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『怪獣8号』が描く「怪獣の死体処理」。実際どれほど大変な作業なのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の報告レポートは……。

『怪獣8号』のコミックス第4巻がいよいよ発売だ! 戦力全解放92%になった保科宗四郎副隊長はどれほど強いのか!? など気になることが多々……。

とは思うものの、先を急がずに、まずは作品の基本設定を考えてみたい。このマンガは本当に面白いうえに、空想科学的にも興味深い設定がいろいろあるのだ。

舞台は、怪獣が多発する日本。主人公は、日比野カフカ。彼はかつて「日本防衛隊」に入って、怪獣を倒すことを目指していたが、夢を叶えられぬまま32歳になり、怪獣専門の清掃会社で働いていた。

ある日、防衛隊の募集年齢枠が広がることになり、32歳でも応募が可能になった。それを知り、もう一度チャレンジしようと決意したとき、カフカの口に謎の生物が飛び込んで、なんと彼は怪獣になってしまう!

――という始まりからして、もうワクワク満載だが、ここで注目したいのは、この作品における「怪獣」の存在感だ。

防衛隊が怪獣を倒すと、その死体は専門の清掃会社が処理していた。主人公のカフカが働いていたのもその一つ「モンスタースイーパー株式会社」だ。

そこでの作業はかなり重労働に見えたが、実際どれほど大変なのだろうか?

◆トラック750台が出動!

倒された怪獣の処理が大変そうなのは、怪獣が巨大だからだ。

最初に登場した怪獣は、巨大なトカゲのような姿で、コマの描写から、顔の幅は10mほど、全長は推定100mくらいと思われる。コモドオオトカゲ(全長250cm、体重47kg)を元に計算すると、体重は3千tほどだろう。これを解体して運ぶには、4t積みトラック750台が出動せねばならない。

そして、それ以前に解体が容易ではない。

カフカたちは、かなりていねいに作業を進めていた。作中に出てきた専門用語を列挙すると「腕部肉剥ぎ」「骨洗浄」「脚部解体」「腸作業」。もう解体というより解剖である。

人間には200本の骨と400本の骨格筋がある。皮膚や臓器や神経まで入れれば、数えきれないほどになる。

怪獣の体も、これに匹敵する数のパーツでできているだろうから、1000個くらいに分けるのだろうか。その場合でも1個平均3t! まだまだ大きい。

現場には重機があまり見られず、ほとんど手作業で進めている様子だったから、たとえば1個50kgほどに細分化するとしたら、分かれるパーツは6万個! 100人がかりでも、1人600回も運ぶ必要がある。

カフカも現場で「マジで今週中に終わるのかよ……」とため息をついていたが、実際モノスゴク大変だと思う。

筆者が気になるのは、怪獣の血液などの処理だ。

人間の血液は、体重の13分の1を占めるが、この割合が怪獣も同じなら、血液だけで231tもある。これをそのまま下水に流すのはマズいから、環境保全のためにはバキュームカーの出動を要請したいところだ。

また腸の内容物も、筆者の計算では12.5tもあると思われる。これにも、もちろんバキュームカーが欠かせない。

では、怪獣が出現した横浜市がどんなバキュームカーを保有しているかというと、最大のもので容量6.6tだという。231t+12.5tを処理するには、このバキュームカーが37台必要になる。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

――すべてがこの調子で、本当に大変。怪獣専門清掃業者の皆さんには、心から「お疲れさま」と言いたい。

◆フォルティチュードとは?

もう一つの注目は、作中で怪獣たちの脅威が、まるで「地震」のように描かれていたことだ。

怪獣出現を知らせるテレビは「神奈川県横浜市に、怪獣が発生しています。周辺地域の住民は、直ちに命を守る行動をとってください。フォルティチュードは6。発生波による津波の心配はありません」(句読点は筆者)と報道していた。

冷静に考えれば、確かにそうなるだろう。もし本当に怪獣が出現したら、市民は避難するほかはないし、その脅威を数値化しようと考えるのも自然なことだ。

しかしこの「フォルティチュード」とは何だろうか?

連想されるのは、地震の規模を表す「マグニチュード」だ。マグニチュードは変わった単位で「エネルギーが31.6倍になったときに、マグニチュードは1増える」というルールになっている。この場合、たとえば、マグニチュード5の地震と、マグニチュード5.1の地震では、後者のエネルギーは1.4倍も大きいことになる。

もしフォルティチュードが、マグニチュードと同じルールで「怪獣の強さ」を表す単位だとしたら大変だ。

作中では、フォルティチュード8以上の怪獣を「大怪獣」と分類していたが、それは最初に出てきたフォルティチュード6の怪獣よりも、31.6×31.6=1千倍も強いことになる!

最初の怪獣がビル10棟を壊すようなヤツだったら、大怪獣は1万棟もぶち壊してしまうということだ。

では、われらが怪獣8号はどうかというと、その強さはさらにすごい。

カフカが怪獣8号に変身したとき、防衛隊の計測器が、超高エネルギーを感知して、なんと「フォルティチュード9.8」を表示したのだ。第3部隊の保科副隊長は、その数値を「故障」と即断した。そうでなかったら、歴史に残る大怪獣だという。

そう思うのも無理はない。カフカのフォルティチュード9.8は、最初の怪獣のフォルティチュード6より3.8も大きい。マグニチュードと同じルールだった場合、強さはなんと50万1187倍!

つまり怪獣8号は、最初に現れた怪獣50万匹分の強さを持っているのだ。

それほど強い怪獣8号=カフカだが、もちろん次々とピンチに見舞われ、目が離せない展開が続く。今後がますます楽しみな『怪獣8号』だ。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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