こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

『戦国BASARA』シリーズには、実在した戦国武将たちが登場するけど、その能力は人間離れしている!

たとえば、豊臣秀吉は1537年、尾張の生まれ。小柄で、織田信長には「猿」とも呼ばれたが、人心掌握にすぐれ……というのは現実の秀吉だ。『BASARA』世界における豊臣秀吉は、身長が3mほどもあって、猿というよりゴリラのような風貌で、世界征服をも見据えつつ、天下統一を目指して、毛利元就と組んで長曾我部元親を攻める。元親も負けじと、口径11尺(3m30cm)の主砲を持つ巨大戦艦「富嶽」で迎え撃つ!

わはははっ、豪快ですなあ。史実の秀吉は毛利元就と組んでいないし、元親が3m砲の巨大戦艦を持っていた事実もない(史上最大の戦艦大和の主砲が46cmだし……)。でも、そんなコトを言い出したら『戦国BASARA』は楽しめませんぞ。

話の続きを書くと、戦艦富嶽の砲撃を受けた毛利の船はひとたまりもなく、次々と撃破される。

ここで登場、豊臣秀吉。何をするかと思いきや、海に入って拳を振り上げ、パンチを一撃!

すると、海面が裂けて巨大な水しぶきが上がり、海底が露出する。そして陸地も同然となった海底を、豊臣・毛利の大軍が進撃していく……。

これに驚く真田幸村に、配下の猿飛佐助は言う。「豊臣秀吉が拳(こぶし)一つで干上がらせちまったのさ」。

いや、「干上がらせちまったのさ」と冷静に説明するヒマがあったら、もっと驚いていただきたい。いまキミの目の前で、瀬戸内海がなくなっちゃったんだよ!

◆海の水はどこへ行った?

路上の水たまりをバシャッと手で叩けば、水しぶきが上がり、底が露出するだろう。でもそれは一瞬で、水はすぐに戻ってきて、水たまりは元どおりになる。パンチと水たまりの関係はそういうものだ、普通は。

ところが、秀吉がぶっ叩いた瀬戸内海は、海底が露出したまま陸地と化した。

海水はどこに行ったのだろうか?

佐助は「干上がらせた」と説明していたが、池などが「干上がる」とは、水が蒸発することをいう。それには長い時間がかかるのが普通だが、この場合は一瞬で蒸発したのだろう。恐るべき話だ。

パンチを打つ→水が蒸発する、という現象が起こり得るとしたら、パンチの運動エネルギーが熱に変わった場合である。金槌で釘を叩くと、金槌も釘も熱くなるように、パンチによって発生した熱が、海水を蒸発させた……のではないか。

それには莫大なエネルギーが必要だ。たとえば1tの乗用車が高度100mから落ちてきたとき、そのエネルギーで蒸発する水は、わずかコップ2杯分なのだ。

すると、瀬戸内海を干上がらせたパンチのエネルギーは?

瀬戸内海は、面積2万km²、平均水深31m。ここから計算すると、湛える海水は6400億tほどだろう。そのうち200億tが塩で、6200億tが水だ。

海水の温度を15度とすれば、これだけの水を蒸発させる熱とは、石油360億t分。運動エネルギーに換算すると、直径1.3kmもある小惑星が激突したのと同じ! 舞い上がる粉塵が太陽光線を遮り、地球の生物は滅亡の危機に瀕しても不思議ではない。秀吉のパンチは、そんなレベルなのだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

いくら身長3mとはいえ、そんなパンチが打てるのだろうか。

第69代横綱白鵬(192cm、157kg)を基準に計算すると、身長3mの秀吉の体重は600kg。この巨体から繰りだされ、右のようなエネルギーを持つパンチの速度とは、光速の99.99986%! あまりにもスゴイ。

◆天下統一か、天下滅亡か

とんでもない話になってきたが、気になるのは瀬戸内海のその後である。

秀吉のパンチが打ち込まれ、海水が蒸発したということは、あとには塩が残ったはずだ。その塩の厚さはなんと1m。瀬戸内海名産のカタクチイワシ、アナゴ、アサリなど400種の魚介類が塩漬けになったのは間違いなく、それは意外においしいかも……。

呑気なことを言っている場合ではなかった。蒸発した水は、いつか雨となって降ってくる!

6200億tの雨が瀬戸内地方に降ったとすると、降雨量は1万5千mm。年間降水量の10倍だ。せっかく征服しても、人も家も田畑も流されてしまうだろう。

それだけではない。秀吉のパンチのエネルギーは、最終的に熱に変わる。熱の総量は、筆者の計算では石油1580億t分で、これは世界で消費されるエネルギーの11年分だ。

これほどのエネルギーが放出された結果、全世界の気温は1.4度上昇する。秀吉は戦国時代に、たった1人で地球温暖化を引き起こしていた!

だが、そうなるのはパンチを放ってから何年も先の話である。熱は、瀬戸内海を中心に徐々に広がっていくからだ。

その熱が、瀬戸内地方を覆う半径250kmに広がったとき、あたりの平均気温は3600度上昇する。敵も味方も全滅するどころか、中国四国地方の陸地が溶けてしまうだろう。その後、熱が日本全土に広がった段階でも、気温は160度も上昇。全国津々浦々、蒸し焼き地獄だ。

やがて、地球の裏側のヨーロッパの人々が「なんだか最近、暖かいなあ」「どうもジパングに近づくほど暑いらしいぞ」と噂することになるだろう。

そこで船乗りたちが行ってみたら、黄金の国は滅びていて、恐ろしげな巨漢が一人立っていた……などという悲劇も考えられる。

瀬戸内海を干上がらせるパンチとは、これほど恐ろしい。

日本を統一しようとして日本を滅ぼすのだから、本末転倒にもホドがある。このワザ、秀吉には絶対に封印していただきたい。