかでも、技術的に大きかったのは「ワープ」であろう。イスカンダル星から波動エンジンの設計図を提供され、地球の宇宙船として初めて実現した「光速を超える航行技術」だ。

本稿では、これについて空想科学的に考察してみたい。ワープ航法が可能になれば、はるか14万8千光年の旅も難しくはないのだろうか?

◆光の速さの29万6千倍!

大マゼラン星雲のイスカンダル星まで14万8千光年。往復では29万6千光年。

光の速さで進んでも29万6千年かかる距離である。総延長280京kmであり、もし時速320kmの東北新幹線はやぶさで往復しようものなら、帰ってくるのは9980億年後だ。

それほどの距離を、ヤマトはわずか1年で往復せねばならない。それは可能なのか?

アインシュタインの「特殊相対性理論」によれば、物体がどれだけ加速しても、光速を超えることはできない。それは「光速に近づくとエネルギーが急激に増大し、光速では無限大になる」から。つまり、どれほど大きなエネルギーを注ぎ込んでも、決して光速には到達できない、というわけだ。

ただし、特殊相対論は、次のことも明らかにしている。「光速に近づくと、運動している物体の時間の進み方は遅くなる」。

つまり、ヤマトが光速ギリギリまで加速すれば、ヤマト艦内の時間の進み方はとてつもなくゆっくりになる、ということだ。

計算してみると、光速の99.99999999943%で航行すれば、時間の進み方は29万6千分の1になり、ヤマトは1年で帰ってこられることになる。おお、すばらしい。

あ。いや、すばらしくない。時間の進み方が遅くなるのはヤマトの艦内だけ。ヤマトに乗っている人々にとっては1年しか経たなくても、肝心の地球ではその間につつがなく29万6千年が経ってしまうのだ。

ヤマトが帰ってくる頃には、人類はとっくに滅亡している! その後、地球にはガミラス星人たちが移り住んで繁栄しただろうけど、そのガミラス星人たちもどうなっているやら……というほどの悠久の時間である。

◆成否を分けるのは「通常航行」

次元波動エンジンとワープについては、第4話で科学班の真田さんが解説してくれた。イスカンダルの技術が、特殊相対論を超越する航海術を生み出したわけだが、とはいえ波動エンジンも万能ではない。

1回のワープでイスカンダル星まで行けるわけではなく、ワープで飛べる距離には限界がある。また、1度ワープするとしばらくワープはできないようで、劇中では「1日に2回ワープをする」と言っていた。なかなかキビシイ制限があるのだ。

連続ワープができない以上、ワープと通常航行を交互に繰り返しながら進むしかない。ワープは一瞬で終わるから、1年のほぼすべては通常航行に費やされることになる。

ヤマトの通常航行の速度は、光速の99%とされていた(『宇宙戦艦ヤマト全記録集』/オフィス・アカデミー)。すると、1年のうちのほぼすべてを通常航行で進んだとしても、進める距離はわずか0.99光年!

残る29万5999.01光年は、ワープで進むしかない。つまり、ヤマトの旅は「ほとんどワープ頼り」ということだ。

すると、あってもなくてもよさそうな通常航行だが、実はこの地道な歩みこそが、ヤマトの旅の成否を分ける。

前述したように、光速に近い速さで運動すると、時間の進み方が遅くなる。光速の99%で航行した場合、時間が進むペースは外の世界の7分の1だ。

裏を返せば、ヤマトが1日しか通常航行していないつもりでも、地球の時間では7日も経っていることになる。

つまり、地球の時間で1年以内に帰ってくるためには、ヤマトとしては52日で旅を終えなければならない!

これは忙しい。テレビシリーズ全26話を見ると、実にさまざまな事件が起こっている。

ガミラス艦隊と戦ったり、途中の星で食料を調達したり、宇宙の嵐で3週間も足止めを食ったり、沖田艦長の手術が行われたり、宇宙に飛び出した相原を探しに行ったり、藪がクーデターを起こしたり、アナライザーが森雪に恋をしたり……!

たった52日間で、そんなにいろいろなことをやっているヒマがあるのか!?

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

すると、もっと急ぎたくなるのが人情だが、それは逆だ。スピードを上げると、使える時間はますます短くなる。

このたびの旅においては、急げば急ぐほど、かえって時間がなくなるという不条理こそが真理なのだ。宇宙の旅は本当に厄介である。

いっそのことヤマトは、通常航行のときは、戦艦大和の最大速力と同じ時速51kmくらいで進んではどうだろう。

そうすると1年かかっても44万7千km=0.0000000472光年しか進めないが、地球と同じ1年をまるまる使えることになる。通常航行では、どうせちょっとだけしか進めないのだから、慌てなくてもよいではないか。

急ぐときほど、心に余裕を。お、なんだか人生にも役立ちそうな教訓。さすが、わが青春の『宇宙戦艦ヤマト』である。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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