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『HUNTER×HUNTER』ネテロ会長の「感謝の正拳突き」は、どれほどすごい修行なのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今週の研究レポートは……。

ワタクシ、『HUNTER×HUNTER』のネテロ会長が大好きであります。

ハンター協会の最高責任者&審査委員会の会長という偉い人であり、でも単なるエロいじいさんでもあり、そうかと思えば、ゴンとキルアを相手にボールを奪い合って、片手と片足で翻弄したりもする。

相当な高齢のようで、メンチが「会長って年いくつなの?」と聞いたときには、会長秘書のビーンズが「20年くらい前から約百歳とか言ってますけど」と答えた。つまり約120歳!? 人間が生きられる限界が120歳といわれるけど、ほぼその年齢!?

キルアの祖父のゼノに至っては「あのジジイ ワシが乳飲み子の頃からジジイじゃ」と言った。ゼノは若くても70歳ほどに見えるから、すると会長は140歳!? 人間の限界を超えている! 

いろいろビックリだが、まあそれも当然で、ネテロ会長はハンター協会の歴代会長のなかでも「最強」といわれる超実力者なのだ。

たとえば、前述のゴンとキルアを手玉に取ったシーンでも、描写から計算すると、ネテロ会長の動きの速さは時速540km! 新幹線よりはるかに速い! 推定140歳なのに、シンジラレナイ!

◆修行のスピードが18倍に!

ネテロ会長のすごさには、ちゃんと理由がある。彼も最初から天才的に強かったのではなく、かつて驚異的な特訓をした時期があったのだ。

それは、46歳の冬。当時はまだ無名の格闘家だったネテロは、山にこもり、自分の肉体と武術に限界を感じて、悩みに悩み抜いたという。

その結果、たどり着いたのは「感謝」だった。自分を育ててくれた武道に恩を返したいと考え、思い立ったのが「感謝の正拳突き」。

これは、感謝の気持ちを込めて正拳突きを繰り返す……というもので、

①気を整え、②拝み、③祈り、④構えて、⑤突く。

ひたすらこれを行う。なんと、毎日1万回ずつ!

最初の日は、上記①~⑤の動作に5~6秒を要し、1万回繰り返すのに18時間以上を費やしたという。仮に1サイクルを6秒として計算すると、6万秒=16時間40分。朝6時から始めた場合、まったく休みなくやっても、夜の10時40分までかかるわけで、休憩や食事の時間も入れたら、確かに18時間かかるだろう。ナットクの数字だ。

ところが、この修行を始めて2年が過ぎた頃、1万回を突き終えても日が暮れていないことに気づいた。それが「朝6時からスタートして、夕方5時に終わった」ということなら、11時間に短縮されたわけである。2年で61%に時間短縮できたわけで、オドロキの上達ぶり!

さらに50歳を超えた頃には、1時間を切ったというからすごい。朝6時に始めた修行が、7時にはもう終了! その後いったい何をして過ごせばいいのでしょーか?

いらん心配をしている場合ではない。18時間かかっていた修業が1時間で終わるとは、スピードアップ率は18倍だ。空手の達人の正拳突きは時速40kmといわれるが、修行を始めたとき、ネテロの正拳突きも同じスピードだったとすると、その18倍とは時速720km=マッハ0.59。モーレツに強くなっている!

◆正拳突きの威力が940倍に!

ネテロ会長はその後も修行を重ね、やがて山を下りると、道場破りを試みる。

そこで正拳突きをすると、その姿は一瞬消え、床板を踏み抜いて突き終えた姿が見えた後から「パンッ」と音がした。ナレーションには「音を置き去りにした」とあるから、この「パンッ」は物体が音速を超えて運動するときに生じる衝撃波の音だろう。

音速=マッハ1は、気温15度のとき秒速340m=時速1224km。空手の達人の時速40kmの30.6倍というオドロキのスピードになったわけだ。

このときネテロは山を下りていたが、このスピードで「感謝の正拳突き」を1万回をやったら、どれだけの時間で完遂できるのだろう。

正拳の速度は30.6倍になっているのだから、時間は18時間の30.6分の1になったはずで、それすなわち35分! 山手線が半周するあいだに、正拳突きを1万回!

ということは、1分に283回! 1秒に4.7回!

「①気を整え、②拝み、③祈り、④構えて、⑤突く」1回の動作は0.21秒だー!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

本当にすごい。ここまでスピードアップした正拳突きは、威力も940倍になっているはずだ。めちゃくちゃ強い!

しかも「①気を整え、②拝み、③祈り、④構えて、⑤突く」の動作まで速くなったとしたら、日常のあらゆる動作もモーレツに速くなったのではないか。たとえば、ご飯を食べたり、トイレに行ったりするのも……。

などなど考えると、前述の「新幹線より速いじいさん」というのもナットクであります。本当にすごいじいさんで、筆者の尊敬はやまない。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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