いま、大変興味深い動画がYouTubeにアップされ、話題となっています。

 タイトルは『安心して遊べる道は、子どもの成長にも地域の賑わいにも大切』。制作したのは、『クルマ社会を問い直す会』という市民団体です。

 この動画は、ヨーロッパが舞台で、オランダやデンマーク、スイス、イギリスなどの実例や研究結果を挙げながら、近所の道路で子どもたちが遊べるように工夫された町や、その根拠となる法律、また専門家による各種研究結果を紹介する、という内容になっています。

●動画『安心して遊べる道は、子どもの成長にも地域のにぎわいにも大切』

 長さが9分34秒ありますので、今すぐに視聴できない人のために、ここでその内容を簡単に紹介しておきたいと思います。

■遊ぶことを禁止しない道「ボンネルフ」とは?

 まず、「子どもたちが遊べる道」と聞いて、いったい何のこと? と思われた方も多いでしょう。

 これは、『歩行者と自動車の共存』を目的に街路整備が施された「ボンネルフ (woonerf)」と呼ばれる道路で、もともとは今から45年前(1976年)、オランダの住宅地で始まったものです。

 上の動画の中では、実際の道路を映しながら詳しく説明されていますが、「ボンネルフ」と指定された区域内では、一般道とは異なる交通法規が適用され、その基本的理念は次のようになっています。

<ボンネルフの基本理念>

 1.優先権を自動車に与えない

 2.道路で遊ぶことを禁止しない

 3.歩道に駐車させない

 4.高速で走れない(時速30km以下

 つまり、3輪車に乗った子どもが前を走っていたら、後続のクルマはその後をゆっくりついていく。当然、クラクションを鳴らしてもいけないのです。

「クルマ社会を問い直す会」の動画より(筆者キャプチャ)
「クルマ社会を問い直す会」の動画より(筆者キャプチャ)

 また、「ボンネルフ」ではこのような理念をドライバーの善意だけに頼るのではなく、「ハンプ」(道路に設けられたこぶのような障害)、「ボラード」(杭を打つ)、プランターを置く、などして道をジグザグにしたり狭めたりする、など、さまざまな工学的手法によって強制的に速度を抑制する工夫が凝らされています。

 ちなみに「ボンネルフ」とは、オランダ語で「生活の庭」という意味です。が、デンマークでの研究(1992年)によると、ボンネルフ導入の前と後では、クルマの走行距離あたりの交通事故は72%減少し、重傷事故に限定するとさらに78%減という著しい効果がみられたとのことです。

■クルマの交通量増加が住民の交流を妨げる?

 さて、今回の動画の中で特に目を引いたのは、タイトルにもあるとおり、『安心して遊べる道は、子どもの成長にも地域のにぎわいにも大切』という点です。

 これは、スイスのマルコ・ヒュッテンモーゼル博士が、チューリヒに住む5歳児を対象に、身近な道路環境が子どもたちの発育や発達に対してどのような影響を与えているかを研究し、明らかになったものです。

 ヒュッテンモーゼル博士は研究に際し、子どもたちを以下の二つのグループに分けました。

<A群>

ボンネルフ内に住んでおり、自宅の前の道で遊ぶことができる環境に住む子ども

<B群>

日本と同じように自宅前は危険であり、道で遊んではいけないという環境に住む子ども

 そして、両者の遊び時間や遊びの種類、発育や発達について詳細な検討を行いました。

 まず、A群の子どもは「2時間以上外遊びをする」という答えが半数以上だったのに対し、B群の子どもはその半数が「まったく外遊びをしない」と答えています。

 その結果、自宅近くに遊べる道があるA群の子どもは、「外遊びの時間が増え、遊びの種類と経験が豊富になり、社会性を発達させる機会が多くなる」ということが分かったのです。

「クルマ社会を問い直す会」の動画より(筆者キャプチャ)
「クルマ社会を問い直す会」の動画より(筆者キャプチャ)

 それだけではありません、その子どもの親たちも「他の親との接触が有意に多い」という結果が出ています。

 また、これも動画の中で詳しく説明されていますが、ペットの散歩、道端での会話、路上での遊び、それを見守る親、これらは全て交通量によって大きな影響を受けていることも示されています。

 イギリスの調査によると、ボンネルフと似た対策を施した「ホームゾーン」エリアでは、対策前より窃盗などの犯罪が激減したことも報告されているのです。

■家の前の道が「遊び場」だった時代

「そういえば子供のころ、道路に白やピンク色のチョークで枠を書き、片足で跳びながら『けんけんぱ』という遊びをよくやったものだなあ……」

 私はこの動画を見て、ふと、昭和の時代を懐かしく思い出しました。

 地域によっても異なりますが、クルマの台数が増えた今の日本では、いつのまにか「自宅の前の道で遊ぶなど危なくてとても考えられないもの」となってしまいました。

 この動画を作成した「クルマ社会を問い直す会」共同代表の足立礼子さんも、自身の体験をふまえてこう語ります。

「日本もモータリゼーションが訪れる前、道は子どもたちの遊び場でした。親の目が届く『家の前』は、親も子も安心できる外界、ご近所との社交場でもありました。最近ではそんなことも忘れ去られてしまいましたが、それが単なるノスタルジーではなく、子どもにとっても大人にとっても大事な空間であることを、ヨーロッパの数々の都市は実践の中で教えてくれています。そのことを、多くの人々と共有したいと思うのです」

ゾーン30と指定された道。「クルマ社会を問い直す会」の動画より(筆者キャプチャ)
ゾーン30と指定された道。「クルマ社会を問い直す会」の動画より(筆者キャプチャ)

 また、動画を作成した同会世話人の一人もこう呼びかけます。

「日本でも『ゾーン30』という、最高速度を30キロに制限するエリア対策が進められていますが、速度規制にとどまっている感があります。この動画を通して、 ボンネルフのように、車ではなく歩く人や遊ぶ子どもに優先権を持たせた真に安全な地域づくりへの理解が進むとよいと思っています。『子どもが近所の道で遊べるような社会に変えよう』という世論が広がることを期待しています」

「クルマ社会を問い直す会」が公開したこの動画で報告されていることは、決して「理想論」ではありません。現実に「ボンネルフ」の普及によって、交通事故被害をはじめとする「犯罪」を減らしている国があるのです。そのうえ、子どもの社会性が発達するという研究結果が出ているのであれば、こんな素晴らしいことはありません。

 通学路や歩道上での悲惨な事故が後を断ちません。日本でも、まずは幼い子どもや障害のある人、高齢者などの交通弱者が、安心して歩ける「道」づくりを、各自治体が足元から真剣に検討する必要があるのではないでしょうか。

<参考記事>

『子どもにやさしい道がコミュニティを育てる』

『クルマ社会を問い直すブログ』