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ノーベル医学生理学賞の受賞!「オプジーボ」の開発に貢献。オプジーボとは?

柳田絵美衣臨床検査技師(ゲノム・病理検査)、国際細胞検査士
(写真:アフロ)

オプジーボは「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる薬剤である。

■がんと免疫の関係とは?

我々の周りには、細菌やウイルスなどの病原体が無数に存在しており、常に体内に侵入してくる。

こうした病原体などから体を守っているのが免疫である。

免疫は、常に体内を監視しており、異物を見つけると、その異物を攻撃して体内から排除しようとする。

また、がん細胞も異物とみなして攻撃する。

■免疫機能を持つT細胞とは?

血液内には赤血球や白血球などが存在しており、白血球はいくつかの種類がある。

白血球の一種に「リンパ球」という血球が存在している。このリンパ球は、NK細胞、B細胞、T細胞に分けられる。

その中で、T細胞は主に異物(感染した細胞など)を見つけて排除するという、免疫機能において重要な役割を担っている。

■免疫チェックポイント機構とは?

我々の体内では毎日多数の異常な細胞も発生している。しかし、通常は免疫の力によって異常な細胞は排除されているのだ。

もともと免疫細胞には、正常な細胞を攻撃しないために、過剰な免疫が働かないようブレーキとなる「制御システム」が備わっている。これを「免疫チェックポイント機構」と呼ぶ。

■PD-L1とPD-1とは?

がん細胞は、正常な細胞からがん細胞へ変化していく中で、様々な性質を得ていく。

その性質の一つに「免疫から逃れる力」が存在する。つまり、がん細胞が、免疫チェックポイントを利用して免疫反応にブレーキをかけるのだ。その方法は、がん細胞がPD-L1というタンパク質をつくり出す。

このPD-L1が、T細胞に発現している物質(PD-1)と結合して、T細胞が働かないように「ストップ」させる信号を送る。

この信号を送ることでT細胞は攻撃をストップする。こうしてがん細胞はT細胞の攻撃から逃れていることがわかってきた。

つまり、PD-1とPD-L1が結合すると、免疫の働きにブレーキがかかり、がん細胞への攻撃ができなくなるのだ。

■オプジーボとは?

オプジーボは、T細胞のPD-1と結合して免疫の働きにブレーキがかからないようにする免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる薬剤である。

オプジーボが血液に入ると、T細胞のPD-1と結合する。これによりがん細胞とT細胞の結合が阻害されるのだ。

その結果、ブレーキが解除される仕組みとなる。

この作用によって、T細胞はがん細胞からの妨害を受けることなく、がん細胞を攻撃できるようになるのだ。

オプジーボについて

出典:ONO ONCOLOGY

■国内での承認

日本ではすでに悪性黒色腫(メラノーマ)、非小細胞肺がん、腎細胞がん、頭頸部がん、ホジキンリンパ腫、悪性中皮腫、胃がんなどのがん種が承認されている。

オプジーボ がん種別情報

出典:小野薬品工業株式会社

■免疫チェックポイント阻害剤と遺伝子検査

PD-1、またはPD-L1標的の免疫チェックポイント阻害薬によるがん治療の奏効率は、がん細胞に起きている遺伝子変異の数や頻度などに関係していると報告されている。

免疫チェックポイント阻害薬の奏効率には腫瘍遺伝子変異総量が反映される~初めて適用するがん種でも相関式で奏効率を予測~

New England Journal of Medicineより

出典:オンコロ

今後は、一人でも多くのがん患者が恩恵を受けられるようオプジーボの適応拡大に期待したい。

臨床検査技師(ゲノム・病理検査)、国際細胞検査士

医学検査の”職人”と呼ばれる病理検査技師となり、細胞の染色技術を極める。優れた病理検査技師に与えられる”サクラ病理技術賞”の最年少、初の女性受賞者となる。バングラデシュやブータンの病院にて日本の病理技術を伝道。2016年春、大腸癌で親友を亡くしたことをきっかけに、がんゲノム医療の道に進み、クリニカルシークエンス技術の先駆者として奮闘中。臨床検査専門の雑誌にてエッセーを連載中。講演、執筆活動も多数。国内でも有名な臨床検査技師の一人。

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