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『イナズマイレブン』の「サッカーの試合に負けた学校は、校舎を壊される」という問題を真剣に考えてみた!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

レベルファイブの新作『メガトン級ムサシ』がこの秋に始まるというので、ヒジョ~に楽しみだ。驚きいっぱいの世界を見せてくれるに違いない。

筆者にとって、レベルファイブは『イナズマイレブン』の印象が絶大で、あの世界を知ったときの衝撃は忘れらない。

炎とともにボールを蹴ったり、分身してボールを奪ったり、ゴールの前に巨大な手が出現したり……! 常識を超えたプレーが次々に登場。オドロキと爆笑に満ちた「超次元サッカー」であった。

しかも、そんな超次元的なコトが起こるのは、試合中ばかりではなかった。アニメ版『イナズマイレブン』第1話では、すごい世界観が描かれた。

全国中学サッカー大会で40年間優勝を続ける超強豪校・帝国学園。その強烈なシュートが相手チームの選手たちをはじき飛ばし、地面を深々とえぐる。

試合終了のホイッスルが鳴ると、13-0で圧勝した帝国学園の総帥・影山零治は、相手の学校の校長に言う。「お前たちは敗れた。帝国のやり方は覚えているな」。

影山が「解体許可証」と書かれた紙をハラリと落とし、「敗者に存在価値はない」と言い捨てると、キャプテンの鬼道有人が「やれ!」と叫ぶ。

すると、帝国学園の旗を掲げた移動用のバスが校舎に激突! もうもうと上がる土煙のなか、校舎は次々に崩れ落ちていくのだった……。

つまり、練習試合に勝ったというだけで、相手校の校舎を破壊するのだ。しかもバスで!  まさに『イナイレ』ならではのびっくり展開だが、あまりに面白かったので、今回はこの行為について考えてみたい。

◆どれだけの学校が壊された?

よその学校の校舎を壊すなど、あまりの暴挙である。こんなことをしたら、刑法206条「建造物等損壊罪」で5年以下の懲役に処せられ……という話をしても意味がないでしょうなあ、『イナイレ』の世界で。

アニメでは、主人公・円堂守が属する雷門中サッカー部が、この帝国学園と練習試合をすることになった。

理事長の娘・雷門夏未は「試合に勝てなかった場合、サッカー部は廃部。決定事項よ」と、円堂に通達する。

あの、夏未お嬢さま、コトはそれだけで済まないよ。負けたら学校を破壊されてしまうんだよ~。

夏未お嬢さんのためにも、帝国学園がこれまでどれほどの学校を破壊してきたのか、計算してみよう。

前述のとおり、帝国学園サッカー部は40年間無敗。練習試合を年間50試合やるとすると、40年間で2千校と戦ってきたことになる。

2021年現在、東京都にある中学校は806校だから、帝国学園が都内の学校と試合をしてきたなら、1校が平均2.5回ずつ壊されてきた計算に! なんて迷惑な学校なんだ!

◆バスで校舎を壊せるか?

筆者が気になるのは、バスで校舎を壊していたことだ。鉄筋コンクリートの校舎にバスがぶつかったら、普通はバスのほうが壊れないだろうか。

だが、帝国学園サッカー部のバスには窓もなく、外観はまるで装甲車だった。全体に、むちゃくちゃ頑丈に作られているのだろう。

では、モノスゴク頑丈なバスがぶつかれば、鉄筋コンクリートの校舎が壊れるのか。

それは校舎の構造と強度によっても決まる。筆者がある中学校に頼んで測定させてもらったところ、校舎の柱は1辺90cm、壁の厚さは20cm。さらに壁の下には高さ77cm、厚さ70cmの基礎が、柱と柱のあいだに築かれていた。

帝国学園のバスは、これらを砕氷船のようにバリバリ砕き、教室の壁も床もぶち抜くのだろう。校舎を横断すると、反対側の柱・壁・基礎に突き当たるから、これらも壊さねばならん。大変な作業である。

普通に考えれば、ぶつかっては止まり、バックして再びぶつかっては止まることを根気強く繰り返すしかないだろう。このバスの運転手さんは、何の因果でこんな仕事を……と唇を噛みつつ業務に励んだに違いない。

実際にバス1台でこれをやると、どうなるだろうか。思うに、黙々と作業を続け、ギリギリで校舎を支えていた最後の柱が壊れた瞬間、梁や天井がドド~ッと崩れるのでは?

その結果、落下したコンクリートにバスは埋もれ、身動きできなくなる。ハンドルに突っ伏した運転手の胸ポケットから、家族の写真がはらりと落ちる……。

◆乗ってみたい帝国学園バス!

――などというのは、筆者の妄想にすぎません。劇中では、帝国学園のバスは、何の苦もなく校舎を破壊していた。

筆者が視察した校舎の構造と照らし合わせれば、バスは二組の柱・壁・基礎、廊下と教室の床、屋内の壁、これらを一撃でぶち抜き、校舎が崩落する前に突き抜けたと思われる。

これを実際にやるには、猛烈なスピードが必要だ。帝国学園サッカー部のバスが、公道を走行できる最大のサイズと重量だったとすれば、高さ3.8m、幅2.5m、全長12m、重量20t。バスの天井と、校舎の二階を支える梁の高低差は50cmで、崩れた二階の床が、バスの屋根に落ちるまでの時間は0.3秒しかない。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

ここから計算すると、校舎を壊したうえで、この間に走り抜けるための速度は、時速178kmだ!

ややっ。『イナイレ』とは思えないリアルな数字である。ということは、猛烈に頑丈でパワフルな20tのバスがあれば、校舎を壊すことも不可能ではないってこと!?

う~む、帝国学園のバスを称えるつもりはないが、なんだかビックリの結論になってしまった。

やはり『イナズマイレブン』の世界は油断ができない。今秋の新作『メガトン級ムサシ』も、油断ならない仕上がりになっていることだろう。楽しみだ!

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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